パリ五輪男子マラソン代表3人目に大迫傑が内定 三者三様の調整法で日本勢連続入賞に挑戦

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2024-03-06 12:00
パリ五輪男子マラソン代表3人目に大迫傑が内定 三者三様の調整法で日本勢連続入賞に挑戦

パリ五輪の男子マラソン代表が出そろった。昨年10月のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ)優勝の小山直城(27、Honda)と、2位の赤﨑暁(26、九電工)が代表に内定していた。MGCファイナルチャレンジ・シリーズ3大会(昨年12月の福岡国際マラソン、今年2月の大阪マラソン、3月の東京マラソン)で、2時間05分50秒の設定記録をクリアする選手が現れず、MGC3位の大迫傑(32、Nike)が3人目の代表に決まった。
3人のパリ五輪までの出場予定試合、強化ポイントなどを紹介する。

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大迫がボストン・マラソン経由でパリ五輪に臨む理由は?

3月3日の東京マラソン。日本人トップの西山雄介(29、トヨタ自動車)のタイムが2時間06分31秒だった。その時点でMGC3位の大迫の、パリ五輪代表が内定。リオ五輪(5000m予選落ち&10000m17位)、東京五輪(マラソン6位入賞)に続く3大会連続五輪代表入りを決めた。

大迫は翌日、自身のYouTubeチャンネルでコメントを発信。具体的な目標は語らなかったが、前回より悪い順位を目指す選手はいない。世間はメダルを期待するかもしれないが、正直なところ大迫であってもハードルは高い。連続入賞すれば日本選手としては最多タイで、十二分に評価できる。

YouTube上で「(12月の会見で表明したとおり)4月のボストンを予定通り走ると思います」と再度表明した。ワールドマラソンメジャーズ6大会(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティ)の1つで、世界トップクラスの選手が集まる歴史のある大会だ。
ボストンに出場する理由の1つに、自身の初マラソンが17年ボストンだったことを挙げた。

「初マラソンから成長してきた部分と、もしかしたら7年間の中で何か落として来た大事なものがあるかもしれない。そういうものが何か再認識できるかもしれません。良きも悪きもあまり振り返らないタイプですが、そこに立つことで新たな気づきもあるんじゃないかな」

ボストンから五輪本番までのインターバルは4か月で、短すぎるという指摘も陸連関係者から出ている。だが、大迫にはそれが問題ないと考えられる根拠がある。

大迫は東京五輪前年のMGCも3位で、ファイナルチャレンジの20年東京マラソンで当時の日本記録(2時間05分29秒)で走って代表入りを決めたが、「ファイナルチャレンジへの緊張感やプレッシャーはすごかった。(そのダメージで)東京五輪が1年延期されず20年開催だったら、良い走りはできなかった」とも言っている。つまりファイナルチャレンジでないボストンなら、精神的な負荷はそこまで大きくない。

またボストンは“心臓破りの丘”が有名な、起伏が激しい難コース。普通の選手は脚へのダメージが大きく(特に下りで)、回復に時間がかかる。しかし大迫は17年シーズンで、6月の日本選手権10000mに優勝し、ホクレンDistance Challenge網走大会10000mでも、かなりの暑さの中で自己記録に迫った。4か月間隔が問題ないことは確認済みだ。

そしてMGCは熾烈な戦いでストレスも大きいが、日本人選手だけの争いである。実戦を走らないと世界トップレベルの選手との戦いが、23年の東京マラソン以来1年半ぶりになってしまう。

つまりボストンなら、精神的なダメージが残らないし、やはり起伏が激しいパリ五輪コースのシミュレーションにもなる。そして世界トップ選手と戦うことで、勝負勘を研くことができる。3枠目の代表を逃すリスクもあったが、ファイナルチャレンジを回避してボストンに出場する理由は納得できる。

大迫はYouTubeのコメントで、MGCの3位についても次のように話した。

「(一度引退して)復帰して1年半くらい、僕の中で色んなことがせわしなく動いてきましたが、まずは国内で勝負できる位置に来られたと。自分の強さを実感できましたね。あとはもう一歩勝てる能力を身につけていかないと、という思いも出てきた良いレースでした」

パリ五輪代表にも内定した今、“もう一歩勝てる能力”を身につけるのに最適な大会がボストンだった。初マラソンの地で有益な“気づき”があれば、2大会連続入賞に大きく前進する。

赤﨑はMGCまでのプロセスをさらに精度を高めて再現する

MGC2位の赤﨑暁は2月の青梅マラソン30kmの部に優勝。1時間29分49秒はアップダウンの激しいコースを考えると、かなりの好記録といえるだろう。強豪選手不在ではあったが、スタート直後に先頭に立ち、3km付近から独走に持ち込んだことも強さを感じさせた。

