「虎に翼」は“スンッ”とせざるを得ない人たちにもスポット~4月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

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2024-07-20 07:30
「虎に翼」は“スンッ”とせざるを得ない人たちにもスポット~4月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

2024年4月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が語る。

「虎に翼」の寅子は実は嫌われかねない?

影山 「虎に翼」(NHK) から語りましょう。

倉田 社会の受けとめ方、視聴者への浸透度が、これまでの朝ドラと違うように思います。朝ドラは大体、最初見て、だんだん見なくなるパターンが多いんですが「何十年ぶりに毎朝見てる」「一話も欠かさず見てる」という人が周りにいます。見る側の熱量が違うんです。

 初回に、法の下の平等をうたう憲法14条が出てきて、これをテーマに描くというだけで、心魅かれました。今の日本、全ての人が平等であるべきですが、現実には必ずしもそうではないですよね。平等という理想を追い求めてくれる作品なんだろうと思ったんです。

 100年前の女性の置かれた状況、親権を持てないとか、職業選択の自由もないとか。主人公の寅子が、そういう状況に対して怒り、あらがって、私たちの代弁者になって「この社会はおかしい」という疑問を呈し、自分の道を切り開いていく過程が痛快です。

 私は受験や就職で男女差別を感じたことはなく、働いていて、女性だからちょっとやりにくい面はもちろんあるんですが、機会という意味では平等に与えられています。それは主人公をはじめとする、私の前を生きてきた全ての女性の先輩方が、切り開いてくださった結果で、感謝したいという気持ちです。

田幸 私は今51歳ですが、父が定年退職の年に、大学に進学しました。父は「地元の短大でいいだろう」と言っていましたが、私を応援して、大学に行かせてくれたのは母でした。

 だから「虎に翼」で、最初に主人公にとっての壁として立ちはだかるのが、多くの朝ドラだと父親なのに、母親なんだ、珍しいなと思っていたら、実は母親も勉強が好きだったのに諦めざるを得なかったという過去があった。諦めさせられて「スンッ」とせざるを得なかった母親が「地獄の道だよ」と言って送り出してくれたところに感動してしまいました。

 このドラマですばらしいのは、トラちゃん(寅子)じゃない人、トラちゃんみたいに言いたいことを言って、やりたいことをやれるわけではなく、諦めさせられたり、言いたいことを飲み込んで「スンッ」とせざるを得ない人、世の中ではそういう人の方が主流ですが、その人たちにスポットを当てているところです。

 諦めさせられてきた市井の人々、女性だけじゃなく、正義のために餓死する花岡さんや、国籍が違う方も含めて、我慢をしてきて、いないことにされてきた、いろいろな人たちに光を当てている。

倉田 脚本の吉田恵里香さんの力が大きいと思います。流行語というか、「はて?」とか「スンッ」とか。言葉の響きだけで、どういう状況なのかを表現してしまうワードだけでも、センスがすごい。そして何よりすばらしいのが、まずエンタメ作品として、とてもおもしろい、ということですね。

影山 そこですよね。

倉田 男女の平等など、社会的に重要なテーマを描くことはもちろん大切ですが、それを難しい話で終わらせず、ドラマとしての楽しさに持っていく力を強く感じます。

影山 15分という放送時間を本当に有効に使っていますね。序盤から10分ぐらいすごくシリアスにいったかと思うと、後半でパーッと華やかな明るさに転じたり。伊藤沙莉さんの力も大きいと思います。

田幸 大きいですね。あの役は、ともすれば嫌われかねなくて、身近にいたら面倒くさいという声も結構あります。それも男性から見て面倒なのかというと、意外と女性でも、面倒くさいという人がいるんですよ。

影山 どういうことでしょうね。

田幸 「えっ、何で?」と聞くと、どちらかというと「スンッ」とさせられてきた人たち。それを我慢してきたことに無自覚で、嫌われないように、立場の強い人に逆らわず、いい子にしてきた人たちが、物言う女性を嫌う。闘う女性、はっきり物を言う女性を黙らせてきたのは、男の人だけではなく、黙って我慢してきた女性もそうだという根深い社会構造を感じます。

