星野仙一氏が語っていた「野球は短期で結果が出ることなんてない」楽天・吉井理人新監督就任から40日余り、浮沈のカギは

プロ野球楽天はシーズン途中で吉井理人新監督が就任して40日余りが過ぎた。成績不振による三木肇前監督の休養から、異例のチーム外からの招聘。昨季まで同じパ・リーグのロッテで指揮を執っていた61歳を、三木谷浩史オーナーが口説き落とし、「渦中の栗を拾う形で引き受けていただいた」という。球団創設から、今季は22年目。11人目となる新監督は、低迷するチームを立て直せるのか。
本拠地の仙台市での会見には三木谷オーナーが同席し、「設備、組織、人財で今後、大きな投資をして最強軍団にしていく」と意気込みを語った。吉井新監督は、選手時代には制球力と多彩な変化球で日米通算121勝をマークした右腕。引退後には侍ジャパンのコーチとして世界一にも貢献した。同オーナーは新監督の人選で、当時の侍ジャパンの監督、栗山英樹氏がコーチとしての手腕を高く評価していたことを挙げた。
理論派で芯も強い。日本ハムのコーチとしてダルビッシュ有、大谷翔平を、ロッテ時代は佐々木朗希の各メジャー投手を指導した手腕も定評がある。「近代スポーツはどんどんデータを中心に進化している。データを戦略に落とし込む翻訳機能が必要。吉井さんのように世界も見て、実際に指揮を執ったことがある人が必要と考えた」と説明した。
そして最後に、「もう一つ重要なことは『勝者のメンタリティー』。勝つんだという気持ちがなければ、いくらデータがあろうが、テクニックがよかろうが、意味がない。勝利のメンタリティーを植え込んで欲しい」と期待した。
日本最大級の総合ショッピングモール「楽天市場」らを持つインターネット関連企業の楽天グループの代表取締役会長兼社長、最高執行役員を務める三木谷オーナーはサッカー好きで知られる。Jリーグのヴィッセル神戸のオーナーも務め、J1では23、24年に連覇。天皇杯も2度制するなど、資金力を活かした大型補強とデータ主眼の戦略で成功している。その考え方をプロ野球にもつぎ込むということなのだろう。過去に球団担当記者をしていた身からしても、夢が膨らむ話ではあった。
だが、不安もある。それはこの球団はオーナーの意向が強く働く余り、采配等の現場介入が多い土壌がある上、監督そのものの入れ替わりも激しく、各人の指導方針が定着する前に人事が行われてしまう現実を抱えている。
過去21シーズンで楽天はAクラスが5回しかない。リーグ優勝に近づいたのは2人目だった故野村克也監督の4年目の2位(2009年)と、初のリーグ制覇、日本一を成し遂げた4人目の故星野仙一監督の3年目(13年)だけだ。Bクラスの中で最下位が6回もある。選手層の薄さはもちろんだが、それ以上に複数年で指揮を執ったのが野村、星野両氏の4年、梨田昌孝氏と現ゼネラルマネジャーの石井一久氏の3年、あとは2度目の起用となった三木氏が今季2年目だった5人しかいない。
球団初年度の136試合で97敗した田尾安志氏を筆頭に、野村氏と星野氏の間のマーティー・ブラウン氏、大久保博元氏、初の球団生え抜きだった平石洋介氏、1度目の三木氏、今江敏晃氏の6人は、前のシーズンに監督代行を務めた者もいるが、就任1年目で事実上の解任になった。
星野、長嶋両監督が当時語っていたこと
三木谷オーナーは本当に負けず嫌いで、すぐに結果を求める性格らしい。ご自身が、そうやって成功を収めてきた自信もあるのだろう。球団のフロント陣も昔から何よりもオーナーの目を気にしていた。確かにサッカー界では日常的に起こる監督の交代劇だが、野球界ではそれがすぐに成績に結びつくかは疑問だ。
星野監督も就任1年目は5位、翌年が4位だった。その頃によくこんな話を聞いた。「負けると必ずと言っていいほど、オーナーから連絡がある。『なぜ、あの場面でこの作戦なのか。あの選手を使わずに、この選手を使え』と言ってくる。こちらは限られた戦力で、育てながら勝っていかないといけない。野球は短期で結果が出るなんてことはない。巨大戦力を持つ球団とは違うんだから、長い目で見ないと。まあ、俺は適当に聞き流してはいるけどね」
当時の星野監督の指導はシンプルだった。日本一シーズンに24勝0敗の不敗神話を作った田中将大(現巨人)と助っ人外国人の現役メジャー2人、アンドリュー・ジョーンズとケーシー・マギーの3人以外は、「社会人に毛が生えた程度。まだ本物のプロ野球選手ではない」が口癖だった。
そして、重要視していたのが四球へのこだわりだ。「投手には『ここは打たれてもいいから勝負しろ。逃げるな』というと四球を出す。『ここは歩かせろ(四球にしろ)』と指示すると、真ん中に投げて打たれる。言ったことと反対のことをする」と怒っていた。まだ、申告敬遠の制度のなかった時代だ。
打者にも、「指示は『ストライクを打て。ボールは打つな』」だった。試合の安打数と被安打数の話をする時も、それに四死球の数を足して解説してくれた。「きのうはうちが6安打だったが、四死球がないから6安打のまま。投手は4安打に抑えたが、四死球が6つもあった。10本ヒットを打たれたのと同じ。これでは勝てんわな」となる。
楽天の前には長嶋茂雄監督時代の巨人も担当したが、その時に長嶋監督は、「プロ野球の監督は細かい指導をする必要はない。それはコーチの役目。監督は『この監督を、どうしても胴上げしたい』と思わせること。それが出来れば、優勝出来ます」と話していた。
星野監督の3年目はまさにそんな空気感があった。求めていることはプロとしては当然出来なければならない内容だと思うが、コーチ、選手が一体となって監督の指示を全うすることに全力を尽くしていた。その結果が日本シリーズ最終第7戦で、9回に田中が巨人打線を抑えて日本一になった。その時、最初に監督に抱き着いたのが、地元東北出身選手として星野監督が育てあげ、その年レギュラーで活躍した銀次だった。2人の目にはともに涙が滲んでいた。
昔を懐かしんでばかりでも意味がないが、今回の就任会見時に三木谷オーナーは、「中長期的な戦略に基づいて取り組み、改革をしていく」と宣言した。
期間は明らかにならなかったが、複数年契約を結んだという吉井新監督は、「まずは『勝つぞ』という強い気持ち。精神論になるが、そこをもう一度、再確認していただいて取り組んでいく。キーマンは 全員。若い選手もベテランも全員でやっていきたい。選手だけでなくコーチ、スタッフ含めて全員でやっていく」と話した。
新監督が、この掲げた方針を達成できるまでに何年かかるか。強力な支援を公言したオーナーがそれまで我慢できるか。セ・パ12球団で最も歴史の浅い球団の浮沈は、そこにかかっていると思う。
(竹園隆浩/スポーツライター)