物価高の日本にさらなる試練 トランプ大統領が輸入車に“25%”追加関税表明 日本への影響は?日本の“対抗措置”は? 経済評論家・加谷珪一さんが徹底解説【news23】
私たちの生活に重くのしかかる物価高。来月からは、電気代などもさらに値上がりし、家計の負担は増す一方です。そんな中、トランプ大統領が打ち出したのが自動車への25%の追加関税です。日本経済への影響は避けられそうにありません。
【写真でみる】1000円前後が人気…リーズナブル価格の花見弁当
予算節約 お花見に“物価高の波”
3月28日夜、桜の名所、東京・上野公園では…
花見客
「乾杯!」
満開間近の桜。その下で飲む一杯は格別のようです。
今年のお花見を予定している人はおよそ4割。去年より1.2倍になっています。というのも…
花見客
「手軽さはすごいありますね」
「予算は1人1500円です」
スーパーでまとめ買いをして予算を節約するグループも…
花見客
「これなんか189円。ピザはこんなに大きくて498円です」
物価高が続く中、あまりお金をかけずに楽しめるお花見が、見直されているのかもしれません。
花見客
「物価高だけど、みんなで仕事頑張りましょう!乾杯!」
近くの百貨店では、お花見向けの弁当をリーズナブルな価格で販売。今年初めての試みですが…
松坂屋上野店 食品担当 鈴木瑛子さん
「売れ行きはとても好調でございます。売り上げとしては対前年プラス5%でございます」
1000円前後の弁当が人気だそうです。
女性客
「デパ地下だったら1000円ちょっとがお手軽かなと」
女性客
「(Q.選んだ理由は?)赤坂飯店さんということもあり、あとお値引きされていたので」
物価高を乗り切るためのそれぞれの防衛策。飲食店では死活問題です。
ランチどきで賑わう東京・立川の「立川海鮮丼 MONROE」。客のお目当ては分厚く切られたマグロの中トロと赤身、そしてサーモンの海鮮丼です。ごはんも進みます。
立川海鮮丼MONROE店長 高橋セイムさん
「(Q.海鮮丼の価格は?)税込みで1350円。お得ですよ」
男性客
「(Q.価格的にどうですか?)僕は満足しています。なのでよく来ています。ランチには」
いま、歴史的な高騰が続いているコメ価格。こちらの店でも1年前と比べて、2倍近くの値段で仕入れていますが…
高橋店長
「コメの量を減らすと海鮮が少なく見えちゃうので、コメはけちっていないですね」
さらに店長の頭を悩ませているのが、電気料金の値上がりです。
高橋店長
「氷を作ったり魚を冷やすのも、冷蔵庫だけで3タイプある。どうしても電気を切るわけにはいかないので、死活問題」
来月から電気料金↑ 飲食店は悲鳴
政府が物価高対策として続けてきた電気代の補助金は3月で終了。さらに、再生可能エネルギーの普及のため電気料金に上乗せして徴収している「再エネ賦課金」が4月から引き上げられます。
東京電力の場合、平均的な家庭では4月使用分は436円増えて9031円になる見通しです。
こちらの店では、食品ロスを減らすことで、この物価高を乗り切ろうとしています。
高橋店長
「食品ロスにならないように、数量限定にして、出来るだけ材料も控えめに、過剰に仕入れないようにしています。マグロのロスが一番高いので」
石破総理 “物価高対策”発言で謝罪
3月25日、石破総理は新年度予算案の成立後に“強力な物価高対策”を打ち出す考えを公明党に伝えました。しかし、予算案は今まさに参議院で審議中。野党からは…
立憲民主党 辻元清美議員
「いま審議している予算は強力ではなく無力なのかと。予算委員会の最中に提案して予算修正などすればいいじゃないかと」
石破総理
「私として、この予算が最善のものであると思うからこそ審議をお願いし、こうして議論をさせていただいておるものです」
さらに総理が新人議員に渡した商品券を引き合いに…
立憲民主党 辻元議員
「私ね、10万円の商品券を配ったからね、強力な物価対策、お米券でも配るのかなと思いましたよ」
石破総理
「国民に混乱を招いた、そういうことがありとせば、あるのだというのが今の議員のご指摘ですが、そうであればそれは申し訳ないことでございました。申し訳ありません」
