「牛のげっぷ」抑制で温室効果ガス削減目指す<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-07-27 07:30
「牛のげっぷ」抑制で温室効果ガス削減目指す<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

「牛のげっぷ」は温室効果ガスの発生源の一つ。餌を変えることで抑制する取り組みが本格化しつつある。「シリーズSDGsの実践者たち」の第34回。

【写真を見る】「牛のげっぷ」抑制で温室効果ガス削減目指す<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

メタンガスを排出する「牛のげっぷ」

全世界で排出される温室効果ガスの中で、大半を占めるのが二酸化炭素。その次に多いのがメタンガスで、温室効果ガス総排出量の約5%を占めると推定されている。メタンの主な排出理由の一つが、牛のげっぷだ。

牛には胃が4つあり、1つ目と2つ目の胃の中には微生物がいる。これらの微生物が食べた飼料を分解し、発酵させて、エネルギー源として使える形に変えていく。この過程で二酸化炭素や水素などのガスが発生し、水素は胃の中にいるメタン生成古細菌という微生物に利用されてメタンガスとなり、呼気と一緒に出てくる仕組みになっている。

牛のげっぷに含まれるメタンガスの抑制は、国内の大学や研究機関などで研究中だ。その中で、神奈川県畜産技術センターでは、地元にあるものを餌にすることでメタンガスの抑制に取り組んでいる。

おからの発酵飼料で温室効果ガス約27%減

昭和33年に建築された牛舎の中で、試験的に飼育されている肥育牛。生後12か月と生後19か月の2頭の牛の餌には、牧草や配合飼料などと一緒に、県内の食品会社から廃棄物として出てきた「豆腐のかす」であるおからが加えられていた。

畜産技術センターでは、おからを50%含む発酵飼料を肥育牛に与えている。おからのほかに、配合飼料、小麦の表皮部分であるふすまなどを混合して密閉容器に詰め込み、10日ほどかけて乳酸発酵させる。この方法で1か月程度保存が可能な発酵飼料ができる。

おからの発酵飼料は、地元から出る食品残渣を活用した餌であるエコフィードとして、昔から畜産技術センターで作られてきたものだ。

そこに地球温暖化防止の観点が入ったのは、2年前に試験研究構想を見直してから。製品の生産段階における環境負荷を定量的に評価して「見える化」するLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を用いて、おから発酵飼料の原材料の生産を流通している配合飼料の購入と比べてみると、温室効果ガス排出量がCO2換算で約27%減少していることがわかった。

この調査は餌に関する部分だけが対象だった。今年度から、この餌を給与した肉牛の肥育試験を開始し、LCAにより肉牛生産の環境影響評価を多方面から実施するとともに、牛のメタン排出量を測定する。おからに多く含まれる不飽和脂肪酸によって、胃内の水素が消費されるという報告もあるので、牛のげっぷに含まれるメタン削減効果も期待される。あわせて、生産性や枝肉の質についても評価を行うことにしている。

新たに「海藻」でメタンガス削減効果を研究

さらに、今年度から新たな餌の研究も始めている。それは地元の海で採れる海藻だ。神奈川県内では横須賀市や横浜市でノリ、ワカメ、コンブの養殖が行われている。板ノリを作る際の切れ端や、出荷できないワカメやコンブを餌に活用できないかを探る。

海藻を選んだのには理由がある。国内外のこれまでの研究で、カギケノリを餌に混ぜることで、メタンガスの発生を大幅に抑制できることがわかってきたからだ。ただ、神奈川県内にもカギケノリは自生しているものの、量が少ない。牛の餌として使うためには大量に養殖する必要があるため、廃棄されている他の海藻を活用する道を模索することにした。

これまで試験的に牛の餌に混ぜてみたところ、ノリやワカメを気にせず食べる牛もいたが、ノリをなかなか食べない牛もいた。今年度はどの海藻がどの程度メタンを削減できるのか、また、どのような方法で食べさせるのかを検討していく。

牛のげっぷ由来のメタンガス抑制は全国で研究進む

神奈川県畜産技術センター以外にも、牛のげっぷから出るメタンガスの抑制に取り組む動きは全国で活発になっている。その背景の一つは、2020年10月に政府が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標に掲げたことだ。メタンガスの温室効果は二酸化炭素の約28倍もあることから、メタンガスの発生を抑止することは、カーボンニュートラルを実現するためにも必要だと捉えられるようになった。

もう一つは、従来は難しかった牛のげっぷによるメタンガスの排出量を、これまでよりも簡単に算出できる方法が開発されたことだ。農業と食品産業に関する国内最大の研究機関である農研機構が、2022年に新たな算出式を開発して、マニュアル化した。