 でも、そのあたりも、伊藤さんが演じることで、やっぱり愛嬌がすごくあって思わず笑ってしまうし、トラちゃんというキャラクターが広く愛されているのは彼女の力が大きいと思います。

影山 緊張の緩和というか、そのバランスがとてもうまい。ヒロインのお父さん、岡部たかしさんが亡くなりそうなときに、石田ゆり子さん演じるお母さんが「まだよ」と言うんですね。ああいうシリアスなシーンで、朝ドラで「まだよ」と言うかな。耳を疑ったというか、うまいなというか。まさに緊張の緩和、すごく高度なことをやっている気がします。

白黒はっきりさせない「アンチヒーロー」

影山 「アンチヒーロー」(TBS)はいかがですか。

倉田 長谷川博己さん演じる弁護士がいい人なんだか悪い人なんだか。弁護士は正義の味方という社会のイメージの中で、あえて真逆を行く弁護士を主人公にすえて、どんな物語になるのかと思いながら見始めました。依頼人のためなら何でもする悪徳弁護士かというと、そうでもないし、このキャラクターづくりが、すごく魅力的です。

 実際、主人公は、冤罪事件の被害者を再審にかけるために、法律ぎりぎりの手段を使って、信念を持って被告を救おうと動くわけです。もちろん、自分が検事時代にかかわった冤罪事件で、それは自分が晴らさなければという思いもあるんですが、それでも最後まで、この人は本当にいい人なのかわからないところに引きつけられました。

 あと、ラスボス的存在というか、野村萬斎さん演じる検事との法廷での直接対決のシーンに私はもう、しびれました。

影山 あれは長回しでしたね。

倉田 お互いに演技を超えたというか、それぞれ役になり切って、すごい対決シーンだと感激しながら見ました。

 刑務所で罪を償って出てきた後にも、社会からは偏見の目で見られる。そういう状況が、悲しいけれど現実にあるわけです。冤罪で有罪になった男性が、実は横領事件を起こしていた人間だから、社会的に責められてもしようがないんだという野村萬斎さんのセリフがあったんですけれども。

影山 あそこの設定はうまかったですね。

倉田 自分が正義だと思うと、ちょっと悪いことをしている人をバッシングしていいといった空気が、今の日本にはある。SNS上でいろんな人が謝罪や、それこそ自殺に追い込まれることもありますが、一度失敗したらもう二度と戻ってこられない社会でいいんですかという問いかけを感じました。

影山 白と黒、〇×をはっきりさせたがる、ある種デジタルというか、二進法というか、そういう社会ですけど、実はその間がものすごくある。社会や人間というのはそんなに単純明快じゃない、というところを見せていましたね。

テレビの音量じゃなかった「アンメット」

影山 「アンメット ある脳外科医の日記」(カンテレ)へ行きましょう。

倉田 今期は記憶喪失ドラマが多くて、何でこんなにかぶるんだろうと思っていましたが、そのくくりの作品の中で特にすばらしかったと思います。

 まず、杉咲花さん演じる主人公の記憶喪失の症状が深刻です。過去2年分の記憶がなくて、1日たつと前の日の記憶も失くしてしまう。これは何て厄介な症状なんだろうと見ていたんですが、彼女の演技がすばらしい。そんな状況の中、医療従事者として生きている人物として、全く違和感がありませんでした。

 主人公が毎日、その日にあったことを日記につけて、次の日またそれを見返さなければならない一方で、記憶がなくても医療行為はできるというのを周りが支えている。すごく優しい世界で、こういう優しさが広まればいいなという気持ちになりました。もちろん恋愛ドラマとしても、ドキドキしましたし、医療ドラマと恋愛ドラマの両方のよさを感じました。

田幸 脳の機能の一部を失うようなことがあったとしても、そこからでも希望は見つけていけるんだという実感を、杉咲さんの表現力が伝えていました。後半に行くにつれて、ドラマというより、そこに生きている人たちのドキュメンタリーを見ているような感覚になって、もう最終回のやりとりが、テレビの音量じゃないんですよ。

影山 あれも長回しでしたね。

田幸 長回しで、テレビのしゃべりじゃない。普通にすぐそこにいる人たちの会話をたまたま聞いちゃったような音量とスピードと間です。あれをドラマでやられたら、ちょっとドラマづくりが変わっちゃうんじゃないかと思います。ながら見を絶対させない。そこに生きる人たちのドキュメンタリーになっていたのがすごいなと思いました。

「舟を編む」での「ぬめり感」って何?

