イスラエルが攻撃続けるレバノンを日本人ジャーナリストが取材、現地で見えた悲しみと怒り【報道特集】

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2026-06-13 21:27
イスラエルが攻撃続けるレバノンを日本人ジャーナリストが取材、現地で見えた悲しみと怒り【報道特集】

アメリカとイランの戦闘終結に向けた協議が続く中、イスラエルが攻撃を続けるレバノンを日本人ジャーナリストが現地取材した。現地で見えたのは、一般市民の生々しい傷跡、そして戦争が生み出す悲しみと怒りだ。

【写真を見る】容赦ない攻撃にさらされる病院

「支援も届かず、苦しい生活」 避難民キャンプの辺り一帯にプロペラの音

6月10日。イスラエルのネタニヤフ首相はレバノン国民に向けてメッセージを発信した。

イスラエル ネタニヤフ首相
「イスラエルは国民の皆さんと戦っているのではない。ヒズボラと戦っている。ヒズボラはイランの言いなりになり、レバノンからイスラエルにテロ攻撃を仕掛けている」

映像には、レバノンの公用語であるアラビア語の字幕がつけられていた。親イランのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」を孤立させる狙いがあるとみられる。

イスラエル ネタニヤフ首相
「我々と共に歩もう。すべての子供たちのために、安全と繁栄を築こう。ヒズボラが解体されれば、可能性は無限に広がり輝かしいものとなる」

先行きが見通せない、イスラエルによるレバノン攻撃。首都ベイルートには避難民のキャンプが設けられている。

1978年にレバノン内戦を取材して以来、度々この地を訪れてきた、ジャーナリストの遠藤正雄氏が現地に入った。

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「ここに住んでいる人たちは、国が用意した公共施設に入れず、暫定的にとどまっています。支援も届かず、苦しい生活をしているようです」

ここでは85の家族が避難生活を送っているという。

辺り一帯にプロペラの音が轟いていた。

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「目視はできませんが、これはイスラエルが偵察のために飛ばしているドローンです。イスラエルが、リストにある人物がいないかどうかを探しています」

男性は妻と子ども3人の一家5人で、3か月近く避難生活を続けているという。

避難している男性
「この戦争を始めたのはイスラエルだ。ヒズボラを支持している。抵抗する戦士たち、そしてイランも、彼らがこの国を守ってくれている」

このキャンプに身を寄せる人たちが住んでいたのは、ベイルート郊外のダヒエという地区。ヒズボラの本部があることから、度々攻撃を受けている。

イスラム教シーア派組織の「ヒズボラ(神の党)」。イランから支援を受け、レバノン国軍をしのぐまで軍事力を拡大させた。ヒズボラの旗にはカラシニコフ銃が描かれている。

貧困層に教育や福祉を提供し、一定の支持を集めていることから、政党としても国会議員を輩出している。

ヒズボラが支配するダヒエに入ると、イランとの結びつきを示すような光景も見られた。

道路や街中には2026年2月の攻撃で殺害された、イランの最高指導者ハメネイ師の肖像画が掲げられていた。

爆撃された現場は…

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「ここはダヒエの中心部です。ヒズボラの本部に近く、象徴的な建物があるということで、非常に激しく、空爆されています。使われる兵器も尋常なものではなくて、大型のミサイルや爆弾が使われています。あのビルは倒れてます」

「憎しみの連鎖」を象徴するような場面にも出くわした。

緩衝地帯「イエローライン」すら越えて攻撃

ヒズボラ「精鋭特殊部隊」に所属していた戦闘員の葬儀が執り行われていた。5月24日、レバノン南部で爆撃され、死亡したという。

棺は、ヒズボラのマークが描かれた黄色い布で包まれ、運ばれていく。棺の後ろで担ぎ上げられ、遺影を掲げる少年がいた。死亡した戦闘員の息子とみられる。少年は周りの大人に促され、カメラに向かってVサインをした。

こうした殉教者の存在は、戦意高揚に繋がっている。

街中には大きな文字で、「我々は敗北しない。殉教する時は勝利する時だ」と書かれていた。

ヒズボラは、殉教者を反イスラエルの象徴的な存在としている。この地区に2025年に作られた霊廟には、既に600人もの戦闘員が祀られているという。

4月8日にレバノン侵攻を本格化させたイスラエルだが、16日にはアメリカの仲介により、レバノン政府との間で停戦合意が結ばれた。

しかし、ヒズボラが実権を握るレバノン南部では、攻撃の応酬は止まなかった。

国連は2000年にイスラエルとレバノン国境に沿って、ブルーラインを定め、現地で監視を続けてきた。

しかし、今回イスラエルはそのブルーラインを突破して侵攻した。

南部を移動中、国境を監視する国連の駐留軍の車列とすれ違った。国連軍はイスラエルの侵攻になすすべがないのが現実で、2026年いっぱいで活動を終える予定だ。

さらに、イスラエルは4月18日、既に軍が侵攻していた「レバノン南部の地域を緩衝地帯にした」と一方的に表明。「イエローライン」と呼ばれ、住民は立ち退きを求められているが、攻撃はその境界すら越えて行われている。

