世界に衝撃を与えたトランプ前大統領銃撃のニュース。銃撃された直後に血を流しながら拳を突き上げる象徴的な写真がSNSなどで拡散されています。殺傷能力が高いライフルでトランプ氏を銃撃したのは20歳の男。地元の射撃クラブに入っていたという男の素顔が見えてきました。
【写真を見る】“暗殺未遂”直後…トランプ前大統領の肉声、「いじめられっ子」射殺された容疑者の素顔は?容疑者のTシャツに銃への関心?【news23】
“暗殺未遂”直後…トランプ前大統領の肉声 容疑者は警察官の隙をついて発砲
響き渡った複数の銃声。
事件は、日本時間15日、東部ペンシルベニア州で行われたトランプ前大統領の選挙集会で起きました。
トランプ前大統領
「史上最悪の(バイデン)大統領が就任し、我が国に何が起こったか見てくれ。2000万人か、この図は少し古いな」
いつもの“トランプ節”の演説が行われる中、銃声とともにうずくまるトランプ氏。
別の映像では…
「銃を持ってるぞ!屋根の上だ!」
ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏の頭のすぐ近くを銃弾が通過しているように見える白い線が写った写真を公開しました。
会場から悲鳴が上がる中、マイクはトランプ氏の声を拾っていました。
トランプ氏
「靴を取らせてくれ」
シークレットサービスに抱きかかえられ、立ち上がったトランプ氏。右耳から血を流しながらも、何度も拳を突き上げ、自身の無事をアピールしました。
車に乗り込む際にも、聴衆を鼓舞するように再び拳を突き上げました。
事件後、SNSで…
トランプ氏(SNSへの投稿)
「私は右耳の上の部分を撃たれ、銃弾は貫通した。銃声が聞こえすぐに銃弾が皮膚を裂くのを感じた。たくさん出血したので、何が起こっているかそのとき理解した」
銃撃犯とみられる男は現場で射殺されました。ペンシルベニア州に住む、トーマス・クルックス容疑者(20)。
トランプ氏が演説をしていた場所から約135m離れた建物の屋上にいたとみられています。
現場を別のカメラで見てみると、クルックス容疑者がいたとされる屋上は演説するトランプ氏の姿が遠目に見える場所だったことがわかります。
事件直前、ライフルを持った男を会場で見たという人がいます。
目撃者
「『ライフルを持った男が屋根にいるぞ! 』と伝えたが、警察官は『え?何?』という感じで、何が起きているのか分からないようだった。『すぐそこの屋根の上だ!這っている!』と伝えた。私はなぜトランプ氏はまだしゃべっているんだ?と思った。なぜ彼をステージから下ろさないんだ?と。次の瞬間、銃声が鳴り響いた。(Q.屋根の上の男が撃ったのは確かか?)100%そうだ、100%」
AP通信によりますと、クルックス容疑者は、屋上に駆け付けた警察官にライフルを向け、警察官がはしごを降りた隙にトランプ氏に向けて発砲したということです。
現場を訪れた元シークレットサービスは…
元シークレットサービス
「疑問なのは約135mしか離れていない建物に注意が払われなかったことだ。そんなことは決してあってはならない。警備にほころびがあった」
「いじめられっ子」「ハエ1匹も傷つけないような人」射殺された容疑者の素顔は?
現場で射殺されたトーマス・クルックス容疑者の素顔も徐々に明らかになってきました。
これは2022年に行われた高校の卒業式でのクルックス容疑者の姿。眼鏡姿で笑顔で卒業証書を受け取っています。
記者
「クルックス容疑者の自宅近くでは、警察による捜索が続けられているものとみられ、警察車両が今も多く止まっています」
銃撃現場となった集会場から車で1時間ほどの、ペンシルベニア州ベセルパークという緑豊かな郊外の街に住んでいたクルックス容疑者。
地元メディアによると、クルックス容疑者は高校時代に「全米数学・科学イニシアチブ」のスター賞という、優秀な生徒に贈られる賞を受賞していたといいます。
学校の同級生は、当時のクルックス容疑者について…
高校の同級生
「彼はいじめられっ子で、昼休みも一人で座っていた。彼はたまに狩りの格好をしていて、服装のことでからかわれていた。コロナの後も、いつもマスクをしていた」
別の同級生は、「彼(クルックス容疑者)はハエ1匹も傷つけないような人だった」と話しているということです。
現在は介護施設に勤務していて、食事の介助をしていたというクルックス容疑者。施設の責任者は、「勤務態度に問題はなく、彼の関与を知って驚くと同時に悲しい気持ちでいます」とコメントしています。
“射撃クラブに通っていた” 容疑者は銃への関心も?