影山 「舟を編む~私、辞書つくります」(NHK BS)。原作者の三浦しをんさんがおっしゃっていたのですが、映画、アニメがあって、ドラマが最後発なんです。でも、三浦さんのもとには、小説が出た直後にNHKが「うちでドラマにしたい」と申し入れた。それを三浦さんは意気に感じてという、原作とつくり手のウィンウィンですね。

 極端に発信するファンの中には「セクシー田中さん」(日本テレビ・2023)のときもそうでしたが、原作至上主義みたいな動きがあったりします。原作を尊重することは大切ですけれど、やはりそれをもとに映像作品にすることで、ファンが広がったり、エンターテインメントとしての楽しみがふえるということはすごく大事です。「舟を編む」は、その見本のような作品でした。

田幸 私は原作も映画もどちらもよかったので、あえてドラマの第1話は見ていませんでした。評判を聞いて、後から追っかけて見たんです。原作がいいし、映画もあるのに、今ドラマ?というくらいの気持ちで見たら、状況をコロナ禍に置きかえている。原作のよさを全く損なわずに、コロナに置きかえていることに驚きました。

 その結果、コロナという状況下で展開しているので、言葉で人がつながっていく世界というか、より一層言葉の大事さが響いてきました。さらに言葉のダブルミーニング、トリプルミーニングをたくさん盛り込んでいるテクニカルな脚本にも唸らされました。

倉田 辞書づくりの大変さ、壮大さを感じながら、言葉の一つ一つを愛している人たちの温度がすごく高いですよね。本当に誰も寄せつけないぐらいの知識と熱量を持ってやっている人たちは、やっぱり何かおもしろい。何か一つのことにすごく熱中している人はおもしろいじゃないですか。

影山 そうですよね。うらやましくもあります。

倉田 池田エライザさん演じる主人公が、ファッションから辞書という全然違う分野に来て戸惑いながらも、だんだん辞書のことが好きになっていきます。辞書にどの紙を使うか、紙の営業マンと「ぬめり感」みたいなよくわからない言葉で会話していて、「何だよ、ぬめり感って」みたいにこっちも興味が湧いてきます。彼女の成長、辞書や仕事に対する思いがどんどん熱くなっていく姿もすごく応援したくなる描き方でした。

影山 池田さんが俳優として成長した感じがします。このドラマが彼女のターニングポイントになるんじゃないかという気がします。

「燕は戻ってこない」で放たれた黒木瞳の衝撃のセリフ

影山 「燕は戻ってこない」(NHK)をお願いします。

田幸 脚本が「らんまん」(NHK・2023)の長田育恵さんでやっぱりお上手です。すごいなと思うのが、最初は石橋静河さんが演じる主人公のリキの目線で見ている。一生懸命真面目に生きているのに、手取り14万円で貧困で、生活が楽にならない。腹の底からカネと安心が欲しい。こちらはその女性を応援する気持ちで見ていたのに、途中から代理母として1000万円もらう契約を結んで、暴走を始めるんですね。「え、それ、どうなの?」と思うんです。

 一方、高慢でお金持ちの、内田有紀さんと稲垣吾郎さん夫婦が不妊に悩んできたことが描かれる。そうか、すごく恵まれてるように見える人にも、こういう悩みがあるんだと思いきや、選民意識、優生思想みたいなものも見えてくる。特に稲垣さんのお母さん役の黒木瞳さんがすごくえげつない。でも、貧しくて苦労している人が美しくて、選ばれし人々が嫌なやつかというと、そんなこともない。

 びっくりしたのが、妊娠してつわりのときに、リキのもとに黒木さんが訪ねていって、いろいろお節介をする。本当だったら、リキはすごく嫌がりそうなのに、大して迷惑そうにもしていなくて、あれっ、ここは意外とかみ合うんだ、おもしろいと思っていたら、黒木さんが後でリキのことを「工場みたい」と言うんですね。良い人、悪い人の二元論では分けられない、綺麗事や建前、醜悪な本音も含めて人間にはいろんな面があるのだと強く感じました。

