なぜ学生デモは全米で“今世紀最大規模”になったのか 専門家が指摘する背景と「大統領選への影響」

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-05-26 06:00
なぜ学生デモは全米で“今世紀最大規模”になったのか 専門家が指摘する背景と「大統領選への影響」

パレスチナ自治区ガザへ侵攻したイスラエルに反発し、全米の大学に広がった学生によるデモ。4月30日にはニューヨークにあるコロンビア大学に警察が突入し、校舎を占領した112人の学生らを逮捕。AP通信によると、5月20日時点で3000人以上の学生が逮捕されているといいます。

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なぜデモはここまで広がったのか。そして半年後に迫る大統領選への影響は。学生運動の歴史を研究するニューヨーク大学のロバート・コーエン教授に聞きました。

“今世紀最大の学生運動”の実態

――今回のデモはこれまでの歴史においてどのような規模なのか

21世紀のアメリカの学生運動において最大の運動と言えます。あっという間に100近くの大学に広がり、2000人以上が逮捕されました。

しかし、学生運動が最高潮に達したベトナム戦争終盤に起こったデモと比べると、比較的小規模で穏健です。ニューヨーク大学には、約3万人の学生がいますが、抗議に参加しているのは約200人の学生にとどまっていることから分かるように、参加している学生の割合は少ないです。

これまでにも「ウォール街を占拠せよ」を合言葉にした格差是正を訴えるデモや「ブラック・ライブズ・マター」をスローガンにした人種差別への抗議デモなども全米に広がりました。しかし、これらのデモは大学キャンパス外で行われることが多かった。今回のイスラエルへの抗議デモは、キャンパス内で行われる21世紀初の本格的な大衆運動と言えます。

――どうしてここまでの広がりを見せたのか

まず第一に、コロンビア大学などで警察がデモ隊を強制排除したことは非常に劇的で、デモに対する意識を高めました。

また、20世紀には存在しなかったもう1つの要素がソーシャルメディアです。SNSはガザで何が起こっているのかを伝え、このデモに関するニュースも非常に急速に拡散されました。

1980年代のアパルトヘイトへの抗議デモは、家に帰ってテレビを見ないと情報が得られなかったため、今回のように急速には広がりませんでした。

――改めて1960年代のベトナム戦争への反戦デモとの違いは

当時は徴兵される可能性があり自分事でした。政府の政策と軍事力の行使を懸念している点では似ていますが、その規模は今回のデモの方がはるかに小さい。

そして今回のデモに反対する立場の学生がいます。反対派はそれほど大規模ではありませんが、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でデモ隊と衝突していました。

職を失いたくない!?大学側の対応は

――デモに対するコロンビア大学の対応をどう見るか

昨年末に「抗議デモを放置することで反ユダヤ主義を容認した」としてハーバード大学ら3大学の学長が、アメリカ議会下院の公聴会に呼ばれました。その後、ハーバード大学とペンシルベニア大学の学長は辞職に追い込まれました。最も権威のある大学、ハーバード大学の学長に起こったことは波紋を広げます。

コロンビア大学の学長は、職を失わないためには学生を抑圧するほかに選択の余地がないと思ったのでしょう。しかし、抑圧は裏目に出ます。大学側は警察に通報しましたが、学生たちは抗議を続け、停学処分を受けることになりました。抗議活動をエスカレートさせ校舎の占領に繋がったと思います。

――今回のデモを受け大学側が考えるべきことは

アメリカの大学は資金運用のために様々な企業に出資していますが、学生たちの要求の1つは、イスラエル軍などと関係のある企業への出資を撤退することです。しかし、学生は大学の方針に対して投票権を持たず、学長に投票できない。学生にできることは、人々の関心を引くために騒ぐことだけでした。

米国のほとんどの私立大学がそうであるように、教育委員会の評議員会には学生がいません。この状況を変える必要性が認識されることを願っています。実際、カリフォルニア大学などの一部の州立大学で60年代から70年代にかけて、少なくとも1人の学生を理事会に入れるよう改革が行われました。

大統領選にも影響 1968年の再来は

――この秋の大統領選にどのような影響を与えるのか

2020年にバイデン大統領がトランプ氏を破った主な理由の一つが若者の投票だったので、影響があると思います。バイデン大統領は若者を失いたくないのです。若者たちはSNSなどで死んだ子供たちの映像を見て、とても動揺しバイデン大統領を支持することに混乱が生じる可能性があります。

しかし、注意しなければならないのは、それは少数派であるということです。世論調査の結果によると、若者全般はインフレなど他の問題を重要視しています。一方で、少数の若者の影響であっても、大統領選が接戦になっているので双方を悩ませると思います。

1968年にシカゴで開かれた民主党大会ではベトナム戦争に抗議する学生らと警察が衝突し「流血の党大会」と称された。その後、共和党のニクソン氏は混乱を抑えきれなかった民主党候補を批判し、その年の大統領選で勝利しました。

――“1968年の再来”はあるのか

今年の民主党大会もシカゴで開かれるので、人々の関心を集めています。もし、党大会でまた暴力行為が起きたら、バイデン氏にとって大きな痛手となるだろう。

しかし、歴史は繰り返されないと思います。1968年は非常に抑圧的な市長がいて、警察はこの運動に対して非常に敵対的でした。さらに、戦争が激化し続けているため運動は怒りのムードに満ちていた。一方で、今は反動的な市長はいないし、警察は今回の学生デモにいらだっているわけではない。今の学生たちは実際に暴力を受けた経験もないので、非暴力的な抗議活動が行われる可能性が高いと思います。

偏見は捨て訴え受け止めて

――私たちは学生たちの声をどう受け止めるべきなのか

アメリカの学生運動は、人種差別と闘う、言論の自由を擁護する、などの大義があったとしても、賛同して行動するのはいつも一部の学生にとどまっています。

その理由は、世間が「学生はルールに従うべきで、波風を立てずに勉強をしなさい」と思っているからだと思います。しかし、そのように考えるべきではないです。それはバスケットボール選手に『政治的な立場を表明せずに黙ってプレーしろ』と言っているようなものです。

もし学生たちが間違った行動をしたとしても、『外部の扇動者が学生をあおっているのだろう』という偏見を持つのではなく、学生たちの訴えに真摯に耳を傾け、その意見を受け止めるべきだと思います。

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