親知らずは抜いたほうがいい? 症状がなければ抜かなくて良いという判断は正しい?

2024-09-10 12:27

「症状がなければ親知らずは抜かないでそのままにしましょう・・・」
このようにやりとりされたことがあるのではないでしょうか。かかりつけの歯科医院でそのように言われ、親知らずをそのまま残しているケースは多々見かけます。
では、症状がなければ親知らずを抜かなくてよい、という判断は正しいのでしょうか?

親知らずは抜いたほうがよいのか

病的で症状がある親知らずは抜歯の必要性があることはコンセンサスが得られていますが、症状がない親知らずの抜歯については、医学的なコンセンサスが得られていません。つまり、症状のない親知らずの抜歯の必要性は歯科医師の裁量によるのです。
「抜いたほうが良い!」「抜かなくても良い!」という発言はどちらも正しいことになります。歯科医師が変われば意見が180度変わることも珍しくありません。一番困るのは患者さんです。「抜かなくていいのであれば抜かなくていいじゃないか」と思う患者さんは圧倒的に多く、抜かないで放置する人がたくさんいます。しかし、問題は抜かないで放置するリスクについての説明が明らかに不十分だということです。

親知らずの抜歯に慣れていない、外科処置のトレーニングを積んでいない歯科医師は、積極的に抜こうとせず、抜くことを勧めない場合が多いようです。しかし、抜かないと何が起こるかを説明されていないために、抜かないことが一般的な考え方として定着してしまうのです。
では、何を基準に親知らずを抜くか抜かないかを決めればよいのでしょうか。親知らずを抜くことのリスク(麻痺や腫れ、痛み)を説明できる歯科のスタッフは多いですが、親知らずを抜かないことのリスクについてはあまり語られません。抜くことのリスクばかりが先行して説明されているのが現状です。

親知らずを抜かないリスク

ここで、抜かないことでどんなことが起こりうるのか、科学的根拠(医学論文)を踏まえて紹介したいと思います。

①親知らずのむし歯
・親知らずは17歳から24歳の間に出てくるため、25歳を過ぎると手前の歯(第二大臼歯)の親知らずに接するところのむし歯リスクが高くなります。
出典:Vandeplasら. Does Retaining Third Molars Result in the Development of Pathology Over Time? A Systematic Review. J Oral Maxillofacial Surgery 2020 ; 78(11) : 1892-1908
・親知らずが虫歯になる確率は年齢により様々で、24~80%と報告されています。
出典:Garaasら. Prevalence of third molars with caries experience or periodontal pathology in young adults. J Oral Maxillofacial Surgery 2012 ; 70(3) : 507-513
・口の中に出ているか、少し出ている親知らずをもつ中高年(52~74歳)の米国人2003名の調査では、その77%にむし歯が認められました。
出典:Fisherら. Third molar caries experience in middle-aged and older Americans : a prevalence study. J Oral Maxillofacial Surgery2010 ; 68(3) : 634-640
・手前に傾く親知らずや、少し出ている親知らずは、後ろに傾いたり、真っ直ぐに埋まっている親知らずよりもむし歯リスクが高いです。
出典:Toedtlingら. Precalence of distal surface caries in the second molar among referrals for asymptomatic third molars : a systematic review and meta-analysis. Br J Oral Maxillofacial surgery 2019 ; 57(6) : 505-514

②親知らずの腫れ・親知らずの痛み(智歯周囲炎)
・親知らずを残すこと、特に、手前に傾いている状態、または、少し出ている親知らずを残すことは、智歯周囲炎(親知らずの痛み・親知らずの腫れ)のリスクを有意に高くします。
出典:Vandeplasら. Does Retaining Third Molars Result in the Development of Pathology Over Time? A Systematic Review. J Oral Maxillofacial Surgery 2020 ; 78(11) : 1892-1908
・下あごの親知らずの炎症(智歯周囲炎)は25歳までは16%で、25歳以降には32%となり倍増します。
出典:Vandeplasら. Does Retaining Third Molars Result in the Development of Pathology Over Time? A Systematic Review. J Oral Maxillofacial Surgery 2020 ; 78(11) : 1892-1908
・59%の下の親知らずは智歯周囲炎の既往のため抜歯されています。
出典:Carmichaelら. Incidence of nerve damage following third molar removal : a West of Scotland Oral Surgery Research Group study. Br J Oral Maxillofacial Surgery 1992 ; 30(2) : 78-82

③手前の歯(第二大臼歯)のむし歯・外部吸収
第二大臼歯の親知らずと接しているところがむし歯になるケースがあります。
・近心傾斜や水平埋伏智歯による第二大臼歯歯根外部吸収は決して珍しくありません(20.17%)。
出典:Wangら. External root resorption of the second molar associated with mesially and horizontally impacted mandibular third molar : evidence from cone beam computed tomography. Clinical Oral Investig 2017 ; 21(4) : 1335-1342
・第二大臼歯と第三大臼歯の直接接触が認められる場合、無視せず積極的な経過観察もしくは予防的抜歯が推奨されます。
・35歳を超える年齢は第二大臼歯歯根外部吸収のリスクです。

親知らずの抜歯は若いうちに

以上の論文が示すように、下あごの親知らずの多くは、将来的にむし歯や智歯周囲炎(親知らずの痛み・腫れ)になることが報告されています。
歯科医師や歯科衛生士は、どちらのリスクも患者さんにしっかり説明する必要があります。いつか症状が起こり、抜かざるを得ない状況になるリスクが高いことを踏まえた上で、親知らずを残すかどうかの判断をすることが重要です。
最後に、抜歯は若ければ若いほど(高齢と比較して)容易であり、加齢とともに難易度が上がります(後日詳細を記載予定)。60歳、70歳で抜かざるを得なくなった時に、体が健康である保証はありません。
個人的な考えですが、結果的に抜くことになるのなら、若いうちに抜いておくことをお勧めします。

記事執筆
東京新橋歯科口腔外科
院長 畠山 一朗
https://tokyo-oyashirazu.com/

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