掃除機は確かに便利な道具です。掃き掃除だと何倍も時間がかかるところをあっという間にキレイにしてくれます。ただし、それは人間に限った話です。多くの猫からすると、掃除機はひたすらホラーな存在でしかありません。今回は、恐怖感を抱く理由とは何か、3つのポイントに絞って紹介します。
1.騒々しい音がこわい
掃除機は、猫にとって「宿敵」です。平穏無事な暮らしを壊す不届き者です。スイッチが入ったとたん、物静かな性格を豹変させ、「オラオラそこどけ!」と爆音を撒き散らしながら、部屋中を駆け回ります。さながら「天下無敵」を旗印にした家庭内ボーソーゾクです。
取り締まり強化を願いたいところですが、困ったことに、首謀者、つまり、ソーチョーは飼い主さん本人です。この世に正義はないのか…とため息をつきつつ、愛猫はまっさきに、カーテンの向こう、ソファーの下、あるいは、別室へと逃げ去っていきます。
掃除機の音は70デシベルで、人間にとっても「うるさい」レベルです。猫の聴覚は、可聴域で約60~6万ヘルツ、人間の約3倍の能力を備えています。猫からすれば、掃除機の音は、苦痛を伴う騒音と言ってもいいでしょう。
猫パンチ、猫キック、低い姿勢からのジャンピングアタック、あらゆる必殺技を駆使しても、あの憎きボーソーゾク「双児鬼」に対しては歯が立ちません。
嵐が過ぎ去るまで、物陰に身を潜め、図書館のような静けさ(40デシベル)が戻るのをひたすら待ちます。ソーチョー(飼い主さん)の早期更正を願いつつ。
2.縄張りを荒らす邪魔者だから
親に抱かれた幼い男の子が通過する電車を熱心に見つめている。時々、そんな場面を見かけます。巨大なマシンが動くさまは、子供にとっては驚異であり、不思議そのものなのでしょう。
ところが、猫の場合は、まったくの逆です。自分より身体の大きな存在は脅威でしかありません。野生の世界では、猫にとって捕食者の立場です。もちろん、掃除機は電車ほど大きくないですが、それでも猫よりは少なくともひと回り程度は上回っています。「ただちに警戒せよ!」の猫内サイレンが鳴り響くのも当然でしょう。
T字のヘッドに長いホース、未来の乗り物のようなボディ。視力が0.1~0.2ぐらいの猫にとってサイクロン型掃除機は、巨大な野生動物に見えるのかもしれません。いわば、「サイ・クロン」です。野生のサイは意外と縄張り意識が強く、侵入者に対してはシビアに反撃することで知られています。
しかも、コードレスだから、動きも自由自在です。家具の際やキッチンテーブルの脚など、偶然にも普段、愛猫が匂いづけするところばかり辿っていきます。まさに縄張りを荒らす悪党です。追い払いたいところですが、あまりにも鳴き声(掃除機の音)が騒々しく、簡単には近づけません。不用意に接近すると、T字型のツノで攻撃される心配もあります。
単独行動を信条とする猫は、何よりも自分の身を守ることが第一です。飼い主さんの安全はとりあえず後回し。かくして愛猫は、「サイ・クロン」の追跡を振り切り、狭いところ、さらに狭いところへと逃げ込んでいきます。
3.イヤなことは忘れない
中学時代、部活明けの休日、ぐったり疲れて自分の部屋で昼近くまで眠りこけていると、母親に叩き起こされたあげく、掃除機がけを強行された…。掃除機の音を耳にするたび、ふと、ほろ苦く思い出す人もいるかもしれません。
月日が経つと、記憶を美化したり、忘れたりするのが人間ですが、猫はそうもいきません。イヤだったことを実によく覚えています。生き残るため、負の出来事=リスクは避けるべき対象だからです。
初めて我が家で掃除機を目にしたときの衝撃は、おそらく、愛猫の脳内でいまだに真空パック状態で保存されているはずです。恐怖の騒音、不可解な動き。いったん不快なものとしてインプットされてしまうと、掃除機を見るだけで逃げ出してしまいます。猫のネガティブな記憶は、どんな強力な掃除機であっても、簡単にはバキュームできません。
掃除機嫌いを克服する方法とは?
結論から言うと、克服させるよりも、愛猫に「なるべくストレスをかけない」路線に切り替えたほうが賢明です。「イヤなものはイヤ!」と主張する猫を変えるのは、基本的に諦めたほうがいいでしょう。
とは言え、掃除を怠れば、我が家は汚れる一方です。対処療法的な方法ですが、以下のことを試してみてください。
- 掃除機をかける間だけ、別室へ移動してもらう
- 愛猫の避難場所をあらかじめ作っておく
- 音の小さな掃除機を選ぶ
- お掃除シートなどの清掃グッズをフル活用する
まとめ
掃除機をかけたとたん、「わーい、遊ぼう!」と駆け寄ってくる子はごくまれです。ほとんどの猫は拒絶反応を示します。大きな音、不規則的な動き、さらに初対面時の最悪な印象。猫の苦手が三拍子そろっています。
猫を「改心」させることは不可能と言ってもいいですから、やはり、飼い主さん側で対策するのがいちばんです。別室への誘導の他に、音の小さな掃除機に切り替える、お掃除シートの活用など、いろいろと試しながら、最も愛猫の負担にならない方法を探し当ててみてください。
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