攻撃の実態を取材するため、レバノン南部に向かった。

「野戦病院」と化した病院 記者が見た激戦地の現実

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「この地域は頻繁に空爆があるので、ヘルメットや防弾チョッキは常時着用しないといけません。ここから南側が南レバノンで、激戦が続いている地域です」

レバノン南部の要衝、スールに入った。

ヒズボラの支配地域で、幹線道路には黄色い旗がなびく。

現在、こうした戦闘地域では、ヒズボラの許可が必要で、関係者の立会いのもと取材が認められた。

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「完全に倒壊した建物、さらにその爆風でダメージを受けたビルが見えます」

市街地の中心部は壊滅的な被害を受けていた。

爆風で吹き飛ばされ、一時意識を失ったという男性を取材中…

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「ちょうど今、そこにかなり大型の爆弾を落としてきました。被害が出ていると思います」

現場に近づいて取材しようとしたが、ヒズボラは許可しなかった。

病院も容赦ない攻撃にさらされている。

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「ここに見えるのが、空爆を受けた病院です。正面玄関は半分吹き飛ばされ、ガラスは完全に崩れ落ちています」

ヒズボラによると、この前日に病院の隣にある建物を標的にしたミサイル数発が着弾し、4人が死亡、50人以上が負傷したという。病院では…

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「爆風でかなり損傷しています。ガラスが散在してます」

病室には2024年にイスラエルの攻撃で殺害された、ヒズボラの最高指導者ナスララ師の写真が貼られていた。

ヒズボラはレバノン南部で病院を支援するなど、社会福祉にも力を入れている。

救命救急部門の責任者 アッバス医師
「パニックになる間もなかった。攻撃があった瞬間から私たちは患者を受け入れ、その数は80人以上に達しました。そのうち35人は病院の職員です。イスラエルは生命のあらゆる痕跡を消し去ろうとしています」

一命を取り留めた男性の手術が終わった。

医師や看護師は、不眠不休で治療にあたっている。そのためか…

病院職員
「おい、ムスタファ、こっちに来い。お前はどこにいたんだ。私は煙草の1本さえ吸う暇がないんだぞ」

こうした戦地の病院には、攻撃で傷ついた人々が担ぎ込まれ、通常の診療は行っていない。

「野戦病院」と化している現実がある。

「どこに逃げればいいのか」爆撃があるたびに向かう救急車 120万人が避難

ヒズボラの拠点が置かれている南部の中心地・ナバティエ。5月26日、イスラエル軍が新たに住民に退去を勧告した戦闘地域の中に位置する。

街中から人影が消えていた。

丘の上にあるのが、この町で唯一機能している総合病院だ。眼下には住宅地が広がっているが、4月には病院近くで大規模な空爆が行われた。現在は、地上侵攻の脅威も差し迫っている。

ジャーナリスト 遠藤正雄氏
「丘にビューフォート城というのがありますが、イスラエル軍はそこまで侵攻してきています」

病院のすぐ先には、この2日前にイスラエル軍が地上侵攻して制圧した、ビューフォート城がある。軍事上重要な拠点で、イスラエルのネタニヤフ首相は城の制圧を「劇的な転換点だ」と称賛している。

病院は攻撃されていないが、今働いているのは救命救急に携わる50人ほど。他のスタッフはベイルートなどへ避難したという。

──病院を運営するなかで一番の課題は?

シャフィ・ファアーニ医長
「戦争状態のため、平時のようにスタッフ全員が揃うことは困難だ。今も患者が何人か手術室の中にいる。高齢の男性の手術は、あと20分ほどで終わる」