影山 あれは怖かったです。

田幸 怖いですよね。誰かを美しく描いたり、誰かを醜く描いたりするのではなく、それぞれの人にエゴがあって、それぞれの醜さもある。でも、それも含めて人間はおもしろいというのをそのまま出してきて、あんなにシリアスな題材なのに、ときには笑わせてしまう脚本と演出が実にうまい。

倉田 この作品は見る側にいろんな問いかけをしてきます。そもそも代理母、代理出産を認めていいのか。倫理の問題もありますし、1000万円払えば子どもを産んでもらえる。お金で命のやりとりをしていいのかということもあります。

 日本は特に血のつながりを大事にして、血のつながりだけが家族だと考えがちですが、例えば特別養子縁組という手法だってあるわけで、遺伝子とか、血のつながりだけを大切にし過ぎる社会はどうなんだろうとも考えました。

 あと、リキの人柄にすごく魅力的なところがあります。月14万円で東京で生活するのは本当に大変です。でも、そこで「私は貧しいから」といって卑屈にならず「じゃ、代理母で1000万円もらうわ」といった、したたかなところもある。やられっ放し、ただ搾取されるかわいそうな女じゃないというのを、石橋さんの強い目力や、内に秘めたエネルギーがじわじわと出てくるところから感じられて、痛快でした。

 もう一つ、稲垣さん演じる夫が、リキの行動によって、自分が本当の父親かどうかわからない状況になったときに、産ませるか、おろすか、妻の悠子とやりとりをするんです。そのときに、悠子の言っていることを全く理解していなくて「この男、ほんと何もわかってないな」(笑)と。また、そう思わせる稲垣さんの演技が本当に上手なんです。

影山 うまいですよね。今はちょっとテーマが重たいというだけで毛嫌いする視聴者もいて、こんなにつらい現実を直視したくないという声もありますけれど、重いテーマを、ある種、軽やかにというか、軽薄ではないんですが、エンターテインメントとしてちゃんと見せてくれていました。

とにかく「約束は守れ」?

田幸 ただ、リキがSNSなどで、結構たたかれる面があって、おもしろいのが「契約をしたからにはちゃんと遂行しろ」という批判がすごく多いこと。脚本の長田さんにインタビューしたときにもおっしゃっていたんですが、日本人は契約を正しく履行しろという思いが強い。

影山 約束は守れと。

田幸 例えば海外だったら、リキのアウトローぐあいを応援する人もいるだろうし、そもそもの契約のずさんさを突く人もいるだろうけれど、ちゃんと約束したからには守れというのが、日本人らしいところです。

 あと、自分自身の嫌なところだなと思ったのが、やっぱり1000万円はでかいなと思ってしまったところです。今の世の中で1000万円という金額は、本当は命がけの出産という大変なことで、そもそも代理出産が許されるのかという問題もあるのに、1000万円もらうんだからしょうがないみたいな、自分自身の中にある「えっ、その感情どうなの?」みたいなのも突きつけられる作品でした。

倉田 リキへの批判が多いのは、やっぱり日本が正しさを求め過ぎる社会になっているあらわれかなと思います。人間は正しいことばかりじゃないんだということが、ある程度許容される世の中になっていないと感じますね。

影山 いろんな意見があって、それぞれ個々を尊重しながらやりとりするのが、エンターテインメントにおいても健全な状況だと思うんですが、何か自分たちが許しがたいと思ったら、その相対するものをたたき潰すというのかな。これがエンタメの世界でも今、割とまかり通っているというのが残念です。

田幸 脚本の長田さんがインタビューで「私はどこかに仮想敵をつくって、そこに塩を投げてスカッとするような作劇はこれからもしない」とおっしゃったんです。その宣言にすごくしびれました。勧善懲悪、どこかに悪者をつくって、みんなでたたいて、スッキリするようなものがわかりやすくて、それが好きな人もいるとは思いますが、今のドラマはもう、そういうものではなくなってきていると感じます。そんな単純な世の中ではないので、恐らく同じような勧善懲悪のトーンのドラマが出てきたら、みんな「何だこりゃ」と感じるだろうと思います。