これまで測定にはチャンバーと呼ばれる大きな施設が必要だったが、牛の呼気中のメタンガスと二酸化炭素の濃度を1日数回測定することで、メタンガスの排出量を推定できる。この方法を活用することで、チャンバーなどがなくても算出が可能になり、全国各地で研究しやすくなった。

神奈川県内では昔から食品会社が多いことから、おからやビール製造後に出るビールかすのほか、かつては余った米飯も牛などの飼料として使われていた。地元で入手できるものを餌に変えるのは、もともとは餌のコストを減らすためだった。それが環境面で見直されたのは最近のことだ。

まず、前述したとおり、おからを発酵させた飼料を与えることによって、メタンガスの発生を抑える直接的な効果が期待される。おからに含まれる不飽和脂肪酸が、牛の胃の中で発生する水素を消費するため、結果的にメタンガスの発生を抑えることにつながっている。

また、本来は焼却処分される食品残渣をエコフィードとして再利用することで、焼却による二酸化炭素の発生も削減できる。

神奈川県畜産技術センターでは、環境に優しい畜産を実現することで、将来的には県内の畜産物の差別化や消費拡大につながることも期待している。ただ、牛のげっぷから出るメタンガスの抑制はまだ道半ばで、今後は海藻にどれだけの削減効果を見出せるかどうかが鍵を握りそうだ。(「調査情報デジタル」編集部)

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。

  1. 【モーニング娘。'24 櫻井梨央】撮影中に「壁の質が良さそう」たてもの愛さく裂
  2. 「監督責任を重く受け止める」加藤金融担当大臣 金融庁出向の裁判官 インサイダー取引疑いで刑事告発
  3. 30年前の政治改革合意 当事者の河野元議長が「企業・団体献金継続」に苦言
  4. 「今年は大変な雪」“クリスマス寒波”で各地に大雪に…年末年始も警戒を 車の運転「ふゆとじこ」に注意【Nスタ解説】
  5. 帰省は憂うつ?“義実家”から「いつ来る?」連絡の嵐に、寝てるだけの夫 “プレッシャー”で独身も憂うつに【Nスタ解説】
  6. 2匹の猫がキャットホイールで遊んでいたら…まさかの『とんでもない悲劇』が56万再生「片方が難易度あげまくってるの好きw」「想像以上w」
  7. 愛猫があなたをじっ…『アイコンタクト』を取るときの意味3選 見つめ返してもいいの?
  8. 犬を飼うのに向かない人の特徴5選 あなたは大丈夫?飼う前に絶対知っておくべきこととは
  9. 赤ちゃんが隣で泣いていたら、超大型犬が…『泣き止ませる方法』と『号泣の理由』が可愛すぎると39万再生「まるで母親」「愛されてる」と絶賛
  10. 鈴木法務大臣 選択的夫婦別姓制度「理解がバラバラな状況。国会での議論が大事」
  1. ドイツ・クリスマスマーケットに車突っ込み200人以上死傷 拘束の男「移民政策」に不満か 極右政党躍進で来年2月の総選挙は…
  2. 「夢グループ」めぐる背任事件で逮捕のイベント企画会社の男性を不起訴 東京地検
  3. 妻・希美さん殺害の罪 元長野県議の丸山大輔被告に懲役19年の実刑判決 「犯人性」が最大争点 長野地裁・裁判員裁判
  4. 妻・希美さん殺害の罪 懲役19年の実刑判決 一貫して無罪主張の元長野県議・丸山大輔被告に 長野地裁・裁判員裁判
  5. コンビニで元交際相手の女性(53)を刃物で切りつけ 男(40)は逃走中10メートル下に自ら飛び降り死亡 京都・南区
  6. 事件からわずか1か月…中国・湖南省の小学校前で車暴走させ児童らはねた男 執行猶予付きの死刑判決
  7. 【独自】放火したとみられる男の出火直後の映像を入手 “ズボンは焼け焦げ下半身は露出した状態” 千葉・柏市夫婦殺害事件 男“公妨”容疑で改めて逮捕
  8. 元バレーボール女子日本代表・栗原恵さん 産まれたばかりの赤ちゃん&夫と 家族ショットで笑顔
  9. 【がん闘病】市川由紀乃さん 活動休止後初となるインスタライブ 「この経験が必要だったと思えるような歌を届けてゆきたい」 復帰後のコンサートについても発表
  10. 年末年始にピークか?猛威ふるうインフルエンザ、今年は「発熱まで長い」傾向 前週の2倍超も…対策は?【Nスタ解説】
  11. 【独自】ススキノ・ガールズバー火災 犯行の瞬間映像 バケツの中の液体を躊躇なく撒き直後火を放つ…
  12. 「事件と言って良い」キャベツ高騰で1玉400円超 “令和のコメ騒動”価格戻らず…今買うべき食材は?【Nスタ解説】
×