裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の修正協議が始まりました。「政治とカネ」の透明化に消極的な自民党案に対し、当初、厳しい姿勢を示していた公明党が一転、賛成する方針となりました。背景には何があるのでしょうか?
【写真を見る】「本当にいいのか、と申し上げたい」 自民案に公明が一転賛成 野党から批判の声 「政治とカネ」の改正法案 与野党修正協議スタート【news23】
2週間前は強気だった公明党 自民案に賛成方針
立憲民主党 岡田克也 幹事長(5月28日午後3時ごろ)
「それで本当にいいのかと公明党に申し上げたい。自民党の領収書も何もない政策活動費をいわば追認するような。まさか賛成しないでしょうねと」
野党からあがった、公明党への批判。
“政治とカネ”をめぐり、「お粗末」と揶揄される自民党の改正案に賛成する方針だからです。
5月28日に行われた、与野党の政治資金規正法の改正案をめぐる修正協議。
自民党に対し野党側が共同で要求したのは、▼企業・団体献金の禁止、▼政策活動費の廃止または全面公開、▼“連座制”の強化の3項目です。
一方、与党・公明党は、▼パーティー券購入者の公開基準の引き下げ、▼政策活動費の使途明細を報告、▼起訴されたら政党交付金を中止、▼施行後3年で見直し、の4項目を要求しています。
特にパーティー券購入者の公開基準の引き下げについて、現行の20万円超に対し、公明党は5万円超を求めていますが、▼自民党は10万円超を主張していて、譲るつもりはなさそうです。
裏金事件を受けて始まった政治資金規正法の改正をめぐる議論。
公明党の山口代表は2週間前…
公明党 山口那津男 代表(5月14日)
「事件を起こして国民の不信を招いた自民党自身がもっと国民の信頼を回復できるために、謙虚な姿勢で自らを省みて、合意と納得を得られるような姿勢を示しながら合意形成を進めることが大事」
強気だった公明党ですが、協議のなかで「法律の施行から3年後に改正法を見直す」という案が浮上しました。
いわば”問題の先送り”とも受け取れる案ですが、公明党はこれで手を打ち、自民党案に賛成する方針です。
公明党の姿勢に…
日本維新の会 藤田文武 幹事長(5月28日午後2時すぎ)
「公明党が出していた政治改革の案は、どちらかというと我々に近い。公明正大な主張をしていたにもかかわらず、自公政権は結局、大人の対応で、国民の期待に応えられない結論に至るのではという危惧を持っている」
自民党は各党からの要求を持ち帰り、29日に修正案を提示する方針で、改正案を週内に衆議院で通過させたい考えです。
自民党が公明党を焦らす? 修正案“施行後3年で見直し”の背景に
小川彩佳キャスター:
政治とカネを巡って、公明党は自民党に対して厳しい姿勢を示し続けてきましたが、ここに来て動きが出てきました。
宮本晴代 記者:
最初は厳しかったのに、いわば肩透かしを食らったような印象ですよね。
藤森祥平キャスター:
政治資金規正法の改正などのポイントは、大きく分けて2点あります。
1つ目は、パーティー券購入者の公開基準で、現在の基準は20万円を超える額ですが、自民党は10万円を超える額を提案、公明党はより透明性を高めようと5万円を超える額まで引き下げを提案しています。
28日の衆院政治改革特別委で自民党が推薦した参考人は…
東京大学 谷口将紀 教授
「5万円超に引き下げる案は合理性を有する」
ところが、29日に提示される自民党の修正案では、10万円を超える額は同じです。ただ、法律施行してから3年後に改正法を見直す規定を盛り込んできました。
小川キャスター:
10万円であっても、5万円であっても、国民としては「そこなんですか」という感覚ですよね。
自民党は10万円超を維持し、3年後に法改正を見直すという案ですが、宮本さんはどうご覧になりますか。
宮本晴代 記者:
3年後の見直しと言っても、一言で言うと問題の先送りでしかないんです。
背景について、公明党はもともとパーティー券購入者の公開基準を5万円超と、かなり頑なでした。