倉田 仮想敵をつくって、やっつけて、みんなでスカッとする。その「みんな」の中にやっつけられた側は含まれてないわけです。これだけ多様性があって、いろんな人がいていい社会を目指しているのに、やっつけられた側だけには、光を当てないということはもう許されないですよね。

影山 多様な社会とうたい出してからのほうが、より多様な社会ではなくなっているような、この矛盾というのは何なんでしょう。

田幸 透明化されていた人たち、これまで見えないものとされていた人たちが、苦しかった、嫌だった、つらかったと声を上げることで、見えないことにしていた側、それは、私自身の中にもある感情ですが、見えないことにしていた人たちは、自分が責められているような気持ちになるんだと思います。

倉田 そこで、突きつけられるわけじゃないですか。差別された側が声を上げることによって、あっ、私は差別をする側の人間だったんだと気づかされた後ろめたさ、恥ずかしさみたいなものを正面から受けとめられないときに、反発してしまう。そういう人間の心理が働いているのは感じますね。

こんな家に生まれたかった「おいハンサム‼2」

影山 「おいハンサム‼2」(東海テレビ)、どうですか。

倉田 シーズン1のときから大好きな作品です。吉田鋼太郎さん演じるお父さんが、頑固おやじみたいなところがありつつ、すごく物わかりがいい。娘たちとの距離感がよくて、娘のことは当然気になって、干渉したいけれど干渉し過ぎない。実はすごく現代的なお父さんなんです。娘たちに「お父さん、ああだ、こうだ」と突っ込まれて、こういう家の子どもに生まれたかったなみたいな、ほのぼのした気持ちになる作品です。

田幸 吉田さんが昭和のおやじかと思いきや、実は登場人物の中で一番デリカシーがあるんですよね。

影山 そうですね。デリカシー。

田幸 毎回ちょっと感心させられたり、グッときたりする。そのバランスのよさが抜群だと思います。

影山 やっぱり吉田さんが娘たちとMEGUMIさん演じる奥さんを心の底から愛しているし、娘たちも父親を愛していますよね。ちょっと疎ましく思ったりもしますけども、何かあったらちゃんと実家に帰ってくる。お父さんの言うことを聞かないようでいて、よく聞くし。お母さんがちょっと熱を出したら、お父さんはアタフタしてめっちゃ心配して、会社からもはよ帰ってくるし。

 あとは、小ネタをまぶしているところがうまい。何気ないところですが、MEGUMIさんがポロッと「自分へのご褒美って嫌いなのよね」と言うんです。自分へのご褒美と言う人が苦手だったので「よくぞ言ってくれた」と。そういうしょうもない小さいところがツボだったりして、最高でしたね。

見るのをやめて損した「街並み照らすヤツら」

田幸 意外と見られてないんですけど「街並み照らすヤツら」(日本テレビ)がおもしろかった。最初の1、2話だけだと、割とドタバタのコミカルものに見えて、やめちゃった人が多いと思うんですけど。

影山 僕、そうです。

倉田 私もそうでした。

田幸 それでも見ていくと、コミカルとシリアスのバランスがうまくて、裏社会の話とかを描きながらも、最終的にはやっぱりそれをよしとはしない。笑いばかりで終わらないところが、やっぱり脚本の高田亮さんはお上手だと思いました。これは見続けてこそだと感じます。ただ、途中でやめちゃった人が多いので、もう少し最初からそのバランスを見せてくれてもよかったという気がします。

「花咲舞」と「半沢直樹」、そして本田翼

倉田 「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ)。前作まで主演していた杏さんの印象が強かったんですが、今田美桜さんならではの「花咲舞」になっていたと思います。若い子が偉い人にビシッと言うのは、見ていてすっきりしますし、よくぞ言ってくれたという、何か代弁者になってくれたみたいなところもあります。

影山 池井戸潤さん原作ということで「半沢直樹」を出してきた。劇団ひとりさんのキャスティングがベストかどうかは、好みがあるでしょうが、あの辺のうまさですね。

田幸 これも続編ですが「6秒間の軌跡 花火師望月星太郎の2番目の憂鬱」(テレビ朝日)は高橋一生さんと橋爪功さんのかけ合いが、それだけですごくおもしろい。あと、役者としての評価が分かれる本田翼さんですが、この作品での本田さんはすばらしい。この三人のやりとりをずっと見ていたい、楽しい作品でした。やっぱり脚本の橋部敦子さんは日常会話を描くのがうまいなと思います。

