支援が届きにくい子どもと家族をどう支えるか、那須の「こどもホスピス」が挑む制度の狭間
医療的なケアが必要な難病や心身に支障を抱えるこども達、家庭環境の課題を抱えるこども達とご家族への支援は、医療・福祉・教育分野の制度をまたぎ、自治体によって重点施策となる予算も異なるため、地域によって受け皿に差が生じやすい。こども家庭庁では創設以来、医療的ケア児等とご家族への支援体制整備を法制化し積極的に進めてきた。こうした中、大都会ではなく栃木県那須塩原市で、地方都市固有の地域ニーズに併せた活動を進めているのが、特定非営利活動法人那須こどもホスピスプロジェクトだ。こども達とそのご家族が息抜きできる地方都市ならではの地域型のこども支援拠点は、制度の狭間をどこまで埋められるのか。
支援が届きにくい家庭はなぜ見えにくいのか
病気や学校、様々な不自由さ、家庭環境などに課題を抱えるこども達とご家族は、医療・福祉・教育・子育て支援など、複数の制度にまたがる支援を必要とすることが多い。一方で、制度の対象や当事者の年齢などにより窓口が分かれ、家庭側が自ら情報を探し、相談窓口に足を運ばなければ公的な支援には繋がりにくい構造もある。
那須こどもホスピスプロジェクト代表理事の廣田功氏は、コロナ禍を機に都内から那須町へ移住し、地域のボランティア活動に関わる中で、孤立する家庭の多さを知ったという。
廣田氏は「助けを求める声が上がらない家庭ほど、支援が必要だと痛感した」と話す。
同氏は名古屋大学工学部を卒業後、大手シンクタンクなどを経てコンサルティング会社を起業。電力自由化時には電力会社の業務構築や業務カイゼンなどにも携わってきた。地域福祉の専門家として出発したわけではないが、那須町への移住を機に、地域の現場で見えてきた課題をきっかけに、こども達とそのご家族の支援拠点づくりへ動き出した。
しかしながら、支援が届きにくい家庭を発見し、継続的につなぎ続けることは容易ではない。個人の問題ではなく、地域の相談機能や見守り体制、移行期の進学や就労、経済的な問題、EBPM(エビデンスに基づいた)自治体への政策提言など、全国的に共通する地域社会の在り方そのものが問われる課題であると話す。
那須にある「こどものホスピス」は何を担う施設なのか
那須こどもホスピスプロジェクトが対象とするのは、生命を脅かす病気(“Life-threatening Condition”)を抱え、日常的に医療的なケアが必要なこども達、小児がんや白血病など様々な難病を抱えるこども達(小児慢性特定疾病)を主に、いじめ・虐待・ネグレクト、不登校・ひきこもり、ケアラー、発達症、依存症など、日常的な生きづらさや生活に困難を抱えるこども達とそのご家族が対象である。
同法人では本年4月より、新たに「毎日こども朝ごはん食堂」「(日中の)居場所カフェ」「(夜の)zoom de おはなし会」の活動を開始。廣田氏によると、制度の対象になるかどうかだけでなく、困っている人が「いつもそこにある安心感」があり、コンビニのように気軽に安心して頼れる「ホスピタリティのある場所こそがホスピスの役割り」であり、そのような困難を抱えるこども達が安心して息抜きできる場所こそが「こども達に必要な地域型のホスピス」と考え、重視しているという。



那須エリアで展開するこどもホスピスは、終末期支援を意味するものではない。日常的に困難を抱えるこども達とご家族を対象に、遊び、学び、体験、レスパイト、家族支援、きょうだい児支援などを含む広い支援として位置づけている。
もっとも、地方都市での地域型の支援拠点は、理念だけでは継続できない。医療的なケアを必要とするこども達への対応には、安全管理、専門職との連携、深夜・休日・緊急時対応、財源確保が不可欠である。法人自身で継続的に運営するためのマネタイズの確立と、地域の善意を仕組みに変えられるかが問われている。
家族の孤立を防ぐレスパイトの不足
支援が必要なのは、こども達本人だけではない。希少・難治性疾患などの医療的なケアが必要なこども達や、発達特性を持つこども達を日常的に介護・養育するご家族は、日常的なケアに追われ、外部との接点を失いやすい。保護者は休む時間を確保しづらく、きょうだい児への配慮も課題となっている。
廣田氏は「こども達とそのご家族が 『息抜きが出来る』ホスピスとしての役割りを果たしたい」と話す。
同法人では今後、短時間でもこども達を預けられるレスパイト施設、同じ境遇の親同士がつながれる交流会、専門職による相談支援、地域の関係性を育む体制などを整えていく考えである。
家族が孤立しないことは、こども達本人の生活の質にも関わる。家庭が疲弊すれば、医療や福祉、教育分野のサービスだけでは支えきれない問題が表面化する可能性がある。
一方で、息抜きが出来るレスパイトや、お泊りが出来るショートステイは、地域によって受け皿が限られやすい分野でもある。人材確保、夜間・休日対応、医療機関との連携、送迎、ご利用者からの相談など、運営上の負担は大きい。支援の必要性が高まる一方で、安定運営の難しさが残る。
那須エリアでの支援モデルは全国の地方都市でも根づくのか
那須エリア(栃木県県北エリア)では、こども・子育て施策を総合的に進めるための計画づくりが全国の自治体同様に進められている。人口減少や少子高齢化が進む地域では、子育て支援や医療・福祉・教育などの受け皿をどう維持するかが、地域の持続性にも関わる。
那須こどもホスピスプロジェクトが目指すあるべき姿は、こどもから高齢者までが地域の中で役割りを持ち、自然に関われる場の創出である。廣田氏は、同法人の施設を「地域の誰もが立ち寄れる共生のモデルケース」にしたいと話す。
今後は、毎日こども朝ごはん食堂、居場所づくり(フリースクール)、病児・病後児預かり、ショートステイ・DVシェルター・夜泣きカフェなど、行政や地域では支えきれていない“制度の狭間にある活動”をモデル事業として軌道に乗せ、医療・福祉・教育など、地域を横断する横展開のモデルケースとしての機能を強化していく考えだ。
しかし、地方都市での地域型支援は一法人だけで完結するものではない。行政、医療機関、学校、福祉事業者、地域住民が継続的に関わる「関係性の仕組み」がなければ、活動は属人的になりやすい。
那須こどもホスピスプロジェクトの取組みは「モデル事業」に過ぎない。那須で始まった取り組みが地域に根づくかは、まずは法人独自がマネタイズできる事業運営体制を構築し、同時にご寄付や助成金など善意を持続可能な支援の和を継続的に広め、法人自ら課題を洗い出して仮説検証したモデル事業を、国の法制化や自治体独自の条例施策へ、いずれは公的な委託事業へと転換できるかに掛かっているという。
【取材協力】
特定非営利活動法人 那須こどもホスピスプロジェクト
代表理事 廣田功氏
https://nasu-chp.com/