国民民主党が主張する「103万円の壁」の引き上げについて、財務省内では慎重な意見が多いようだ。大規模な減税による財源不足や、将来世代への負担の先送りなどが懸念材料として挙げられている。103万円の壁を巡る国民民主党と自民党の“攻防”、そして税制と予算を担う財務省はどう動くのか、大和証券チーフエコノミストの末廣徹氏とTBS経済部の佐藤祥太デスク、出野陽佳記者が読み解く。(11月5日配信「The Priority」より)
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「財務省のことなんて眼中にない」
国民民主党の玉木雄一郎代表は、103万円の壁を178万円まで引き上げることを主張している。しかし、財務省内では、この提案に対して慎重な意見が多いという。
佐藤:
林官房長官も会見で、これは7、8兆円の減税になると言って、懸念ということではないですが「ちょっとやりたいことの大きさをわかってますか」みたいなトーンでした。出野さんは財務省の幹部をいろいろ取材していますけど、基本的にはややネガティブですか?
出野:
そうですね。7、8兆円は国と地方分合わせての規模ということですが、それだけ歳入の部分で大きな穴が開くということなので、結構慎重なトーンですね。
佐藤:
そうした流れのなかで玉木さんが週末「恒久的な措置としてやりたい、この年末の税制改正に入れてもらいたい」というふうにいいまして、これは財務省としてはボディーブローというか…。
出野:
減税というと記憶に新しいのは定額減税の1人当たり4万円減らすというのが最近あったと思うのですが、あの時はあくまで1回きり。税金だと3.3兆円ぐらいの規模でしたが、今回は7、8兆円もの規模で、しかも恒久的な措置となると、これはけっこう財務省としては渋いと。
与党でもなく、野党の第一党というわけでもない国民民主党の主張をどこまで飲むのか。財務省内では葛藤も…。
出野:
どうしてそこまで、あるいはどこまで飲むべきなのかっていうことは、財務省の幹部からも漏れたりするところがあって。政治的に決まってしまう側面が大きいので、「財務省のことなんて眼中にないんですよ」というちょっと諦めの声みたいなのも。
財務省の懸念は、主に財源の問題だ。仮に国債発行で賄った場合、「減税で今の世代はもしかしたらいい思いをするかもしれないが、その負担を将来世代に先送りしているだけ」という指摘がある。
また、103万円の壁の解消だけでは、106万円と130万円の壁による手取りの減少が残ってしまう。本当に働き控えを解消したいのであれば、社会保険料の部分も含めた議論が必要だが、それは税制ではなく厚生労働省の管轄となる。
末廣:
178万円というのも、壁の問題なのか、所得減税をたくさんしたいのか、そこの切り分けはよくわからない。細かい壁を取り除いてもっと労働者が働く時間を増やして人手不足の問題を解決したいのか、178万円まで上げればかなりの所得減税になるので、それで経済対策、景気を良くしたいのかというのも見えてこないので。とりあえず何か球を投げたという印象になっちゃいますよね。国民民主党が球を投げて、どこまでやれんだという問いかけをしていると。
国民民主党が「損をしない」構図に
一方、JNNの最新の世論調査では、石破内閣の支持率は12.7ポイント下落して4割を切って38.9%に。国民民主党の支持率は9.1%で前回より7.6ポイントも上昇している。さらに103万円の壁を178万円に引き上げることについて賛成が66%だ。
佐藤:
103万円の壁と、それを超えるための大減税がどれほど国の財政に影響を与えるのかというところまでまだ理解が浸透してないというような気もしますが、「大減税」というと基本的にみんな嬉しいわけですよね。
末廣:
壁を取り除くっていうのはちょっと前にやったリスキリングみたいな。みんなにとっていいことだよねと思うことが多いケースなので、政策の作り方としてはうまくやってるなという感じですね。あとはこの案をどこまで飲むか。検討をしますとか、前向きにやっていきましょうぐらいまではいけるかなと思うんですけど、来年度からいきなりというわけにはいかないと思うんですね、スケジュール的に。
末廣氏は、国民民主党の主張は今年の税制改正大綱には入らず、来年度予算にも入らないと予想する。だが、結果はどうあれ国民民主党は「損をしない」と指摘する。
末廣:
玉木さんが損しないですよね、この構図になると。要するにダメって言われても自民党が受け入れてくれなかった、受け入れなかったとアピールすれば来年の参院選で有利に戦えるんじゃないかとも思いますし。飲んでくれたりとか、完全に実施は難しくても検討まで入れば、それは玉木さんの成果になってくる。そこを自民党、与党がどう国民民主党と今後付き合っていくのかとか、来年の参院選に向けてどういう結論にしたら有利になるのかという力学も働くので。そういう意味で「財務省が置き去り」というのは多分そういうところなんでしょうね。
一方で末廣氏は、「対立した方が自民党、公明党にとってもいいかもしれない」とも述べた。
末廣:
結局、決まらずに経済対策も煮えきらずに小さいものになる、お互いが批判し合って泥仕合になっていくというのも、それなりに可能性としてあるんじゃないかなと思います。経済対策を期待するいまの雰囲気は、そっちの方向にいくと危険だなと思います。
103万円の壁を巡る攻防は、単なる財政問題だけでなく、来年の参議院選挙を見据えた与野党の政治的駆け引きの様相を呈している。果たして、この問題はどのような決着を見るのだろうか。