自民党総裁選に際して小泉進次郎議員が推進の立場を明確にしたことで、にわかに焦点のひとつとなった“選択的夫婦別姓”。思えばこの言葉が国会で取り上げられてから30年以上が過ぎたが、一向に実現しないどころかどこまで真剣に議論されたのかも定かではない。そもそも夫婦同姓を法律で義務付けているのは世界でも日本くらいだ。果たして選択的夫婦別姓を認めるとどんな問題が起こるのか。“絶対反対”側の話を聞いた。
【写真を見る】「私の小泉氏への態度は決まった」“日本は家族で成り立つ”夫婦別姓絶対反対の人の理屈【報道1930】
「選択的であっても制度に例外を設けると、これは次の例外を設けようということにつながりかねない」
今や保守派の代表格となった高市早苗議員は絶対反対とは言わないが「旧姓の通称使用に関する法律を成立させる」という言葉で慎重姿勢をあらわした。
これに朝日新聞の秋山編集委員は反発した。
朝日新聞社 秋山訓子 編集委員
「言い方が強いかもしれませんが全くの弥縫策ですよね。通称使用で限界があるというのはありとあらゆるところで女性たちが口を揃えて言っていることで、それこそパスポートから銀行から…。マネーロンダリングの温床にもなりかねない…、不自由を解消するためにさらなる不自由を産んでいる感じ…」
一方、椙山女学園大学客員教授でジャーナリストの安藤優子氏は全く別の視点からこの問題を論じる…。
ジャーナリスト 安藤優子氏
「憲法で婚姻は両性の合意にのみ基づいて…同等の権利を有するって謳われてる。そこには人権ってものがある。旧姓を使ってもいいよというのは便利不便という問題じゃなく、結婚した時どういう姓を名乗るかっていうその人の人権としての選択が許されるかどうかという問題。通称使用の問題じゃない」
政治ジャーナリスト 田崎史郎氏
「7月下旬に小泉進次郎さんと話した時に『これ気にしてんのは安倍派だけなんですよ』って言ってまして…夫婦別姓問題というのは命を懸けてやるものなのかって、そんなにこの時は踏み込む感じではなかった。それが1か月半たって今これを捕まえるのがトレンドだって思ったんですよ。これは進次郎さんらしい勝負所を掴んでいるんですよ」
番組では、夫婦別姓は断じて認められないという立場の人物に話を聞いた。
男系皇族の継承や愛国心を盛り込んだ教育基本法の制定などを支持する保守系団体『日本会議』の幹部百地章氏だ。日本大学の名誉教授でもある百地氏は今回の総裁選において別姓支持派が意外に多いと感じ「これが本当の自民党か」と嘆いたという。百地氏曰はく「自民党というのは国を大事に、家族を愛すること。これが基本のはずですよ」
『日本会議』 百地章 政策委員長
「夫婦別姓は必然的に親子が別姓になるんです。同姓で大事にしてきたものをここでその絆を断ち切るということ、それは家族の絆を弱めることになるし家族というものを破壊するきっかけになる恐れがある。選択的であっても制度に例外を設けるということになれば、これは次の例外を設けようということにつながりかねない。非常に危険がある。例えば同性婚もいいじゃないかとか、近親婚もいいんじゃないかとか…」
ただ別姓が家族を破壊するとなると、日本以外の国では家族が成立していないことになる。
さらに堤信輔氏は言う。
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤信輔氏
「明治8年に誰もが苗字を持たなければならない苗字必称義務令が出たんですが、保守系の人たちは日本の伝統ってよく言うんですが“姓”なんてせいぜい明治以降のもの…。家族が大事というのは認めたいが、じゃぁ家族の絆って姓しかないのか…。明治以前特権階級以外の姓を持たない大多数の人々は家族がなかったのか…。議論が最初から破綻してるとしか思えない」
