観光地を「物語の舞台」にすると何が変わる? 体験型観光が地域に求められる理由
観光地を訪れ、名所を巡り、写真を撮る。こうした従来型の観光に加え、近年は旅行者自身が地域の文化や歴史に関わる「体験型観光」への関心も高まっている。
その一つの手法として注目されるのが、地域が持つ歴史や伝承を「物語」に置き換え、旅行者自身がその世界に参加する仕組みだ。旅行事業と舞台創作の経験を組み合わせ、こうした観光コンテンツを手がけているのがプレイング株式会社である。同社への取材をもとに、演劇的な手法を地域観光に取り入れる意味と、その可能性や課題について考える。
なぜ「旅行」に「演劇」を組み合わせるのか

プレイング株式会社は、旅行事業での経験と舞台の企画・演出で培った知見を組み合わせた事業を展開している。一般的な観光ツアーでは、旅行者は観光地を訪れ、案内を受けながら地域の歴史や文化に触れることが多い。
これに対して同社が取り入れているのが、演劇の手法だ。地域に残る歴史や伝説、人物などをもとにストーリーをつくり、参加者自身がその物語の一部として行動する。
つまり、地域を「見る場所」としてだけではなく、「物語を体験する舞台」として捉える考え方である。
こうした企画では、ストーリーや演出だけでなく、移動手段や安全面、参加者の導線など、旅行商品として成立させるための設計も必要になる。同社は、旅行業と舞台制作という異なる領域の経験を組み合わせることで、こうしたコンテンツを構成しているという。
一方、演劇的な企画は通常の観光ツアーに比べて制作や運営に手間がかかる。地域ごとにストーリーを開発し、出演者や運営人材を確保する必要もあり、継続的に運営できる仕組みをどうつくるかは課題となる。
観光客を「見る人」から「参加する人」へ
同社が観光地向けに展開しているのが、体験型コンテンツ「エンタビ」だ。
地域に残る歴史や伝説などをもとにオリジナルの物語をつくり、参加者が登場人物の一人としてその土地を巡る。
従来の観光では、旅行者と地域の関係は「訪れる側」と「迎える側」に分かれやすい。一方、物語の中に参加する仕組みを取り入れることで、旅行者が地域について考えたり、住民や地域資源に接したりするきっかけを増やすことができる。
同社では、同じ考え方を企業や団体向けにも展開している。
企業向けの「エンカイ」では、企業理念やビジョンなどを物語として表現し、参加者が体験することで、社内コミュニケーションやチームビルディングにつなげる狙いがあるという。ただし、体験型イベントは参加した瞬間の満足度が高くても、その効果が長期間続くとは限らない。
観光であれば再訪や地域消費につながるのか。企業研修であれば、その後の組織行動に変化が生まれるのか。体験を一過性のイベントで終わらせないためには、その後の効果をどう測るかも重要になる。
「日本全体をテーマパークに」という構想

プレイング株式会社は今後、「ニッポン丸ごとテーマパーク」というビジョンを掲げ、各地で物語を活用した観光コンテンツを展開していく方針だ。
同社の事業は、「ビジコンOSAKA2022」で大阪市産業経営協会賞となにわあきんど塾同友会賞を受賞したほか、「LED関西2024」のファイナリストにも選出されたという。
こうした外部評価は、旅行とエンターテインメントを組み合わせた事業モデルが、ビジネスコンテストなどで一定の関心を集めていることを示す一材料ではある。
ただ、全国展開を進めるうえでは、地域ごとに事情が異なる。
有名な歴史や伝説を持つ地域もあれば、観光資源をどのように見せればよいのか模索している地域もある。物語として成立させるには、地域に眠る素材を調査し、住民や自治体、観光事業者などとの合意形成を進めることも必要になる。
さらに、継続的にコンテンツを運営するためには、演者や企画者をはじめとした人材の確保、収益性、季節ごとの集客なども考えなければならない。
「地域全体をテーマパークのように捉える」という発想を、実際の観光ビジネスとしてどこまで持続可能な形にできるかが、今後のポイントになりそうだ。
体験型観光は地域活性化につながるのか
地域観光では、有名な観光施設を新たにつくるだけでなく、既に存在する歴史や文化、暮らしそのものを観光資源として捉え直す動きも広がっている。その意味で、地域の物語を掘り起こし、参加型のコンテンツとして再構成する手法は、一つの選択肢といえる。
一方、体験型観光を実施しただけで地域活性化につながるわけではない。旅行者の滞在時間や消費額が伸びるのか、再訪につながるのか、地域側にも継続的な利益が生まれるのかといった視点が必要になる。旅行と舞台創作を組み合わせたプレイング株式会社の取り組みは、観光地を「見る場所」から「参加する場所」へ変える試みの一例だ。
こうした物語型の観光コンテンツが一時的なイベントにとどまらず、地域経済や観光の持続性にどこまで寄与できるのか。今後は、実際の運営事例や経済効果も含めて検証していく必要がありそうだ。

【取材協力】
プレイング株式会社
代表取締役 山本知史
https://www.gekidanplaying.com/