ホンダと日産は、12月23日(月曜日)にも経営統合に向けた正式発表を行うとしている。急転直下、動き始めたホンダと日産両社とも、限られた選択肢の中から導き出した統合と言えそうだ。
【画像・CGで見る】ホンダ・日産が経営統合へ 背景と自動車産業の今後は?
ホンダ・日産 経営統合へ協議 急転直下の決断 そのワケは?
12月18日午前6時すぎ。ランニングを終えて戻ったホンダの三部社長は取材に応じた。
ホンダ 三部敏宏社長:
日産だけではなくて、三菱は協業含めていろんな話をしている。あらゆる可能性について話をしている。
――その可能性は中には経営統合も含まれるのか。
ホンダ 三部敏宏社長:
上から下まで言えば、可能性としてある。
日産との経営統合について可能性を認めたホンダの三部敏宏社長。関係者によると経営統合は持ち株会社の傘下に2社が入る形を想定していて12月23日に協議開始を発表するという。経営統合に向けた動きが報じられた12月18日の日産の株価はストップ高に。一方、ホンダは一時4%安と明暗が分かれた。
神奈川県横須賀市にある日産追浜工場の近くで、長年居酒屋を営むオーナーは「やっていけないから、いいんじゃないの。国だって日産はつぶせない。これからは『あいみたがい』しないとダメ。日産の社名は消えない。日産ホンダ。ホンダ日産じゃない。日産ホンダ」
ホンダ日産の統合に向けた動きが、意味するものとは?自動車産業の調査研究に携わってきた中西孝樹氏は…
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹代表アナリスト:
日本は世界の自動車シェア30%という大きな自動車産業を抱える自動車立国。これまで乗用車メーカーが7社独立して経営してこれたのは、世界でも非常に稀。今は電気自動車にシフト。電池に投資をしなければダメだとか、ソフトウェアの時代になってきて、ソフトウェアに投資をしなければダメ。さすがに7社独立して個別なことをやって「個別最適」で食える時代ではない。経営統合が成功することは、日本の自動車産業が輝くこと。まして世界トップのトヨタと3位のホンダ日産連合は、互いに切磋琢磨し、中国や他の新興勢と戦って勝ち残っていく画は素晴らしいと思う。
日産とホンダが協業に向け、覚書を締結した2024年3月。将来の資本提携の可能性を聞かれ、両社とも資本提携を否定してから1年足らず。経営統合に向かわせたものとは?
「統合」急展開の背景
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹代表アナリスト:
日産の経営が悪化して様々なステークホルダーが入ってき始めた。一番わかりやすいのは最近ではエフィッシモファンドとか、アクティビスト系が日産の5%近い株を握っている。経営統合をやらないで、日産がそういった外のファンドにいろいろ狙われるみたいな状況で、未来を左右する開発を一緒にやるのは極めて難しくなる。最近では台湾の鴻海(ホンハイ)というメーカーが日産の買収に興味を持っている。鴻海からすれば、日産の自分たちのビジネスモデルにフィットするものは伸ばすが、そうでないものはやはり切り捨てる。結構バラバラにされる感がある。日産が望むべきはホンダ。
経営統合 成功の鍵は?
中西氏は経営統合が成功する鍵は、カルチャーの違いを乗り越えることにあると指摘する。日産は11月に発表した2024年上半期の最終利益は9割以上(93.5%)減少した。経営の立て直しのため発表されたのは、全世界で9000人のリストラと生産能力の2割削減。ホンダと日産の統合が成功する条件とは?
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹代表アナリスト:
日産からは「なぜホンダは上目線で俺たちのこと言うのか」。ホンダからは「日産はそんなに成功する前提で話をするのか」と。カルチャーが違う。統合が実現すれば、ホンダが経営のリーダーシップを握るのは統合比率から避けられない事実。ただそれはホンダが支配をして言いなりに日産をさせるという意味ではなく、ホンダは日産の良い面を引き出すと考えて欲しい。それが統合会社が反映し、日産というブランドが輝き、日産というサプライヤーが強くなるなら、とてもみんながハッピーになる。そういう結末を導ける可能性がある経営統合だ。このまま何もしなければ、ホンダも日産も座して死を待つ。そういう状況だ。
ホンダ・日産 経営統合へ協議 両者が抱える事情と狙い
自動車業界を取材しているTBS経済部の梅田翔太郎記者に話を聞く。
――日産の経営再建問題が日本の自動車産業の未来の問題に変わってきた。ホンダの三部社長が今回「統合もあり得る」と言って驚いた。どういう状況か。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
驚いた。急転直下で進んだというのもあるが、三部社長は今回の統合にかける思いが結構あって、喋りたかったのだろう。(取材の時に)待っていたら、三部社長と青山副社長が話していた。インタビューに答える前に2人で打ち合わせしてから、記者の囲み取材を受けるという形だった。統合に対しての意気込みを、はっきりとは言えないまでも伝えたいという意思をすごく感じた。走ってから帰って話すまで30分ぐらい時間があり、その間に何社か来た。そういうところまで見計らっていたのかもしれない。
ホンダ・日産 経営統合へ協議 背景に日産買収の動き?
