4月1日、イスラエル・ガザ地区で食料支援活動中のNGOの車両がイスラエル軍の攻撃を受け、アメリカ国籍を持つ白人などを含む7人が死亡した。これにはさすがにアメリカも黙っていない。「このままならイスラエル支援を考え直す」とバイデン大統領はネタニヤフ首相に伝えたという。しかし、NGOの白人が犠牲にならなくても、イスラエルのガザ地区での所業は既に度を越えている。そしてイスラエルの非情な攻撃に使用されている武器・弾薬のほとんどはアメリカが供与したものだ。このアメリカのイスラエル支援を別の角度から非難する2人を取材した。
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「(ネタニヤフは)権力を維持するための口実として戦争を利用している」
番組が話を聞いた一人はイスラエル人だ。彼は2023年10月のハマスによる武装蜂起で両親を亡くしていた。だが彼の訴えはハマスへの憎しみでもなければネタニヤフ政権への支持でもなかった。
ハマスに両親を殺害されたイスラエル人 マオズ・イノンさん
「私の人生は(2023年の)10月7日に変わった。両親を亡くし多くの幼馴染や親子を失った。あの悲劇的な日からもうすぐ6か月になる。それ以来、私は復讐をしないこと、そして未来がより良いものになるよう皆に呼び掛けてきた。ハマスは私の両親を殺した。だが分かち合える未来を築くためにハマスを許さなければならないのだ。同様に私たちを守ってくれなかったイスラエル政府も許さないといけない。私の中にはイスラエル政府に対する怒りが渦巻いていた。その怒りは肉体的にも精神的にも私を蝕んだ…」
イノンさんは今イスラエルとパレスチナの和平の実現をライフワークにしている。この半年の間にイスラエル、ガザ地区、ヨルダン川西岸をはじめ世界をまわり何千人ものイスラエル人、パレスチナ人、さらに国際社会の人々に会った。そして、イスラエル人とパレスチナ人が…、ユダヤ人とアラブ人…、みんな公共のイベントや非公開の集まりで和平の希望を作ろうとしていることを知ったという。
しかしネタニヤフ政権は完全勝利まで戦い続ける公言している。
ハマスに両親を殺害されたイスラエル人 マオズ・イノンさん
「10月7日以降、人質が死ぬことがイスラエル政府の利益になっている。すべての人質がハマスの手によって死ぬことがネタニヤフ首相の利益なんだ。残念ながら(ネタニヤフは)この復讐によってイスラエル国民を団結させようとしている。彼は権力を維持するための口実として戦争を利用しているだけなんだ」
今、イノンさんがもっとも訴えたいことはアメリカのイスラエル支援についてだった。軍事支援をやめて、そのお金で和平のために働く人々の援助をしてほしいと願う。
ハマスに両親を殺害されたイスラエル人 マオズ・イノンさん
「アメリカからだけでも200億ドル相当の援助を受けている。イスラエルはこの援助で何をすると思う? 戦争だ。私たちは戦争の道具ではなく平和と和解の道具を受け取ることが必要なんだ…。軍事援助の半分の100億ドルだけでも(私たちの運動が)受け取れれば1年以内にパレスチナ人とイスラエル人の間に平和が訪れるだろう」
アメリカはイスラエルに1年間約38億ドル(約5300億円)の軍事援助を決めている。
防衛大学校 立山良司名誉教授
「アメリカは2月に戦争方や国際人道法に違反しないようにイスラエルに確約を求めている。38億ドル10年間続けるというのは確かに議会を通っているのかもしれないが、実際の武器の移転は遅らせることもできるはず。それなのに今、以前にも増してイスラエルに武器供与をする頻度が増えている。その武器はヒズボラに使われるのかもしれないがガザで使われ、一人のハマスを殺害するためにたくさんの民間人を殺害している。民間人の標的にしていないというのかもしれないがこれは民間人を標的にしていると言われて仕方ない」
