「怖くない。兄弟だから」世界最大のオオトカゲと共存するコモド島
インドネシアの世界遺産「コモド国立公園」は、絶滅危惧種で世界最大のオオトカゲ、コモドオオトカゲが住むことから世界遺産になっています。このオオトカゲ、通称「コモドドラゴン」は国立公園内のコモド島とその周辺の島々だけに生息しています。大きいものは体長3メートル、体重100キロ。今年、番組「世界遺産」でも撮影したのですが、初めてコモドドラゴンを見たディレクターは「恐竜だ!」と思わず声をあげていました。
【写真を見る】世界最大のオオトカゲ「コモドドラゴン」の住む島!ドラゴンが登場する世界遺産いろいろ【世界遺産/コモド国立公園(インドネシア)】
コモドドラゴンは肉食で、鹿、イノシシ、猿、さらには自分よりも大きな水牛まで食べてしまいます。自らの体重の8割にあたる分量まで食べることができ、一度食いだめすると一か月は食べなくても大丈夫だそうです。
コモド島の食物連鎖の頂点に立つ、まさに最強の生き物。300メートル先の獲物を認識する視力を持ち、デカいだけでなく、噛んだ時に毒も出して相手を仕留める技も持ち、本当に戦闘能力が高いのです。コモド島には約1600頭が生息しているのですが、人間を襲うこともあるため、撮影には公園のレンジャーが同行。
「コモドドラゴンが足の裏を地面につけているときは、いつ、どんな動きをするのか分からないので、5メートルは離れていてください」
と、注意するレンジャー。まるで「ぐでたま」みたいに地面にのびているように見えるコモドドラゴンですが、油断がならないそうです。レンジャーは常に刺股みたいな棒を持っていて、ゴモドドラゴンが近づきすぎると、この棒で追い払ってくれます。
コモド島には村がひとつあり、村にはコモドドラゴンとヒトが双子として生まれたという伝説が残っています。そのため、子供ですら「コモドドラゴンは怖くない。兄弟だから」と言います。コモドオオトカゲは家畜を襲うこともあるのですが、村人はそれも受け入れて共存しているのです。
皇帝のみが使える龍も…「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」
ドラゴン=龍と血縁関係にある…これは中国の皇帝と同じです。皇帝は龍の子孫、または龍の化身と考えられていて、それは中国の世界遺産でも見ることができます。
たとえば世界遺産「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」。その構成資産のひとつ、皇帝が暮らした北京の紫禁城、現在の故宮を番組でも撮影したのですが、至る所に龍をモチーフにした装飾が施されています。
玉座のある太和殿には1万点以上もの龍が彫り込まれ、軒先の飾りや内装の彫刻、天井に至るまでどこを見ても龍、龍、龍…といった印象。その多さに圧倒されます。特に「5本の指を持つ龍」という意匠は皇帝のみが使えるもので、皇帝の服や専用の磁器には5本指の龍が描かれており、他の王族等のものに描かれているのは4本指や3本指の龍なのです。
ちなみに、故宮の屋根には独特の黄色の瓦が使われているのですが、この黄色もインペリアル・イエローと言って、かつては皇帝のみが使うことのできる色でした。
中国にはこの黄色と龍を併せた世界遺産「黄龍」もあります。こちらは四川省にある自然遺産ですが、標高3000メートル以上の高地に、黄色の石灰棚がまるで龍の鱗のように続くことから「黄龍」と名付けられました。まるで天を翔る龍の姿・・・かつては聖地とされた黄龍は他に類を見ない自然の美しさが評価されて世界遺産になっています。
西洋ではドラゴンは騎士が倒すべき悪しき存在であることが多いのですが、アジアのおける龍は強く高貴な存在と考えられてきました。その最たるものが、龍を皇帝の象徴とした中国です。島で最強の生き物であるコモドドラゴンを、ヒトと兄弟としているコモド島の人々の考え方も、このアジアの伝統に則っているのかもしれません。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太