髙橋藍「6人で、世界の壁を越える」自分の力をチームの力に変える“絶対的存在”へ【実況席から見える世界】

28年ロサンゼルス五輪出場の切符を懸け、バレーボール男子日本代表がアジア選手権(9月4〜13日)を戦っている。昨年の世界バレーの予選ラウンドではトルコ、カナダにストレートで連敗し、まさかの予選敗退となった日本。試合後、髙橋藍(25)は「大事な場面で1点を取り切れなかった」と、“最後の1点”の重要性を繰り返した。悔しい経験を経て臨んだ今年のネーションズリーグは、準決勝でアメリカに敗れたが、史上初となる開幕から13連勝を達成。髙橋は大会を通じて全体4位となる262得点でチームをけん引した。世界に勝つために“1点”に向き合ってきた若きエースを、自身も中高でバレー部に所属(セッター)し、TBS入社直後の98年から現場取材を重ねてきた新タ悦男アナウンサーが、リポートする(第12回・髙橋藍後編)。
「ゲームを壊せる“サーブ”が必要」
世界の壁を越えるために、髙橋藍は自分自身を変えた。
身体を作り直し、さらに技術を磨く。
だが、藍が目指しているのは、単に“自分が点を取れる選手”だけではない。
自分の力で、チームを勝たせる選手になること。
そのために、もう一つ変えようとしているものがある。
チームそのものを動かす力だ。
「自分には自分にしかできないオリジナルのプレースタイルがある。監督に求められている高い役割の中で、“コートに入ったら、チーム全体に良い影響をガツンと与えていける特別な選手(中心)”には絶対にならないといけないと自分でも強く思っている」
ここぞの場面で、どうやってチームに推進力を生み出し、スイッチを入れるのか。
髙橋藍が、今季最も強化したかった武器がある。“サーブ”だ。
「特に、スキル(技術)面で言うと、自分自身の“サーブ(ジャンプサーブ)”は、今まで以上に課題。今、世界のどこのトップチームを見てもサーブの威力が尋常じゃなく強い。そのサーブの殴り合いの中で、日本チームは世界に対して絶対に負けていられないし、自分たちのサーブで相手を最初からガツンと崩していける、強いサーブの破壊力という部分が、今の自分にはすごく大事だなと思って追求している。“ゲームを壊せるサーブが必要”だと」
25年世界バレーで強烈に感じた現実。
世界のサーブは“暴力的”だ。
「“相手の強烈なサーブ”に、自分たちのレセプション(サーブレシーブ)がすごく苦しめられた。勝負どころで確実にサービスエースを取ってくるし、それに対して自分たちのパスが1本でも乱れたら、日本の速いバレーは展開としてすごく難しいものになるということを改めて知った。だったら、そのサーブで、“自分たちも世界相手に、サーブの力で相手のゲームを壊していかないといけない”ということは、戦っていて本当に痛感した。 だから今回のシーズンでは、自分自身はとにかく“サーブの強化”というところを、一番のテーマとして、明確に頭の中で考えてシーズンを過ごしていた」
試合の流れを壊しに行けるサーブ。作り直した身体から変化は生まれた。
「スイングスピードが上がり、サーブの初速が上がったため、相手サーブレシーブの手前で小さくカットするような鋭い変化を見せるようになり、最後まで変化を見極めるのが難しいサーブを打てるようになった。また、サイドライン側にアウトと思った瞬間、戻ってくるラインのサーブも打てるようになった」
VNLの予選ラウンドでは、サービスエースの本数が全体2位の数字を誇った。
「直近のシーズンが、僕はこれまでの現役生活の中で“1番選手として大きく成長できたな”と思っている。 何よりも、自分の中でバレーをやる“目的”がもの凄くハッキリとしていた。今までの代表では、『藍、お前の明確な目標は何だ?』って周りから聞かれた時に、正直、自分の中でもどこか答えに困っていた部分があった。“トータルとして強くなっていく”という大雑把な考え方だけだった。でも25年世界バレーのあの舞台で負けた後に、自分自身のコンディション、毎試合最高のパフォーマンスを維持するために何が必要なのか、を突き詰めて、徹底的な食事制限(栄養管理)だったり、フィジカルの部分も、自分の身体にとっての“ベストな調整方法”を見つけられた。今課題になっている部分、パフォーマンスのコンディションの調整、サーブの威力・効果率、攻撃面のさらなる強化。世界で勝つために、何を強化すればいいか逆算できるようになった。今シーズン、完璧に準備できたことは自分の中で強い手応えとして実感している」
「絶望的な高さのブロックや凄まじい威力のサーブを経験できる」
世界で戦うために必要なものが、少しずつ見えてきた。
その答えを確かめるために、髙橋藍は新しい場所を選んだ。
ポーランド。
世界最高峰の高さやパワーを、特別なものではなく、日常にするために。