「バイデン政権はイスラエルに武器を提供し続けるために・・・法律から目を背けている」
インタビューしたもう一人は、オバマ・トランプ・バイデン3代の大統領の下、アメリカ国務省で武器支援を担当してきた人物だ。
ジョシュ・ポール氏。彼はアメリカの武器支援策の矛盾に抗議し辞職している。
元アメリカ国務省政治軍事局局長 ジョシュ・ポール氏
「2023年2月バイデン政権は新しい通常兵器移転政策を発表した。アメリカが輸出した武器が民間人への攻撃など人権侵害のために使用される可能性が高い場合は武器の移転を許可してはならないとしている。(中略―――だがガザ地区で民間人が犠牲になっているのにイスラエルへの武器移転は許可されている…)これは第一にトップが決めた方針だ。最初の段階からイスラエルへの武器支援には条件を付けるつもりはない。レッドラインは存在しないと明言している。アメリカが安定的に武器を供給している限りイスラエルが外交的メッセージを重要視する理由はない。重要なのは武器なのだ…」
ポール氏はガザ地区を爆撃している戦闘機も爆弾もアメリカのものだと言い、追加支援された強力な2000ポンド爆弾が人が密集した難民キャンプで使われ、何百人もの民間人が死亡したと話した。これは明らか政策や法令に違反しているとポール氏は訴える。
元アメリカ国務省政治軍事局局長 ジョシュ・ポール氏
「バイデン政権はイスラエルに武器を提供し続けるために非常に明確なアメリカの法律から目を背けている。(中略)イスラエルは(アメリカの要請に応じ、兵器が民間人に使われたかを調査した)報告書を既に提出した。でもそれは公表されておらず、アメリカ政府はイスラエルが民間人に危害を与えていないと判断している…。私は報告書が真実だとは思っていない」
ポール氏は、ウクライナへの武器支援に関しては民間人への影響を激しく議論したのに、イスラエルへの武器供与に関しては議論すらしない。このことが“アメリカのダブルスタンダードだ”とワシントンポストに寄稿し抗議、自らの職を辞した。
明海大学 小谷哲男 教授
「これ異例なんですけど、アメリカとイスラエルは10年ごとに年間の援助額を決めた覚書を交わしている。だから毎年自動的にこの38億ドルをアメリカ議会は承認するという流れになってきました。それはアメリカの中にイスラエルの安全保障を重視するという考えが浸透してるから…(中略)ただポール氏が職を辞した時、バイデン大統領はイスラエル一辺倒だったのはたしかだが、大分政権の中も変わってきていてイスラエルが求めている者すべてを渡さないということもあり得るようにはなってきていると思います」
「手に入る食べ物は地面に生えてる草」
イスラエル、アメリカそれぞれの事情で武器は供給され続け、ガザ地区への攻撃は止まることを知らない。そのガザ地区では人口の半分、約110万人が壊滅的な飢餓状態にあるという。住民の半数近くが14歳以下の子どもであり、その多くが栄養失調と戦っている。
現地を取材するジャーナリストと連絡が取れた。彼から送られてきた写真とメッセージは想像を絶するものだった。
フォトジャーナリスト ムーサ・セーラム氏(ガザ北部在住)
「ガザ北部には約8万人住んでいるが援助は少ししか届かず、子どもや貧しい人々の飢えを癒すには十分ではない。食べ物が無いんだ。手に入る食べ物は地面に生えてる草だ…」
支援物資が空から落下傘で投下される。わずかな物資に人々が群がる。そこをイスラエル軍の攻撃が襲う。先月(3月)だけでもガザの食糧支援を受け取ろうと押し寄せた住民にイスラエル軍が発砲し21人が死亡したり、難民キャンプの物資の配布所が空爆され8人が亡くなったりしている。
セーラム氏のメッセージにはこうあった…
「ガザ北部では食料は血まみれになってる」
(BS-TBS『報道1930』4月5日放送より)