住民のほとんどが避難し、残された高齢者らが爆撃に遭うケースが多発しているという。

運ばれてきたのは、5時間に及ぶ緊急手術を終えた73歳の男性だ。この日の朝、車を運転中にドローンから攻撃を受け、脳内出血や多数の骨折など、瀕死の重傷を負った。

シャフィ・ファアーニ医長
「彼らは行く当てが無い。この場所に残った高齢者は逃げて死ぬよりも、自分の家で死ぬことを選んでいる」

──彼はどのくらい危険な状況?10段階で最も危ない10ですか?
「10です」

──心拍数などを表示するモニターはありますか?
「ありません。モニターはもとから付いていません」

男性はさらに高度な治療が必要で、約60キロ離れたベイルートの病院に運ばれていった。

病院の前には83歳の男性が座っていた。自宅近くが爆撃され、行くあてを失って逃げてきたという。

83歳の男性
「けさの爆撃で耳をやられてよく聞こえない。爆撃で全てを失った」

取材中にもひっきりなしに爆撃音。黒い煙が立ち上った。

爆撃があるたびに病院から現場に救急車が向かい、助けを求める人を見つけては、この場所まで運んでくるのだという。

救出された女性
「神様が守ってくれたが、今朝の爆撃は異常だった。隣家の女性は爆撃で亡くなった。みんなどこに逃げればいいのか、もう疲れ切っている」

国連によると、イスラエルの攻撃でレバノン南部から避難を余儀なくされたのは、120万人と推計されている。

「4人の子どもがいる。全員戦っている」戦う家族を残し避難する人たち

レバノン南部のサイダでNGOが学校を間借りして運営する避難所を訪ねた。約650人が身を寄せている。教室では…

NGOのボランティア ガビ・ジャマルさん
「他の家族と隔てる、間仕切りのようなものを使っている」

女性が料理を作り、その横では男性が祈りを捧げていた。

教室を半分ほどの広さに仕切った空間で、一家18人が生活をしている。

NGOは、南部の人々が集まる避難所には「政府から満足な支援が届いていない」と訴えている。

ヒズボラの戦闘員として前線で戦う家族を残し、避難している人たちもいた。

親族がヒズボラ戦闘員
「うちのおじいさんには、4人の子どもがいる。全員戦っている」

息子がヒズボラ戦闘員
「心穏やかにはなれない。南に息子たちが残っている。彼らが殉教者になるのは悲しいことではない」

親族がヒズボラ戦闘員
「死がやってくる瞬間には逆らえず、イスラエルも怖くない。南レバノンの人々は死を恐れていない。イスラエルがこの土地を支配するなら、死んだほうがまし」

避難所には戦死した戦闘員の写真や、取材中に命を落としたジャーナリストの写真が貼ってあった。

NGOのボランティアであるジャマルさんは、「この侵攻を経験した若い世代がより過激な思想を持つのではないか」と危惧している。

NGOのボランティア ガビ・ジャマルさん
「イスラエルと戦う新しい世代は、今のヒズボラよりも危険で狂信的になるだろう。彼らは何も持っていない。土地も家も、未来もない。無駄死にするくらいなら『誰かを殺しに行って死ねばいい、それで構わない』と考えるようになる」

レバノンは人口約585万人で、18もの宗教・宗派が入り混じるモザイク国家だ。

アメリカCIAの推計によると、ヒズボラの支持基盤であるイスラム教シーア派、そしてスンニ派、キリスト教がそれぞれ30%程度。イスラム教の影響を受けるドルーズの人たちが約4.5%となっている。

ベイルートにある教会では、ミサが行われていた。キリスト教徒はこの事態をどう見ているのか。多くのキリスト教徒は、イスラエルの侵攻には反対していたが、ヒズボラを見る目も厳しかった。

キリスト教徒
「ヒズボラはレバノンには必要なく、支持したことなんてない。彼らはイランの手先で、イランから資金提供を受けている。ヒズボラは若い戦闘員を殉教させるだけで、見殺しにしている」

イスラム教からキリスト教に改宗
「私はイスラム教徒だったがキリスト教に改宗した。ヒズボラにはヒズボラなりの意見があるのでしょうが、レバノン人とはほど遠い存在だ」

一方、イスラエル軍が攻撃をしている場所の近くには、キリスト教徒が暮らす村も点在している。

約300人のキリスト教徒が住む村では、住民は複雑な思いを抱えていた。

キリスト教徒
「イスラム教徒とは良い関係だ。私たちはお互いの伝統を尊重し合って生活している。様々な文化があるので難しいことも多少はあるが、まあ、みんななんとか」

──この戦争についてどう思う?
「答えたくない。話したくない、政治については」

「ここで骨を埋めてもいい」レバノンに残る日本人女性

レバノンにおいて、ヒズボラとはどのような存在なのか。

ヒズボラの研究をする立命館大学の末近浩太教授は…

立命館大学 国際関係学部 末近浩太 教授
「(イスラエルによる侵攻で)レバノンの領土が減ってしまい、そこに住んでいた人たちは暮らせなくなってしまうため、ヒズボラはレバノンに侵攻してきた、イスラエル軍に対する抵抗組織レジスタンスとして誕生した」

山本恵里伽キャスター
「レバノンが国家として機能を果たせなかったから、ヒズボラが誕生したということですか?」

末近 浩太教授
「暴力や支配に抵抗するというのがヒズボラの矜持であるため、国が何もできない。レバノン国家としてイスラエルを迎撃することができてないときに、もう一度、ヒズボラの軍事力が必要だと考える人たちが増えている可能性もある」

レバノン南部に住む日本人・佐藤 正子さん。レバノン人の夫と結婚し、1993年からこの場所で生活をしてきた。

レバノン在住33年 佐藤正子さん
「最初来たときに、『正子、あなた何派なの?』と聞かれた。『私は日本人ですよ』と言うと、『もっともだ』と言われた。だけど、ここら辺の人たちは“もっとも”ではない。『何派か何の宗教か』になってしまう」

夫が亡くなった後も帰国せず、レバノンに住み続けている。それはこの土地の自然と人々に魅了されているからだという。

佐藤さん
「本当に何もない時は、本当に平和でしたね。何にも音が聞こえない。ここはもう自分の家だし、皆さんと一緒に行動するしかない。去るようになったら去る。私はここで骨を埋めてもいいかなとか思っている。とにかく早く戦争が終わって、今にでも戦争が終わって欲しい、それだけです」

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