――ホンダが、頼まれたら協業するという立場から、統合に向けて前向きに踏み込んでいった理由は?
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
鴻海(ホンハイ)という会社が、日産に対して接触しているという話が浮上してきた。おそらく経済産業省を含めてホンダに統合へのアプローチみたいなのものがあったのではないかとみている。
――今までは待っていればいいだけだったものが、待っているだけでは、日産は取られてしまうかもしれないということか。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
協業は3月から断続的に進めていったが、日産とホンダの社風が違っていて、腰が少し重かったのではないか。なかなか交渉が進展している様子を感じられなかったが、ここにきて一気に加速した。そういった背景があったからではないか。
鴻海は、シャープを買った台湾の電子機器受託生産大手。EV部門最高戦略責任者の関潤氏は、日産の元副COO。日産の内田誠氏が社長になる時に社長候補だと多くの人に言われていた人。日本電産を経て鴻海にいる。鴻海が日産の株を買うかもしれない中、EVを作ろうとしている。
――この動きは、ウェルカムなのか、迷惑なのか。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
非常に複雑。日産社内でも、ホンダとの経営統合に進んだ方がいいという声も当然あるが、一方で鴻海と組んだ方が、経営の自主権は保たれるのではないかという声もあり、社内ではいろんな声が巻き起こっている。
――鴻海と組んだ方がいいというのは、どういう意味か。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ホンダの方が経営体力もあり、車のビジネスもすごくよくわかっている。技術も含めて飲み込まれてしまうのではないかという懸念が日産の中にある。鴻海はEV事業を立ち上げたばかりで、車のビジネスにすごく入り込んでいるわけではない。車を知っている自分たちが経営の主導権を握るのではないかという見方をしている人がいる。
――12月23日には、統合について発表できそうか。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
12月23日に取締役会を開いてそこで統合協議については決議する見通し。ただ日産社内いろんな声がある中で、なかなかその全会一致で協議という形にはならない可能性も高いのではないかと見ている。
――統合の形態はとりあえず持ち株会社の下に2つの会社をぶら下げる。そのハードルとして一番大きなものは何か。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
持ち株会社を設立するということで、その統合比率をどうするか。日産は足元の業績が非常に厳しい状況。それも含めて50:50に持っていくのは厳しい。
現在ルノーが保有している日産の株は約17%で、残りの18.6%は信託銀行に移されている。台湾の中央通信によると、鴻海はルノーが持っている日産株の取得を目指して交渉していると伝えている。
――ルノーは日産に対して一時40%以上の株を持っていた。これを対等にしようと何年も交渉やって15%の議決権しか持っていない。残りの部分は信託していわば金庫に入れたような形になっている。この株を何とかしないと、ルノーが新会社の株主になる。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ルノーが持つ日産株については、双方で売却についていろいろルールや取り決めがある。売り先は、日産が筆頭候補で優先的な地位にあることがまず前提条件。
――日産が買い戻せるなら、まずそれが優先だと。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
ただあくまで優先的であるということで、他に売ることもルール上可能だが、競合には売れないという2つがルールとして存在している。鴻海は競合なのかというと、日産の関係者を取材していると、競合とは言えないのではないかという声もあって、鴻海が買える余地はある。それで今回、鴻海がルノーに対してアプローチをしてきているのではないか。
――鴻海からすると、ホンダ・日産の統合を全否定して、自分が全部丸ごと買収しなければいけないとは必ずしも考えていない。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
鴻海が正式な態度を表していないところもあり、態度を保留するという報道もあったが、場合によっては、この枠組みの中に株主として関与するというのも選択肢の一つだろう。関氏は日産の取締役に対して買収のアプローチを仕掛けてきてたりしている。日産を買収することも含めて多面的に考えているのではないかと思う。
――場合によっては、この株をどうするかというときに、国が出てくる可能性がある。
――サプライチェーンの問題がある。サプライチェーン企業の統合や選別なども進んでいくというリスクもあるか。
TBS経済部 梅田翔太郎記者:
本当に日産とホンダは丸被り。日本・アメリカ・中国がメインターゲットで、作っている車も商用車というよりは一般的な乗用車でそこも被っている。なので、各地に工場は持っているが、サプライチェーンも重なっているのでどうやって整理するのかが課題だ。
――雇用と下請け企業の維持は、大きな課題になってくる。日本は自動車1本足打法で成長を支えてる国だけに、この推移によっては大変なことになる。
東短リサーチ 加藤 出氏:
家電産業と半導体産業が凋落したあと、国内での生産が減って、日本の中間層が薄くなり、所得水準も下がった。その点で、基幹産業である自動車が急に傾いていくと、大変厳しいことになる。ただ、一方でどうしても電気自動車の比率が高まるから、このまま平行移動して10年後、20年後は続けていけない。その点でも整理しつつ、一方で新しく稼げる産業をいかに育てるかということをやっていかなくてはならない。
(BS-TBS『Bizスクエア』12月21日放送より)