石破総理は「新たな予算措置を打ち出すことではない」と釈明し陳謝しました。しかし、星さんは・・・
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん
「政治の世界によくある本音と建前のことで、本音からすると予算が4月早々には通りますので、その後には新たな経済対策・景気対策に着手するというのは実際に動いていまして。さらに本音としては、夏に参議院選挙がありますので、少しでも自民党にプラスな風が吹くような対策にしたいというのが本音中の本音だと思いますね」
星さんによると、検討されているのは物価高対策や就職氷河期世代に対する支援などで、最終的には10兆円を超える事業規模になるのではといいます。
トランプ氏 輸入車に“25%”追加関税
物価高にあえぐ日本にとって、新たな悩みの種も…
アメリカ トランプ大統領
「アメリカで製造されていないすべての自動車に25%の追加関税を課す」
アメリカのトランプ大統領が日本を含む全ての輸入自動車に25%の追加関税を課すと発表したのです。
現在、日本からアメリカに輸出される乗用車への関税は2.5%ですが、追加関税の25%が上乗せされれば、11倍の27.5%になります。
発動は4月3日の予定で、自動車だけでなく自動車部品も対象にするとしています。自動車メーカーは危機感を募らせています。
日産幹部
「まだ関税の詳細がよく分かっていない。ルールを確認して対応を考える」
大手自動車メーカー役員
「影響は甚大だ。現地生産をすぐに増やすことは難しい」
2024年、日本からアメリカに輸出された自動車はおよそ138万台。輸出額は6兆円を超えていて、影響は避けられそうにありません。
トヨタなどと取引がある名古屋の自動車部品メーカー「大同メタル工業」。アメリカへの輸出が減れば、売り上げに影響が出る可能性もありますが、打つ手はないと話します。
大同メタル工業 判治誠吾会⻑
「関税について、我々、一企業がどうこう出来ることはない。関税が上がったものは受け入れて、それを転嫁していくしかない」
またトランプ氏は関税引き上げでメーカーの製造拠点をアメリカに移転させたい考えですが、経営戦略を変える判断は簡単ではないと話します。
判治誠吾会⻑
「アメリカで物を作るとか言いますけれども、ところが次の大統領が変わったら、また政策が変わる。そうすると、また我々も変えなければならない。そんなバタバタはできない」
日本政府は…
林芳生 官房⻑官
「米国政府に対し今般の措置が極めて遺憾であり、措置の対象から日本を除外するよう強く申し入れたところ」
こう要請したことを明らかにしましたが…
トランプ大統領
「我が国の雇用や富を奪う国に課税するんだ。友人も敵もだ。実は往々にして友人の方が厄介だ」
この日は日本を名指しこそしなかったものの「友人のほうが厄介」と発言していて、追加関税を免れるのは難しそうです。
日本への影響は?“対抗措置”は?
小川彩佳キャスター:
トランプ関税は今後、私たちにどのような影響を及ぼすのか。ここからは経済討論家の加谷珪一さんに加わっていただきます。
藤森祥平キャスター:
まずは日本への影響を考えます。こちらは2024年の日本からアメリカへの輸出額なんですけれども、最も多いのが自動車でおよそ6兆円。次いで自動車の部品でおよそ1.2兆円。合わせて全体の3分の1を超えます。ここに関税がかかるということです。これは影響がありそうですよね。
経済評論家 元日経BP記者 加谷珪一さん:
これは相当大きいですね。関税がかかった分だけ日本がアメリカで売る車の値段は高くなりますから、当然売れにくくなりますよね。そうなると自動車メーカーの業績は悪化してくるということになります。
自動車産業は非常に裾野が広くて、例えば製鉄業界は売り上げのかなりの部分が自動車メーカー向けなんですよね。あとタイヤを作っている化学メーカーとかですね。いろんなところに影響が及びますから、長期化すると日本経済への影響はかなり大きいと思って良いのではないでしょうか。
小川彩佳キャスター:
かなり広く影響が及ぶということですね。そもそもトランプ氏は、かなり満を持してこの関税を打ち出したという感じがしますけれども、狙いはどこにあると思われますか?
