JALやANA、カード業界で航空会社が強いのはなぜ?「非日常の体験」が決済を動かす理由

財布の中のクレジットカードを思い浮かべてみてください。JALカード、ANAカード、ビューカード、東急カード、エポスカード。航空会社、鉄道会社、デパートと、「本業は別にある会社」のカードが並んでいる人も多いのではないでしょうか。なかでも航空会社は、クレジットカードの世界では昔からの名門です。なぜ空を飛ぶ会社が、カードの世界でこれほど強いのでしょうか。その理由と、いま起きている変化について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年7月27日配信『クレジットカードよもやま話:還元競争の次は「推し活と富裕層」 #コムギコ #87』より)
ポイント経済圏の先駆けは、40年以上前の航空会社
歴史をさかのぼると、JALカードは1982年に北海道で試験発行され、1983年5月に全国へ広がりました。ただし、この時点でカードとマイルがつながっていたわけではありません。カードの利用でマイルが貯まる「JALショッピングマイルプラン」が始まるのは、1994年のことです。
それでも、「経済圏」や「囲い込み」といった言葉が広まるずっと前から、航空会社は搭乗と日常の決済を結びつける仕組みを育ててきました。いまのポイント経済圏の、先駆けのひとつと言っていいと思います。
では、なぜ航空会社が先駆けになれたのでしょうか。鍵は、マイルという「ごほうび」の性質にあります。
「どこかにマイル」が安くできる理由
わかりやすい例をひとつ紹介します。
JALに「どこかにマイル」というサービスがあります。出発地や日程を指定して申し込むと、JALから4つの行き先候補が示され、申し込みから3日以内に、そのうちのどこへ飛ぶかが決まる企画です。必要なマイルは往復7,000マイル。通常の国内線の特典航空券が往復9,000マイルからであることを考えると、かなり抑えられています。
なぜここまで抑えられるのか。JALが理由を公表しているわけではないので、ここからは僕の見方です。
考えられるのは、行き先の候補や対象の便をJAL側が調整できることです。利用者が飛ぶ先をひとつに決めないぶん、航空会社は需要の偏りをならしやすくなります。
飛行機の座席は、出発してしまえばもう売ることができない、期限つきの商品です。航空会社にとっては空席を活かしやすく、利用者にとっては旅行という体験が残る。この両方の利点が、「どこかにマイル」という仕組みを支えているのだと思います。
ポイントを現金のように配るのとは違って、余っている座席を使いながら、受け取る側には旅の記憶が残る。マイルという仕組みの強さは、ここにあるのだと思います。
「1ポイント」をもらった記憶はすぐに消えますが、「マイルで行った沖縄旅行」は何年も覚えている。人間の記憶に残るのは、金額ではなく体験のほうなのだと思います。
マイルの7割は、飛行機以外で貯まっている
マイルという仕組みの大きさは、JALの数字にも表れています。
JALのマイレージ会員は約4,000万人。そして、いまJALが発行しているマイルのうち、およそ70%は飛行機以外で貯まったものです。買い物、クレジットカードの利用、提携サービス。マイルはとっくに「飛行機のおまけ」ではなくなっていて、日常の消費を吸い寄せる本業級の事業になっています。
実際、JALの「マイル・金融・コマース事業」は、直近の決算で売上が2,222億円、利益では455億円を稼いでいます。
ただし、これはマイル単体の数字ではありません。マイル関連のサービスに加えて、クレジットカードや卸売・小売なども含んだ部門全体の数字です。それでも、人を運ぶ以外のところで2,000億円を超える売上が立っていることに変わりはありません。飛行機を飛ばす会社の中に、もうひとつの事業が育っているわけです。
これは日本だけの話ではありません。アメリカのデルタ航空は2025年、アメリカン・エキスプレスとのSkyMiles提携から82億ドルの報酬を得ています。この提携には、マイルの販売に加えて、共同マーケティングやラウンジの利用など、複数のサービスが含まれます。カード会社は会員に配るマイルを航空会社から仕入れてもいるので、カードが使われるほど航空会社にお金が入る関係になっています。
