マンションから飛び降り“巻き添え”は「重過失致死ではなく殺人」では?…「こんな不条理なことない」娘を亡くした父親が問う責任【news23】
今年7月、名古屋市の歩道を歩いていた23歳の女性が、マンションから飛び降りた男に巻き込まれ、突然、命を落としました。女性の父親は「事故」ではなく「殺人」だとして、検察に殺人罪の適用を求める意見書を提出しました。
【写真を見る】歩道を歩いていた女性がマンションから飛び降りた男に巻き込まれた現場
娘の無念を晴らしたい…突然奪われた日常
娘が突然亡くなってから約3か月。10月28日、父親の姿は名古屋地検にありました。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「やっぱり娘の無念を晴らしてあげたい気持ちが1番かな」
稲葉朋来さん(23)は2026年7月の夜、名古屋市中区栄の歩道で、12階建てのマンションから飛び降りた男に巻き込まれ、死亡しました。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「ただ本当に楽しく過ごしてきたその日を、突然奪われたというのが事実ですから」
マンションから飛び降りた田口伸成容疑者(29)は自殺を図ったとみられていて、当初は意識不明でしたが、その後容体が回復。8月に「重過失致死の疑い」で逮捕されました。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「(飛び降りた)本人が自死目的であったとしても、これをいわゆる過失として考えるのは、やはり妥当ではない」
奪われた23歳の未来 遺族が問う“理不尽な死”の責任
9月に行われた四十九日の法要。祭壇には朋来さんの母親が娘をイメージして生けた花、そして2025年の姉の結婚式で撮影した朋来さんの写真が飾られていました。
朋来さんの姉
「結婚式で撮った写真が遺影になるなんて思っていなかった」
悲劇が起きたのは、朋来さんが友人と帰宅している最中のこと。歩いていたのは、夜でも人通りの多い場所でした。
朋来さんの姉
「妹自身も何が起こったか分からないくらい一瞬で死んでしまうことになってしまって、本当に許せないし、本当に言葉にならない」
最愛の娘を奪われた父親の健二さんは今、「殺人罪」での立件を強く求めています。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「生きたい人間が死んで、死にたい人間が生きて、こんな不条理なことないですよね。未だに受け止められないし、嘘であってほしいと日々思っている」
同様の事例は全国でも起きています。
飛び降りの巻き添え…なぜ殺人罪は適用されないのか
2020年10月、大阪・梅田の商業施設の屋上から男子高校生が飛び降り、路上にいた女子大学生が死亡。
2024年8月には、横浜市の商業ビルから女子高校生(当時高3)が飛び降り、通行人の女性(32)が亡くなりました。
どちらの事例も容疑者は死亡し、「重過失致死の疑い」で書類送検となりました。
健二さんが「殺人罪」での立件を求める理由。それは、飛び降りる際に「歩道の人に当たると死んでしまうかもしれないが、それでも構わない」という、「未必の故意」があったと考えるからです。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「接見時に私が本人に『下に人がいようがいまいが、死のうが死ぬまいが、どうでもいいと思って跳んだのか』という質問に対して、肯定的な『はい、そうです』という答えを本人が言っていたので、それはやはり今回の重過失ということよりも、やはり未必の故意に繋がる証言の1つかなとは思います」
しかし、田口容疑者は警察の調べに対し、「覚えていない」などと話していたということです。
健二さんは9月21日から殺人罪の適用を求めるオンラインの署名活動も始めました。署名は約1か月で4万7000筆を超えています。
朋来さんの父親 稲葉健二さん
「今後、同様の事件が起こり得る可能性はかなりあると思うので。その警鐘を鳴らすためにも、皆さんにも周知をしていただく活動はしていきたいなとは思っています」
名古屋地検は2027年1月13日まで田口容疑者の鑑定留置を行い、刑事責任能力などを問えるか調べています。
同じ苦しみを抱える遺族を減らすためにも…「未必の故意」の認定は
小川彩佳キャスター:
遺族が名古屋地検に意見書と署名を提出しました。改めて、ご遺族の皆さんはどんな思いで訴えているのでしょうか。
CBC 西本明日華 記者:
遺族が何よりも納得できないのは、朋来さんの死が“不幸な事故”として扱われてしまうことです。
朋来さんを思い出し、取材中にも涙ぐみ、言葉につまることがありました。
それでも父親として自分にできることがあるのではないか、同じ苦しみを抱える遺族を1人でも減らす、それが朋来さんの生きた証になると、父親の健二さんは活動を続けています。
藤森祥平キャスター:
今回、遺族の方々が求めているのが「未必の故意」による殺人罪の適用です。
この「未必の故意」とは、人が死ぬかもしれないと認識しながらも、「それでも構わない」と受け入れて行為に及ぶことです。
今回、飛び降りた男が「通行人を巻き込んでも構わない」と認識していたかどうかを立証する必要があります。
CBC 西本記者:
健二さんも活動をする中で、殺人罪の適用には法的に大きなハードルがあることは理解しています。
それでも当時の状況を確かめようと、遠方からこれまで5回にわたって現場に足を運び、事件が起きたのと同じ深夜の時間帯に自分で通行人の数を調べています。
さらに、容疑者の男と3回面会をするなど、自らできる限り全容解明を進めてきました。今回、殺人罪の適用が難しかったとしても、誰かを巻き込む危険性に目を向ける人が1人でも増えて、同じ事案を減らせればと話しています。
繰り返し起きる飛び降りによる巻き添え事故 防ぐためには
小川キャスター:
同様の事案ですが、2020年に大阪、そして2024年には横浜でも飛び降りた人に巻き込まれて通行していた人が亡くなる事故が起きています。
いずれも容疑者は死亡し、そのまま書類送検されているのですが、容疑は「殺人」ではなく「重過失致死」でした。
このように繰り返し起きている事故です。
文筆家 伊藤亜和さん:
全国でこういった事故が起きていて痛ましいなと思います。特に横浜駅の事故は、すぐ近くで働いていたので、すごく記憶に残っています。
建物自体も新しく出来たばかりだったのですが、事故があって以降は屋上も閉鎖になり、吹き抜けの部分もすべてフェンスが張られてそのままの状態になっています。
事故が起きてからでないと対策はできず、かといって事故が起きそうなところすべてを対策するというわけにもいかないと思います。
だから、こういったこと自体をどうやって防ぐか、社会全体で考えなければいけないことだと思います。
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<プロフィール>
CBC 西本明日華
医療・教育担当を経て愛知県警担当に
岐阜ケーキ放火殺人事件なども取材
文筆家 伊藤亜和さん
セネガル人の父との関係を描いたエッセイで注目
最新作は『魔女になりたい』