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
トランプさんが常日頃発言してる中身を聞いてみると、やはりアメリカで物を作って、アメリカで物を調達して、アメリカ人に賃金を払いなさい。これがおそらくトランプ政権の最大の目的、主張ということになるんですね。
そうなると、外国から物を輸出してアメリカで売ってる国っていうのは、お金を奪っていく国というふうに彼らはみなすわけですよね。なのでアメリカ国内でどうやって物を作るかということを、彼らは真剣に考えているということになるかと思います。
小川彩佳キャスター:
アメリカの自動車メーカーは、得をすることになるんですかね。
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
一概に得かどうかわかりませんが、アメリカ国内は潤うことになるんです。一方、日本のメーカーがもしアメリカに工場を移すということになった場合には、国内の工場がなくなりますから、日本にとっては空洞化や雇用の問題が発生する可能性があると思って良いのではないでしょうかね。
小川彩佳キャスター:
伊沢さんはいかがですか。
株式会社Quizknock CEO 伊沢拓司さん:
やはり短期的には非常に痛手になりますし、特に中京圏とか経済基盤全体が自動車と紐づいているところがあるので、かなり大きいとは思うんですけど。
かといって大同メタルの判治会長がおっしゃっていたように、4年後に政権がどうなっているかわからないなかで、アメリカに設備投資をしたところでそれが生きてくるかもわからず、むしろ工場を持つことが長期的なリスクになる可能性があると考えると、日本だけではなく、各国がトランプさんの思い通りに動くかというところも少し疑問にはなってきますけどね。
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
確かにこれアメリカにとってもどう考えても得じゃないんですね。ただ今のアメリカはやっぱり自分たちが損してでも、外国に富を奪われると彼らは考えているので、それを防ぎたいということですから、もしかすると、そのような状態があるとわかっていても続けようという意思はあるかもしれないんですよね。
なので、そこら辺をよく見極めないと、政権が変わったからといって必ずすぐ元に戻るかっていうと、そうではない可能性もあるのではないかと思います。
藤森祥平キャスター:
流れを作ってるというイメージですか。
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
そうですね。少し表現がよくないかもしれませんが、アメリカにとっての自動車って日本人にとってのお米みたいなものなんですよ。つまり魂みたいなものなので、損得ではなくて、守りたいという意識が非常に強いんですよね。
それが支持者を通じて具現化してきたのがトランプ政権ということになるので、これは意外と根強い大きな流れかもしれないんですよね。
小川彩佳キャスター:
アメリカ国内の景気後退に繋がってもですか?
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
これね、明らかに関税をかければもう景気にはマイナス、それからインフレにもなるんですけれども、それをしてでも、やっぱり自国の産業を保護したい。少なくとも今のアメリカの世論はそういう方向に傾いてるっていうことですから、日本にとってはなかなか厄介ですよね。
日本にもダメージ…いつまで続く?
小川彩佳キャスター:
そうすると、いつまで続くのかとなりますと、トランプ氏は100%恒久的だというふうにも言っていますけれども、加谷さんどうですか。
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
トランプさんはそうは言う一方、交渉好きとされますから、例えばアメリカに大規模な現地生産、部品もアメリカで調達して、アメリカ人を雇います、というようなプランを日本側から提示をして、日本政府が一緒に交渉することで、何らかの軽減する措置を引き出すということは不可能ではないと思います。少し長丁場になりますが、彼らが望むものをいかに提供できるかというところが重要じゃないでしょうかね。
日本の“対抗措置”は?
小川彩佳キャスター:
まさに日本政府がどう対応していくかということになりますけれども、石破総理は「対抗措置を取ることも選択肢の一つだ」というふうには言っていますが、どんな選択肢が実際あるんでしょう。
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
残念ながら対抗措置というと、日本でも関税をかけるってことになるかと思うんですが、日本市場であんまりアメリカの車って売れてないんですよね。アメリカ車って日本にあまり輸出しようとしてませんし、牛肉とかも関税をかける手もあるんですが、あんまりアメリカにとっては打撃ではありませんから、そうなるとやっぱり対抗措置を取るというよりかは彼らが望む提案をして、そこを材料に譲歩を引き出していくっていうそういう流れになるんじゃないでしょうかね。
小川彩佳キャスター:
であれば、取るべき対策は何か?
経済評論家 元日経BP記者 加谷さん:
やっぱりアメリカにどれだけ直接投資をして、彼らの雇用を増やして、それが日米両国にメリットになるっていうことを、いかに伝えられるかというところにかかってくるんじゃないでしょうか。
小川彩佳キャスター:
本当に難しい向き合いというのが、長期的な目線で考えなければならない。 そして、いつまでそのトランプ氏側に主導権を握らせる構図というのが続いていくのか、これを反転させる対応ができるのか、できないのかっていうね。
株式会社Quizknock CEO 伊沢さん:
国内の支持とかも、もしかしたら変容していくかもしれないので、逐一情勢を注視する必要がありそうですね。
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<プロフィール>
加谷珪一さん
経済評論家 元日経BP記者
中央省庁などに対するコンサルティング業務に従事
伊沢拓司さん
株式会社QuizKnock CEO
クイズプレーヤーとして活躍中