「自ら(配偶者とは別の姓を)名乗りたいっていう人は全体の1割前後、8%ぐらい」
多くのメディアの世論調査によると選択的夫婦別姓に賛成する人は6~7割に上る。しかし、『日本会議』の百地氏はあるデータをもとに、日本には別姓を本当に希望する人がわずかしかいないと話す。それは3年前に内閣府が行った世論調査による数字だ。
『日本会議』 百地章 政策委員長
「約7割は同姓維持賛成。自ら(配偶者とは別の姓を)名乗りたいっていう人は計算すると全体の1割前後、8%ぐらいなんです(中略)ほんのわずかな人たちが望む弊害をなくすために、国の膨大な戸籍制度を改変してしまう。これは国費も膨大なものがかかります。トラブルを解消するために国の制度を変えましょうってことでしょ、そこまでやる必要があるかということ…。私に言わせれば姓を旧姓から新しい姓に変えるだけでアイデンティティがなくなる喪失するって(その人のアイデンティティは)その程度のものなのかって感じがします。皮肉を込めて言うと…」
タレントや政治家が発言したら、おそらく大炎上になるようなこの発言に…
ジャーナリスト 安藤優子氏
「自ら旧姓を名乗りたい人は8%ぐらいしかいませんとおっしゃいますが、8%もいるってことなんですよ。私も夫の姓に変えた時、自分じゃなくなっちゃうみたいな…。それは感覚的なもので、不便でも何でもないだろって言われたらそうかもしれませんけど、でも…。自分の中で納得がいかんって…」
「皇室を支えているのは家族。個人じゃなく家族…、家族があって国家が成り立つ」
『日本会議』には約260人の国会議員が名を連ねるが、多くが夫婦別姓に慎重だ。亡くなった安部元総理も生前に本会議と密接な関係にあった。おととしの春、参院選を前に安倍氏と百地氏にこんなやりとりがあったという。
『日本会議』 百地章 政策委員長
「日本会議がどの候補者を応援したらいいか、私が名簿を持って行ったわけですね。安倍さんがそれを見て、指さしながら、これ夫婦別姓(賛成)だからダメ。これも夫婦別姓だからダメって。×をつけていくわけです。僕もこれには驚きましてね…、目の当たりにしましたから。そこまで安倍さんは別姓制度に危機感を持っていた」
安倍政権下では夫婦別姓に賛成か否かが選挙結果に大きく影響したようだ。実は選択的夫婦別姓推進派の小泉進次郎氏や河野太郎氏も別姓反対の署名をした過去がある。
全国の神社の総元締め『神社本庁』に本部を置く政治団体『神道政治連盟』の内部文書を東洋経済新報社が入手した。それは『神道政治連盟』が選挙応援するための公約書だ。
「女性宮家創設には反対」「選択的夫婦別姓制度に反対」などいくつもの条件が記され、これに同意・署名すると支援を得られるというものだ。この文書では3年前の衆院選で234名(うち202人が当選)が推薦候補となったとある。小泉氏も河野氏もここに名があった。
『神道政治連盟』と関係の深い『日本会議』の百地氏は今回の総裁選での小泉進次郎議員の声明には驚きを隠せなかった。
『日本会議』 百地章 政策委員長
「小泉さんが総理になったら別姓法案を1年で作るとか言ってるのはとんでもないこと。これで私の態度は決まりました、彼に対する。岩盤保守から完全に見放されます。(中略)もちろん我が国の皇室は大事です。皇室を支えているのは伝統的には家族というものがある。個人じゃなく家族なんですね。家族があって国家が成り立つというのが我が国の伝統的な考え方です」
この話を聞く限り小泉進次郎議員は総裁候補として振り切った発言をしたといえよう。
田崎史郎氏はあえて選択的夫婦別姓をトレンドに選んだのは小泉議員の戦略だろうという。
岩盤保守をあえて敵に回した大勝負、吉と出るか否や…。
(BS-TBS『報道1930』9月9日放送より)