倉田 ストーリーが終わった後に、橋爪さんが視聴者からのお手紙を読み上げて答えるという部分があります。後ろの方で、高橋さんと本田さんがツッコミを入れたりして、私は何げにあのコーナーが大好きなんです(笑)。

影山 橋爪さんのポーカーフェースというか、すっとぼけた感じがいいですよね。たしかに本田さんは演技についてあれこれ言われますけれど、このドラマに関しては本当にはまり役というか、ご本人もそれを意識している感じがします。気がつけばいい俳優さんに育っているということもよくある話ですから、この作品をきっかけに、そうなってほしいと思います。

宮藤官九郎と「震災」

田幸 「季節のない街」(テレビ東京)もよかったです。これぞクドカン、宮藤官九郎というよさが出ていました。山本周五郎原作の昭和の風景を今やるのに違和感がないのかと思っていたら、震災の仮設住宅を舞台として描いたうまさがある。クドカンは、マイノリティに対する描き方みたいなところだと、ちょっと雑になるのが個人的には気になっていたんですけど、今回は、それこそ置き去りにされた人たちをうまく描いています。彼のよさをもう一度思い出しました。大好きな作品です。

倉田 震災を描きつつも「ナニから12年」みたいな言い方で、震災という言葉をはっきり使わなかったり、その辺がクドカンさんらしい。社会からはみ出しがちというか、社会の一員であるにもかかわらず、何となくいないものとして扱われているような人たちを、クドカンさんはしっかり描きたいんだというのがすごく伝わってきました。

 その人たちの生活も、ただ温かい、優しいだけじゃなくて、例えばホームレスの親子が、飲食店から余ったご飯をもらう。それはすごく温かくて優しい行為なんですけれど「火を通してね」と言われたのに通さず食べて、子どもは死んじゃうわけです。温かい反面、そういう厳しさもあるのが世の中なんだというのを強く感じられました。

NHKならではのこころみ 

影山 障碍を真正面から描いた「パーセント」(NHK)の評価も高いです。

田幸 NHKは最近、障碍の当事者を使う、ということをやっています。この7月期に地上波で放送される「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」というドラマも、もともとNHKのBSで放送したものですが、ダウン症の方が当事者として出演されている。草彅剛さんが出ていた「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(2023)も当事者の方が出られていた。

 「パーセント」では、障碍のある当事者に出演して頂き、なおかつ、そういう人たちがドラマに出るには、どういう現実的で困難な問題があるか、ドラマづくりの現場を生々しく見せることで、シビアに問いかけています。

 この企画は、障碍をテーマにした番組「バリバラ」(NHK)をドラマに組み込んだというか、コラボのような形でスタートしています。まさにNHKだからできる作品だなと。試みとしての新しさとドラマとしてのおもしろさとで、今の時代じゃないとつくれない作品だと思いました。

印象に残った俳優たち

影山 印象に残った俳優さんはいかがでしょう。

倉田 生見愛瑠さんを何度も褒めちぎっているんですけれど、今期の「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBS)でもすばらしい演技でしたし、引き続き推していきます。

 あと「さっちゃん、僕は。」(TBS)の中山ひなのさん。多分私は初めて拝見する、ほぼ新人のような方ですが、存在感が気になります。なぜ気になるのか、この後注目しながら検証したいと思っています。

田幸 かなり話題になっていますけど、やっぱり「アンメット」の若葉竜也さん。主演の杉咲さんがテレビに引っ張ってきたという話があって、本当に杉咲さんありがとう、という気持ちです。杉咲さんと共演した「おちょやん」(NHK・2020~21)には出られていましたけど、基本、テレビには出ない方なので。

 全然違うよとファンの方には言われそうですが、同じように「イップス」(フジテレビ)に出られた藤原季節さんも映画の世界の人です。藤原さん、若葉さんほどの方がテレビに出ると、すごく得した気分になります。若葉さんのブレイクもあって、今まで映画でしか見られなかったいい役者さんが、意欲のあるところに少しずつ出ていくんじゃないかという気がしています。

<この座談会は2024年7月3日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。

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