「僕のSNS投稿から映画が生まれるなんて」やまゆり園障害者殺傷事件から8年目に【リリアンの揺りかご#1】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-03-14 06:00
「僕のSNS投稿から映画が生まれるなんて」やまゆり園障害者殺傷事件から8年目に【リリアンの揺りかご#1】

リリアン・ギッシュは100年前の大スター

映画『リリアンの揺りかご』は、もう8年近く前に私がFacebookに投稿した、個人的な文章が端緒となって生まれた、長編ドキュメンタリーです。題名は、映画草創期のスター俳優、リリアン・ギッシュ(1893年生~1993年没)から採りました。リリアンが登場した1916年公開の映画『イントレランス』は、様々な面で映画史上に残る大傑作です。その中で、リリアンは静かに揺りかごを揺らす役を演じています。イントレランスとは「不寛容」という意味です。この映画を私が観たのは、大学生の時でした。この名画をモチーフに、私は現代日本に広がる「不寛容」を描いてみようと思いました。

【写真を見る】「僕のSNS投稿から映画が生まれるなんて」やまゆり園障害者殺傷事件から8年目に【リリアンの揺りかご#1】

神戸金史(RKB毎日放送)

やまゆり園事件を起こした植松聖死刑囚

2016年7月、神奈川県相模原市の障害者施設・津久井やまゆり園で45人が殺傷される事件が起きました。私の長男(当時17歳)は、重度の自閉症や知的障害を持って生まれてきました。父である私は、事件を起こした植松聖死刑囚(当時26歳)が発した言葉に、心の内をヤスリで削られているような気分を味わっていました。

「重度の障害者には生きている価値がない」

ネット上では「殺人はいけないが、考え方は分かる」という意見が多数見られ、「誰でも命は尊重されるべきだ」という正論は、冷笑と嘲笑に取り囲まれていました。口の中で、血の味がするようでした。Facebookに1000字余りの文章を書いたのは事件発生から3日後の深夜でした。以下は、その全文です。

2016年7月29日 Facebookへの投稿

私は、思うのです。
長男が、もし障害を持っていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。

私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害を持っていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。

何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。またこんな夢を見てしまった。
ああ。ごめんね。

幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、私は朝食が喉を通らなくなります。

そんな朝を何度も過ごして、突然気が付いたのです。

弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。
生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。

それから、私ははたと気付いたのです。

あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。
親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、今の私たちではないのだね。
ああ、息子よ。
誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害をもって生きていかなければならない。

なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

私の周りにだって、生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。

交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。

私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。

息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害をもって生まれてきた。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。
誰もが、次第に障害を負いながら生きていくのだね。

息子よ。
あなたが指し示していたのは、私自身のことだった。

息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。 

あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。

監督自らが映画の登場人物となる意味

この投稿は完全なプライベートでしたが、どんどん拡散を始めました、今見てみると、3600件以上シェアされています。その後、私の記者としての仕事は大きく変わりました。大学時代に観た無声映画『イントレランス』を忘れられなかった私が、やまゆり園事件で個人的にFacebookに書いた文章。それが反響を呼び、事件3か月後の書籍出版、YouTube、ラジオ、テレビと表現を広げ、最終的に行きついたのが今回の映画『リリアンの揺りかご』です。「障害者の父親」という側面を隠すわけにはいきませんでした。私が当事者として立たなければならない必然性がありました。そして、植松聖死刑囚とも会わなければならなくなったのです。しかし、それには勇気が必要でした。

  1. 住宅で一家3人が殺害される 現場に刃物 徒歩で逃走した親族の男(20代)の犯行か 静岡・菊川市
  2. 眞鍋ジャパン、世界ランク4位のポーランドに惜敗 12年ぶりのメダルへ黒星スタート【パリ五輪】
  3. 錦織圭、シングルス初戦で姿を消す...世界ランク26位ドレイパーに完敗、日本勢初の3種目に出場【パリ五輪】
  4. 【速報】岸田総理がパリ五輪日本勢金メダル1号・角田夏実選手にお祝いの電話
  5. 阿部一二三 五輪連覇へあと1勝!妹・詩が観客席で見守る中、決勝進出 東京五輪から無敗で連覇へ【パリ五輪】
  6. 日米2プラス2と「拡大抑止」に関する初の閣僚会合開催
  7. 【速報】東京都内で男女116人が熱中症の疑いで搬送 午後9時時点 東京消防庁
  8. 佐藤栞里さん34歳の誕生日報告「今年はそろそろくらくらさせてしまうのではないかなと」 #手作りお誕生日特設スタジオ
  9. 圧巻!阿部一二三 2大会連続金メダル!妹・詩の思いも背負った連覇、東京五輪から無敗で達成【パリ五輪】
  10. イラン 改革派のペゼシュキアン新大統領が就任
  11. まさに神業…『噛みつく犬』の心をたった数分間で開いた『ドッグトレーナーのしつけ』が562万再生「感動した」「プロって本当に凄い」と称賛
  12. 圧巻!阿部一二三 連覇へ好スタート、妹・詩の衝撃的な敗戦から約35分  集中した試合運びで快勝
×