猛暑でもファン付き作業服が使えない…「防爆エリア」の知られざる熱中症リスク

2026-07-16 16:00

猛暑の長期化に伴い、工場や建設現場で働く人の熱中症対策が急務となっている。ところが、可燃性ガスを扱う化学プラントやガソリンスタンドなどの「防爆エリア」では、一般的な電動ファン付き作業服が火花や発熱による着火源となる可能性があり、使用できない場合がある。

暑さへの対策を強化すれば爆発リスクが生じかねず、安全性を優先すれば作業者の身体的負担が増す――。こうした現場特有のジレンマを、企業はどう解消しようとしているのか。ガス検知器や防爆設計技術を手がける新コスモス電機に、防爆エリアにおける熱中症対策の現状と、労働安全を支える技術的なアプローチについて聞いた。

なぜ防爆エリアでは熱中症対策が進まないのか

厚生労働省のデータによると、2025年の職場での熱中症死傷者は1,681人に達し、前年比約33%増で過去最多を記録した。全体の約4割が建設業と製造業で発生しており、同年6月施行の改正労働安全衛生規則により、事業者は実効性のある予防対策の推進を求められている。

しかし、化学プラントやガソリンスタンドなどの「防爆エリア」を抱える現場では、対策の導入に特有のジレンマがある。同社の説明によれば、可燃性ガスの漏洩リスクがある防爆エリアでは、一般的な電動ファン付きウェアは引火源になる恐れがあり使用できないためだ。現場からは防爆エリアで使用できる製品が少ないとの声が多く、潜在的なニーズが存在していたという。

わずかな火花が爆発を招くメカニズム――ファン付き作業服が使えない背景

可燃性ガスや蒸気が存在する危険場所では、なぜ一般的なファン付き作業服の着用が重大なリスクとなるのだろうか。同社の解説によると、これらの空間では、わずかな電気火花や静電気が可燃性ガスと空気の混合ガスに接触するだけで、局所的に数百℃以上の高温エネルギーが加わり、着火温度に達して瞬時に爆発を引き起こす危険性があるためだ。

さらに、多用されるリチウムイオンバッテリーは過熱による引火リスクだけでなく、異常時に可燃性ガスを放出する懸念もある。目に見える炎だけでなく、微小な発熱、配線の摩耗、接触不良、静電気の蓄積もすべて着火源になり得る。そのため、ガソリンスタンドの給油ディスペンサー付近のような「第一類危険箇所」では、機器の構造や部品の組み合わせを含めた総合的な防爆性能が求められるとされる。

もっとも、防爆機器の選定にあたっては設備条件と機器仕様を厳密に照合する必要があり、現場管理者の専門知識の向上や適切な運用体制を維持し続けられるかという点には課題が残されている。

「Ex ib IIB T3 Gb」とは何か、防爆性能と冷却効果を両立

このような現場の課題に対し、新コスモス電機が開発を進めているのが、防爆ファン付きウェア「AIR FLOW PRO」だ。同社の説明によれば、同製品はファンやバッテリーを含む電装部品の電気エネルギーを小さく抑えることで発火を防ぐ本質安全防爆構造「Ex ib IIB T3 Gb」を取得しており、第一類危険箇所でも安全に使用できる仕組みを構築している。

機能面では、服の中に効率よく空気を循環させる独自の立体構造を肩や背中回りに採用。バッテリーユニットを約200gと小型軽量化しながら、8時間の連続動作を可能にしている。さらに、産業医科大学との共同研究データによると、気温42℃、相対湿度50%の過酷な環境下において、同製品の着用により核心温や心拍数の上昇、平均心拍数の上昇幅が有意に抑制され、熱中症予防効果が学術的に裏付けられているという。

一方で、高い防爆等級や冷却効果が担保されているものの、実際の着用環境における作業強度や防護服との兼ね合いにより、全ての作業者に対して一律の効果が持続するかについては、今後のさらなる実証データの蓄積を待つ必要がある。

脱炭素社会で変化する危険場所――産業環境の高度化に伴う安全管理の方向性

夏本番に向け、工場の安全管理責任者には、導入する暑さ対策機器が防爆エリアの条件に適合しているかの再確認が求められている。同社の担当者は、機器の点検に加え、作業時間の調整、交代要員の確保、体調変化を現場全体で早期に察知できる体制づくりなど、基本対策の徹底を呼びかけている。

今後の展望として、同社はガス検知器で培った知見と防爆設計技術を活かし、熱中症対策と防爆対策を両立する製品開発を進める構えだ。背景には、脱炭素社会への移行に伴い水素エネルギーなどの活用が広がるなど、産業現場の安全管理が今後さらに高度化していくという予測がある。防爆対応は特定の業界だけでなく、産業全体において重要性を増すテーマになると同社は位置づけている。

同社が推進する「使える根拠」のある製品開発や安全機器の拡充が、国内の構造的な労働安全課題に対してどこまで持続的な効果をもたらすか、今後の技術実装の進捗や規制環境の変化次第でその具体的な輪郭が見えてくることになりそうだ。

【取材協力】

新コスモス電機株式会社 
https://www.new-cosmos.co.jp

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