ただ、自民党にとって、公明党は25年間連立を組んできたパートナーです。ここで利用したのは、日本維新の会という“パートナーを組むこともできる相手”です。
自民党としては「いや、私たちには維新さんがいますから」と、ちらつかせる。すると長年一緒にいたパートナーの公明党は、ちょっと焦ります。
政策面でも政治資金の話に限らず、「自民党と日本維新の会は協力する余地がある」ということを見せることで、最終的には公明党が降りざるを得なくなった、ということのようです。
ジャーナリスト 澤康臣さん:
(公明党の)最初の勢いはどうなったんでしょうか。今の話を聞くと、自民党に切られたくないから降りたというふうに聞こえます。
「政権にいたいがために、最初の理想を捨てた」と言われても、仕方がないのではないでしょうか。非常に強い説明責任が発生するように思われます。
政策活動費“使用月・金額・目的を公開”も領収書不要の案 維新は領収書添付するも…
藤森キャスター:
そしてもう1つのポイントが政策活動費の透明性です。党から議員に渡されるものですが、現状では使途(使い道)の公開義務はありません。
その見直しとして、自民党は当初1件あたりの金額が50万円を超えたものに限りですが、▼項目別で支出額を公開(選挙関連費など)、▼領収書は不要としています。
公明党は▼明細書で使途を公開、野党は▼廃止または全面公開を主張しています。
これらを受けて自民党の修正案では、領収書不要は変わりませんが、▼使用した月・金額・目的を公開するとしました。
どこまで使った目的を明らかにするかわかりません。
宮本晴代 記者:
そもそも政策活動費は、ずっとブラックボックスだと批判されてきました。
修正案を見ると、使った使用月・金額・目的を公開とありますが、領収書は不要ということで、いわばブラックボックスの中を開けたら、小さなブラックボックスがまた出てきたという印象を受けてしまいます。
領収書でいうと28日に、日本維新の会は去年使った政策活動費の一部について、領収書で使い道を出してきました。
名目、使用額、使用年月日が並んでおり、マスキングしてある実際の領収書も添付されています。
ただ内容を見ると、宛名が空欄、但し書きがないなど、なかなか民間企業でも見ない形になっています。でも、他の党は実施していません。
なので日本維新の会としては、先駆けて領収書を公開することで、与党にプレッシャーをかけられ、他の野党との差別化をアピールできるということです。
「非常に危険な動きとも言える」 情報開示と個人情報保護
小川キャスター:
少なくとも領収書をつけて最低限トレースできるようにしないと、ブラックボックスの中にさらに小さなブラックボックス、ということになりますよね。
ジャーナリスト 澤康臣さん:
領収書なしでどうやって証明するんでしょうか。もともと“裏金”から始まった話ですよね。訳がわからないところで、お金が見えないところに行っていた。それを見えるようにすることは、一丁目一番地です。
つまり透明性が必要で、一般市民の誰もがチェック・検証できるようにする。領収書や献金など、パーティー券であれば、誰が関わったか、住所・氏名・職業がきちんとオープンにされて初めて、意味が出てくるんです。
それをないがしろにするようなことをされたら、かえってごまかしの疑いを持たざるを得ないです。特に制度改正をしようとすると、何かと個人情報の保護を理由にしますが、情報開示と個人情報保護というのは目的が違います
それを一緒にしてどうするんだと思います。非常に危険な動きとも言える気がしますね。
小川キャスター:
今後の動きはどうですか。
宮本晴代 記者:
28日、自民党は野党からの宿題を持ち帰りました。29日に修正案を出してくると思いますが、そこでどんな案が出てくるのか、私たちはしっかりと見ていかないといけません。
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<プロフィール>
澤康臣 さん
ジャーナリスト
早稲田大学教授、元共同通信記者
パナマ文書報道など数多くの調査報道を行う