容疑者と政治との関係も見えてきました。
アメリカメディアは、クルックス容疑者が民主党のバイデン大統領が就任した2021年に民主党系の組織に15ドル(約2300円)献金を行っていて、その後、州の有権者登録には共和党員として登録していると報じています。
一方、クルックス容疑者の車や自宅には爆発物が残されていて、現場で使われた銃は容疑者の父親が合法的に入手したものだということです。
使われたのは「AR15」という殺傷能力が高いライフルです。
銃器評論家 津田哲也氏
「米軍の正式銃の民間モデルとして発売されたものが『AR15』。フルオートマティック(連射)が撃てるか撃てないかの違いで、(米軍用と)殺傷力や命中精度に関しては全く同じ」
その上で、“約135m”という距離については…
銃器評論家 津田哲也氏
「望遠レンズがついた照準器をつけた場合は、非常に容易くなる。(軍用の)訓練は300m(の距離)で行う。それの半分以下の距離、銃の性能からすると容易い距離。もし容疑者がスコープ(照準器)を使ったのであれば、それほどの射撃の技能がなくてもヒットさせることが可能だったのでは」
経験が少なくても扱えるというライフル「AR15」。アメリカメディアによると、クルックス容疑者は高校1年生のときに射撃部の入部テストに参加したものの、合格しなかったということです。
一方、地元の射撃クラブに少なくとも1年間通っていたことが明らかになりました。
2000人以上の会員がいるというこの射撃クラブ。複数のライフル射撃場があり、中には約180mの射撃場も備えられているといいます。
現場でクルックス容疑者が来ていたTシャツは、銃器や爆発装置の性能についての動画を配信するYouTubeチャンネルのグッズだったということで、銃への関心が伺えます。
FBIは単独犯によるものだとみて、動機の解明を進めています。
家族をかばい犠牲となった地元の消防士 娘「私は本当にあなたを愛しています」
記者
「事件で亡くなった男性が使っていた消防服のすぐそばには、このように花が手向けられています」
演説会場では、地元の消防士のコーリーさんが撃たれ亡くなりました。家族をかばって犠牲になったということです。
娘のアリソンさんは…
娘・アリソンさん
「お父さんは私たちを本当に愛していました。私たちの代わりに実弾を受けるほどに。私は何も望みません。お父さんのために泣いて、ただありがとうと言う以外に。お父さん、私は本当にあなたを愛しています。その愛の深さを言い表す言葉はありません」
亡くなったコーリーさんの同僚
「彼は本当に思いやりがあり、できるだけ多くの人を幸せにしたいと思っていました。自分より皆を優先していました」
トランプ氏は共和党大会へ
全米を震撼させた事件から一夜明け、トランプ氏は共和党大会が行われる。ウィスコンシン州ミルウォーキーに到着しました。
トランプ氏のSNS
「銃撃者に予定を変更させない」
SNSにこう投稿し、力強さをアピール。15日から開幕する大会で、大統領候補として正式に指名を受けます。
トランプタワー前には大勢の支持者が集まりました。
トランプ氏の支持者
「今はとても複雑な気持ちだけど、トランプ氏が殺されなかったことに感謝しているよ」
トランプ氏の支持者
「トランプ氏がいかに強い男か分かった。決して降伏せず、国のために戦い続けてくれる」
また、実業家のイーロン・マスク氏は事件直後、SNSに「私はトランプ氏を全面的に支持する」と投稿。今回の事件を機に、指示を明確に打ち出した形です。
一方、バイデン大統領は、民主党と共和党支持者の間で対立が激しくなっている状況などを踏まえて国民に向け、こう訴えました。
アメリカ バイデン大統領
「忘れてはならない。我々は意見が違っても敵同士ではない」
「今こそ冷静になるときだ」と、党派を超えた団結を呼びかけました。
またバイデン陣営は事件後、トランプ氏への批判CMを取りやめていて、今回の事件が両者の選挙戦略にも大きな影響を与えそうです。
民主党の選挙戦略に変化は?
小川キャスター:
宮田さんは今回の事件をどう受け止めましたか?
データサイエンティスト 宮田裕章さん:
今回、1枚の写真が未来を変える可能性があるということを改めて強く感じました。
話題となったこの写真なんですが、三角形の完璧な構図で、後ろに国旗があり、さらにはトランプ氏を支えているのが女性なんです。
この写真は、有名な報道の賞を取ったカメラマンがたまたまその場にいて撮ったものなので、凄まじく上手い写真で、当たり前なんですが、これがまさにトランプ氏の政治姿勢をより底上げして見せていくだろうと。
つまり、父権的なトランプ氏が女性によって支えられているということがプラスの効果になりうるということですね。
これによって、これまでは極端な姿勢をとって支持層を掴んでいたトランプ氏が、中道の人たちに対してもアピールする姿勢に、たった1日で変え始めたんですよ。
これによって、良識を呼びかけたりしていた民主党が、すごく選挙戦を戦いづらくなるんじゃないかなというふうに思うのですが?
樫元照幸記者:
今回の事件が起きる前は、「バイデン大統領の撤退論」がワシントンや全米の大きな焦点でしたが、事件を受けて、その空気が大きく変わりました。
民主党側は、もしバイデン大統領が撤退をすれば、名乗りを上げる可能性があったと言われた人たちが、状況が良くなく後ろ向きになっているとアメリカメディアは報じています。
民主党も仲間割れをしていれば、一体感を増した共和党に太刀打ちできないという危機感もあり、撤退論が収束していく可能性があります。
バイデン大統領ですが、日本時間15日にNBCの単独インタビューを受けます。
ここで元々は撤退論や認知能力が大きな焦点となるはずでしたが、今はバイデン大統領としては非常事態に対して国民を落ち着かせ、そして団結を訴えるという、リーダーとしてしっかりとした姿を見せられるか、ここが焦点になってくると思います。
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<プロフィール>
宮田裕章さん
データサイエンティスト
慶応大学医学部教授
科学を駆使して社会変革に挑む