「ポーランドへの挑戦は、世界トップのリーグ、世界トップの選手たちと毎日練習から揉まれてやることで、新しい刺激を受けたり、高度な技術を学べたり、海外の一流選手のメンタルの強さを知ることができるから。オリンピックでメダルを取るという目標のためにも、あえて今までとは違う厳しい環境でプレーして、自分自身を限界まで追い込んでいく、強くしていくということが、最終的にオリンピックの金メダルに繋がっていくと僕は本気で思っている。イタリアリーグに帰る、“安全な選択肢”ももちろんあったけれど、それよりも、もう1つ世界最高峰のトップリーグである“ポーランド”に飛び込むことで、僕はもっともっと選手として個を大きく成長できると思った。トップ選手と毎日同じ体育館で一緒にバレーをやれることは、あの海外の絶望的な高さのブロックや、凄まじい威力のサーブを、日々のチームの練習や試合で経験できるということ。これは日本代表のコートに帰ってきた時に、『あ、世界の高さって、毎日練習で受けている球に比べたら全然大したことないな』って、余裕を持てることで視野がガラリと変わる。海外の圧倒的な“高さ”や、“パワー”の理不尽さに自分の身体を完全に“慣れさせる”ことが一つ、また自分がスパイカーとしてさらに成長できる、世界基準のレベルに成長できる一番大きなポイントかなと思っている」
「常にアグレッシブに」
「個人のパフォーマンスの出力が高くなることが、また最終的に“チームの本当のまとまり(一体感)”に一番つながっていくと思っている。チームは本当に仲が良い分、その仲の良さっていうのは、本当に試合を心から楽しくできる。自分たちがやっぱり“バレーが楽しくてしょうがない!”って思いながらプレーできる中で、一番の強さを出せると思っている。 自分はそのパフォーマンス、自分自身のプレーの出力を、コートの上で誰よりもアグレッシブに全面的に出していきたい。決まった時は、もう誰よりもアグレッシブに体全体で喜んでいきたい。プレーの面でもそうですし、コートの上の“気迫”の部分でも、チーム全体をグイグイ引っ張っていけるはず。自分自身の、まずはプレーというところに一点集中でフォーカスして、常にアグレッシブにやっていく。そこが、今シーズンの自分にとってすごく大事かなと思います」
仲がいい。でもそれだけでは、世界では勝てない。だから髙橋藍は、その“仲の良さ”を競技力に変えようとしている。楽しいからこそ、思い切って仕掛ける。思い切って仕掛けるからこそ、ミスを恐れない。ミスを恐れないからこそ、最後の1点で自分たちのバレーを貫ける。“楽しい”は、髙橋藍にとって甘さではない。攻めるためのエネルギーだ。
「自分がコートの中で“チームを引っ張っていかないといけない立場”だというのは自覚している。新しくカラーが変わっていくこれからの日本代表というところを、自分たちが昔と同じようなやり方でバレーボールをしていても、世界はどんどん進化しているし、それ以上に強くなっていかないと自分自身は絶対にダメだと思っている。“新しくなったチームに一番合ったやり方”は、自分自身も毎日コートの中で探り探りしながら行動している。その中でも、大人のやり方でチームを引っ張っていかないといけない。今の日本チームが世界で勝つためには絶対に欠かせない、必要なこと」
「泥臭い挑戦者」
「日本代表が世界の上位に上がったことで、去年は自分たちが知らないうちに、世界の国々から『日本を絶対に倒すぞ!』って徹底的に研究されて追われる立場になっていた。自分たちの中に『トルコやカナダには勝って当然だ』というおごりや過信がどこかにあったから、去年は最後に足をすくわれて負けた。だからこそ、今年はメンバーが全員万全の状態で戻ってきたけれど、自分たちはもう一度『一番下から這い上がる泥臭い挑戦者なんだ』って、マインドを完全にリセットしている。“過信を捨てた僕たちは、去年よりも圧倒的に強い”」
強くなったからこそ、挑戦者に戻る。矛盾しているようで、髙橋藍にとってはそれが世界で勝つための条件だった。
「その高い次元の中でも、もちろん一番大切なのは“最終的にチームを勝たせること”が僕の中では何よりも最優先。そういった、世界相手に“ここで1点を手繰り寄せて勝てるポイントを取る”というところは、絶対に妥協せずにコートの中で100%取っていく。ここだけかな、と今は思っている」
“自分の力で、チームを勝たせられる絶対的な存在になる。”その言葉は、単純に得点を重ねるエースになるという意味ではない。
相手を読む。
仲間に伝える。
チームの空気を変える。
自分自身が最後の1点を取りに行く。
プレーでも。
言葉でも。
感情でも。
チーム全体を動かす。
それが、髙橋藍が目指している「絶対的な存在」なのかもしれない。世界の壁を越えるために、知性を磨いた。その知性を実行するために、身体を作り直した。
そして今、その力を――
自分一人のためではなく、チームのために使おうとしている。
一人で世界の壁を越えるのではない。
6人で、越える。その中心に、髙橋藍は立とうとしている。