毎日会う鉄道より、年に数回の航空が選ばれる
ここで、鉄道会社と比べてみると、興味深いことがわかります。
お客さんと顔を合わせる回数でいえば、鉄道は航空の比ではありません。JR東日本の1年間の輸送人員は延べ60.3億人。一方、JALの国内・国際の旅客は年間4,600万人ほどです。毎日乗る電車と、年に数回の飛行機。回数では鉄道が桁違いに勝っています。
ところが、カードの数字は逆転します。
会員1人が1年間にカードで使う金額を、公開されている取扱高と会員数から単純に計算してみると、JR東日本のビューカードが約46万円なのに対して、JALカードは約122万円。2.7倍の差があります。毎日会っている鉄道より、年に数回しか会わない航空のほうが、財布の中では選ばれているわけです。
なぜでしょうか。鍵は、「日常」と「非日常」の違いだと思います。
ビューカードは「Suicaのチャージに便利なカード」、つまり日常の道具として使われがちです。一方のJALカードは、「次の旅行のために、ふだんの買い物もぜんぶこれで払う」というメインカードとして使われる。旅行という非日常への切符だからこそ、日常の買い物をまるごと吸い寄せられる。日常の便利さより、非日常への憧れのほうが、人の決済行動を大きく動かすのです。
これを裏づける研究もあります。アメリカのマーケティングの学術誌に載った分析によると、上級会員のステータスまであと少し、という人ほど、値段や時間の条件が多少悪くても、同じ航空会社を選び続ける傾向があるそうです。マイルや会員ランクは、損得の計算を超えて人の行動を変えてしまうのです。
ANAのSFC改定案、利用者の意見を受けて再検討へ
上級会員の特典の目玉のひとつが、空港のラウンジを使えることです。この特典をめぐって、今年ひとつの動きがありました。
ANAは2026年、スーパーフライヤーズカード(SFC)の特典を2028年4月から見直す当初案を公表しました。案では、ANAカードとANA Payの年間決済額が300万円未満の会員を「SFC LITE」とし、ANAラウンジの利用対象外とする内容が示されていました。
しかし、多くの利用者から意見が寄せられたことを受けて、ANAは現在、改定内容を再検討しています。詳細は2026年9月末までに改めて案内するとしています。
ステータスの獲得を目的に飛行機に乗り続ける、いわゆる「SFC修行」という言葉があるくらい、この特典には熱心な利用者がいます。裏を返せば、ラウンジに入る権利という、モノですらない「体験」に、それだけ多くの人が本気になっている、ということでもあります。
通信と航空が、両側から乗り込み合っている
そしていま、この「憧れの経済圏」をめぐって、興味深い動きが起きています。
ドコモやKDDIといった通信会社が、そろって金融に乗り出しています。理由のひとつが、先ほどの接触の回数です。スマートフォンは1日に何十回も手に取るものなので、お客さんとの接点の多さでは、あらゆる業界のなかでも最強クラス。その接点を、お金の流れに変えようとしているわけです。
興味深いのは、航空会社が同じタイミングで、逆方向に動いていることです。
JALは去年から格安スマホ「JALモバイル」を手がけ、今年6月にはドコモのahamoと組んだ新しいプランも加わりました。毎月マイルが貯まり、「どこかにマイル」の優遇も付いてきます。ANAはさらに踏み込んで、自前の通信サービス「ANAモバイル」を始めました。携帯料金の20%相当がマイルで戻ってくる設計です。
通信会社は「接点の多さ」を武器にお金の世界へ。航空会社は「憧れの強さ」を武器に通信の世界へ。お互いの得意技を持って、両側から相手の領域に乗り込み合っているのです。
体験というごほうびは、現金より強い。40年前に航空会社が見つけたこの原理は、いま、ポイント還元の競争が一段落したクレジットカード業界全体が、あらためて向き直っている場所でもあります。カード会社がそろって「推し活」と「富裕層」に向かっているのも、根っこは同じ発見なのだと思います。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年7月27日配信『クレジットカードよもやま話:還元競争の次は「推し活と富裕層」 #コムギコ #87』から抜粋してまとめたものです。