SamsungやLGの家電に、ドラマや音楽、ライフスタイルなどK-cultureがグローバルで存在感を示す韓国。先を走っていたはずの日本だが、その差は開く一方・・・。そして、その差はスタートアップの世界でも広がりそうだ。日本より多くのユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップ企業)を生み出している韓国のスタートアップエコシステムから見えてくる日本のベンチャー育成のあり方を探った。
【写真を見る】「日本は最高のスイートスポット」グローバル展開を加速させる韓国のスタートアップが日本市場を重視するワケ
資金調達総額は日本の1.5〜2倍 日本より大きい韓国のスタートアップ市場
「ここ10年で韓国のスタートアップを支援する仕組みは、急速に広がりをみせました。政府からの支援や、CVC(Corporate Venture Capitalの略、事業会社が運営する投資会社・部門ファンド)など民間からの巨額な資金提供によって、世界的に見ても強固なエコシステム(企業が協業・連携しながら利益を得ていく仕組み)が形成され、多くのユニコーン企業が生まれています」
と、韓国のスタートアップコミュニティで、投資やインキュベーション(事業創出・企業支援)を行う非営利団体d・campの代表パク・ヨンフン氏は言う。
実際に、2024年9月時点で比べてみると日本は14社、韓国は20社と韓国からは日本を超えるユニコーン企業が誕生している。人口は日本の半分以下だが、スタートアップの数は韓国の方が多く、資金調達総額でも、韓国は日本を優に上回り、年によってバラつきはあるものの、直近5年間でみると1.5~2倍程度の差がある。
2005年から公的資金によってベンチャー企業やスタートアップへの資金提供を促進した韓国。のちに自治体や民間レベルでの創業支援がスタートアップエコシステムの活性化を後押ししている。
その民間セクターにおいて中心的役割を担っているのが2012年に銀行19行が合同出資し設立されたd・campだ。d・campは、ソウルの中心部にオフィスを構え、スタートアップやVC(Venture Capitalの略、未上場企業へ出資する投資会社)のシェアオフィスだけでなく、起業家育成プログラムやアクセラレーション(事業開発・成長支援プログラム)の運営に加え、事業計画のプレゼン会やカンファレンスを開催している。
これまで開催したプログラムは1,700回以上、7,000以上のスタートアップの応募があり、680社以上がデモデイに参加、他に類を見ないスタートアップコミュニティとなっている。
「私たちは非営利団体ですが、韓国国内の大手銀行から寄付を受けており、十分な資金力があります。そうしたリソースを元に投資とスタートアップの育成、両輪で彼らのサポートをしています」
d・campは、直接・間接投資合わせて約1,000億円を運用している。インキュベーション機能のみならず、投資を通じた資金提供を行い、スタートアップの育成に多角的な支援を行っていることが特徴だ。次世代の起業家育成にも注力し、大学において起業に関する講座の提供も行っているという。
「有名大学を卒業した学生たちはかつて政府機関やサムスン、LG、ヒュンダイ、KIAといった一流起業に就職を希望していました。ですが、最近の学生は起業したり、NAVERやカカオといったIT系の新興企業を選んだり、スタートアップに参画することを選んでいます。このような傾向がこれからも続き、益々多くの優秀な学生がスタートアップエコシステムに加わると、彼らが韓国経済の起爆剤となるでしょう」
潜在的起業家に対し早い段階から適切な育成機会を提供し、起業後は官民で手厚いサポートを提供する。切れ目ない支援が韓国の強固なスタートアップエコシステムの拡大を牽引していると言えそうだ。
「日本は最高のスイートスポット」韓国スタートアップのグローバル戦略
「ここ10年、政府による資金提供はとても効果的でした。今後はそうしたスタートアップのグローバル市場への挑戦が次の大きな一手となるという機運が韓国では醸成されています」
世界銀行によると韓国のVC投資額は同国のGDP比0.26%で、アメリカとカナダに次いでOECDで3番目の高さを誇る。多くのユニコーン企業が生まれるなど、政府系ファンドが主導するVC投資は一定の成果を生み出しているが、エコシステムの更なる成長のためには海外市場への進出が不可欠だという。
「私たちは海外市場を理解することから始めるべきだと考え、数年かけて各地域でのネットワーク構築を始めました。具体的には北米、日本、東南アジア、中東、ヨーロッパの5つの市場で実施しましたが、規模や文化、国としての発展度合も異なる中、市場規模が大きく、経済構造に類似点がある日本市場を第一に考えています」
日本企業と韓国スタートアップとのオープンイノベーション(組織内外との交流を通じ新たな価値を創出すること)などの共創を通じた事業進出に期待し、数社のスタートアップ企業を来日させ、事業会社へと繋ぐ取り組みも行っている。日本企業との連携が決まったスタートアップにはd・campが資金を提供する形で協業を後押しする予定だ。
「日本は韓国スタートアップにとって最高のスイートスポットです。高齢化社会と大企業の成長鈍化、日韓は共同の課題を抱えている」と語るパク氏。次世代にむけて事態を打開する重要な要素はスタートアップによるイノベーションだと確信しているという。
「日本企業には市場での実績や深いビジネス慣習理解、顧客との接点などの資産があり、韓国のスタートアップ企業には貪欲さとイノベーションのアイディアがある。それらが組み合わされば大いなる成長の可能性が生まれる」と熱弁する。
日本にも、経済産業省などが中心となって進めるJ-startupや東京都のX-HUB TOKYOの取り組みなど、スタートアップの海外展開支援を行う機関やプログラムは存在するが、まだまだ少数である印象だ。
スタートアップの発掘、育成、海外支援までを官民一体となって、多くの機関が絶え間ない支援の仕組みやコミュニティを構築し、熱意と情熱を持って取り組む姿に、学ぶところがあるかもしれない。