赤﨑を指導する九電工の綾部健二総監督は、「本格的な坂のトレーニングの前に適性を見たかった。思ったより良いペースで上りを走っていたので、適性はあると思います」と青梅の走りを評価した。

パリ五輪の準備は3つの要素を意識しながら進めていく。
1つめは武器であるスピードを研くため、5月3日の日本選手権10000mに出場する。MGC前も7月に5000mを2本13分20秒台と、マラソンを考えたら十分なスピードで走った。そのうち1レースでは、3000m障害で昨年の世界陸上ブダペスト6位入賞の三浦龍司(22、順大4年)にも先着した。「そのスピード感覚を消さないようにマラソン練習をした」(綾部総監督)ことで、MGC2位につながった。

2つめは坂対策だ。日本選手権10000mのあとは大分県九重で合宿を行う。青梅の高低差は「パリ五輪の半分」で、そこで走れたからパリ五輪のコースを攻略できるとは言い切れない。だが上り坂の走りを確認したことで、九重で走るコース選択をより適切に行うことができる。

そして3つめは高地トレーニングだ。岐阜県の御嶽、長野県の東御と、MGC前と同じように高地で合宿する。「オリンピックだからと新しいことをやるのでなく、同じ流れで練習して再現性を高める」のが赤﨑陣営の方針である。

五輪の成績は、特にマラソンは距離が長く気象状況やコースの影響を大きく受ける。そのための対策も当然必要だが、日本陸連の高岡寿成長距離・マラソン強化シニアディレクターは「万全の状態を作ってスタートラインに立つことが一番」だと話す。
パリ五輪コースの特徴も踏まえながら、赤﨑がここまで強くなってきた過程をさらに突き詰める。五輪の準備過程で体調不良を起こしたりケガをしたりする選手も多いが、赤﨑が良い状態でスタートラインに立つ可能性は高い。

小山はHondaチームのノウハウを最大限に活かしてパリへ

MGC優勝の小山直城は2月の大阪マラソンに「MGCと比べ7、8割の練習」で臨み、2時間06分33秒で3位。平林清澄(國學院大3年)の32kmからの思い切ったスパートには対応できなかったが、2位のスティーブン・キッサ(28、ウガンダ)との差は40km以降で詰め、11秒差でフィニッシュした。キッサは昨年の世界陸上ブダペスト5位の選手である。

国内選考会優勝者が五輪までの間に、負けることを怖れずに国内レースに出場する。その狙いは何だったのか。

「自分はマラソン経験が5回しかありません。試合でしか経験できない展開や駆け引きなど、世界トップレベルの選手たちとのレースで確認したいと思って出場しました」

ボストン・マラソンを走る大迫と同じ目的だった。実際、25kmでは集団の右側を少し離れて走ったり、28kmでキッサがペースメーカーの前に出ると、29kmからは小山がその前に出たりした。

「自分がトップに立ってみて、海外選手の動きなどを見られたことは経験になったと思います」。ただ、上りで平林に引き離されたことで、「起伏対策はしっかり行わないといけない」と課題も明確になった。今後は4月か5月に国内のハーフマラソンを走り、予定では6月から米国で高地トレーニングを行う。MGC前と異なる場所で、小山にとっては初の海外合宿となる。

成功体験とは別のことを行うようにも見えるが、Hondaはチームとして海外合宿を多く行ってきた。小川智監督の立案するメニューや練習のやり方に、Hondaの選手たちは全幅の信頼を置いている。

Hondaでは元日本記録保持者の設楽悠太(32、現西鉄)が、40km走をやらずに試合を連戦してマラソンに合わせていた。小川監督の練習の特徴を言葉にするのは難しいが、年間を通してマラソンを意識した練習を行うことが1つあるだろう。だから設楽も40km走を行わなくても走れたのかもしれないし、小山も昨年3月の東京マラソンから7月のゴールドコースト・マラソン、10月のMGC、そして大阪マラソンと、1年間で4本のマラソンを走れるタフさを持っている。

その小川監督にとって、パリは因縁の都市である。03年の世界陸上パリ大会に中大時代から指導に関わってきた藤原正和(当時Honda。現中大監督)が、日本代表として出場するはずだった。ところが故障の影響で欠場を余儀なくされた。
それから21年。指導法はブラッシュアップされ、深みが増していることだろう。小山も次のように話す。

「基本は監督にメニューを立ててもらっています。Hondaは(13年世界陸上モスクワ大会も代表だった)藤原さんや、(16年リオ五輪代表だった)石川末廣さん(現コーチ)が、世界と戦ってきました。Hondaのノウハウを活かしながら練習していきます」

小山は五輪前に初めての練習場所になることに、何の不安も感じていない。チームの経験を活かした調整法で、万全の状態を作る自信が表情からも感じられた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から赤﨑選手、大迫選手、小山選手

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