アメリカ大統領選挙で高まるインフルエンサーの力~SNS世代に対する絶大な影響力と実態~【調査情報デジタル】

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2024-10-12 08:00
アメリカ大統領選挙で高まるインフルエンサーの力~SNS世代に対する絶大な影響力と実態~【調査情報デジタル】

11月5日に行われるアメリカ大統領選挙。候補者本人の発言以上に注目されているのが、SNS世代と呼ばれる若者に絶大な影響力を持つインフルエンサーたちからの発信だ。TBSテレビ・ワシントン支局の守川雄一郎記者が報告する。

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テレビ討論会の日 主役を奪った“インフルエンサー”

11月の本番に向けて激しい戦いが繰り広げられている、アメリカ大統領選挙。その大きな山場といわれる候補者テレビ討論会が9月10日にペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた。しかし、この日、一番、注目を集めた存在は候補者の民主党・ハリス副大統領でも共和党・トランプ前大統領でもなく、世界でも最も有名なインフルエンサーだったといわれている。

テレビ討論会の終了直後に、人気歌手で著名インフルエンサーのテイラー・スウィフトさん(34)さんが2億8000万人のフォロワーを持つSNS「インスタグラム」でハリス氏への支持を表明し、そのニュースが一気に世界中を駆け巡ったのだ。私も彼女の動向を注視してきており、表明直後にそのニュースを速報として記事にした記者の一人だった。

若者世代を中心に高い人気を持つスウィフトさんは前回の大統領選挙でバイデン大統領への支持を表明し、その当選を後押ししたとも指摘されていて、今回も特定の候補者への支持を表明するのかどうかが焦点になっていた。

そしてスウィフトさんは、テレビ討論会の直後という最も注目が集まるタイミングで、猫を抱いた写真とともにハリス氏支持を投稿。文末には「テイラー・スウィフト/子どものいない猫好き女性」と署名されていた。

これは共和党の副大統領候補のバンス上院議員が過去にハリス氏らをこう呼んで問題になったことを痛烈に皮肉ったもので、周到に準備されていたとみられる。

大きな反響を呼んだスウィフトさんの発信は、アメリカ大統領選挙におけるインフルエンサーの存在感の大きさを何よりもわかりやすく示した事象だった。

「テレビニュースは観ない。最も身近なメディアはSNS」

なぜ、ハリス氏やトランプ氏の発言よりもスウィフトさんのSNS投稿の方が大きな社会的なインパクトを与えたと言われているのか。その背景にはアメリカにおけるメディアの影響力の変化がある。

「18歳から35歳以下の若い世代はテレビでニュースを観ない。最も身近なメディアはSNSであり、スウィフトさんのようなインフルエンサーからの発信なのだ」。政治学が専門のジョージア大学のチャールズ・ブロック教授はそう指摘する。

アメリカの調査機関が今年実施した調査では、18歳から29歳のアメリカ人の多くがSNSで日常的にニュースにアクセスしていると回答している(多い順に「Snapchat」53%、「TikTok」45%、「Reddit」43%、「インスタグラム」39%、「X」38%)。

実際にスウィフトさんの影響力は絶大だった。SNSの投稿ではハリス氏支持とともに、どちらの候補を支持するかにかかわらず大統領選挙に参加するよう呼び掛けていて、彼女のSNSを経由した有権者登録のWebサイトへのアクセスは24時間で33万人を超えたのだ。

ブロック教授は「30万人を超える人が有権者登録にアクセスしたのは本当にすごい結果だ。投票は習慣化することが非常に重要であり、選挙が身近ではない若者に投票のきっかけを作る意味でもテイラー・スウィフトのメッセージは大きな意味があった」と評価する。

政党によるインフルエンサーの囲い込みも

政治分野でのインフルエンサーの影響力が拡大していく中、政党側も手をこまねいているわけではない。8月にイリノイ州シカゴで開かれた民主党の全国大会。現地取材の中で、強く印象に残ったのは、露骨ともいえるインフルエンサー対策だった。

民主党は今回、初めて会場でのインフルエンサーによる生配信を許可し、全米からおよそ200人を招待していた。

ハリス氏やオバマ元大統領らが演説したステージに近い特等席にはインフルエンサー専用のブースが設置されたほか、会場内には撮影や映像編集を行えるスペースが複数設けられていて、食べ物や飲み物も提供されるなど、充実した環境が用意されていた。政治家へのインタビューや共同での動画制作の機会も積極的に民主党がインフルエンサー側に提案する姿がそこにはあった。

民主党のデジタル戦略の担当者は「クリエイターを招待することは私たちのメッセージを届けることに繋がる」「歴史的な大会になるからこそ、彼らに最前列の席を用意した」と説明する。

ライバルの共和党もSNSを重視する姿勢は同様だ。7月にウィスコンシン州ミルウォーキーで開いた全国大会にはおよそ100人のインフルエンサーを招き、生配信などを通じた若年層へのアピールに注力していた。

大統領選挙は接戦が予想されており、従来のメディア戦略では届かない層にいかにメッセージを届け、支持を掘り起こすかが大きなカギになる。効果的な発信に苦心する両党がインフルエンサーの囲い込みに走る姿が今の時代を表わしていると感じた。

2年も経たずに人気獲得で民主党から招待

民主党全国大会で人気インフルエンサーたちの活動に密着し、その勢いの大きさを実感した。

その一人、「TikTok」でフォロワー数およそ37万人を誇るクリス・マウリーさん(22)は人気インフルエンサーの地位を2年も経たずに手にしていた。アイドル並みの端正なビジュアルで硬派な社会問題に切り込む姿は多くの支持を集めていて、今年、バイデン大統領から有力インフルエンサーとしてホワイトハウスにも招待されている。

会場を歩くと、多くのフォロワーやほかのインフルエンサーから声を掛けられるなど、その人気ぶりが際立っていた。シカゴから投稿したメッセージにはすぐに10万件以上の高評価がついていた。

マウリーさんは「民主党からの招待にはびっくりしたけれど、とてもクールなことだ。民主党の全国大会も、ほかのイベントでも、みんながSNSの力に気づいてくれるのは本当にうれしい」とインフルエンサーへの高い評価を素直に喜ぶ。

一方で、民主党側からの資金援助について尋ねると「まったくない」と断言した上で、「民主党からは自分たちの意見と違う内容の発信であってもサポートすると言われている。(言論の自由の保障は)本当に素晴らしいことだ」と強調した。

注目される“小規模インフルエンサー”

インフルエンサーの世界ではフォロワーの数がその力の指標とされている。スウィフトさんのような100万人以上を持つ人たちを「メガ」、マウリーさんのようなフォロワー数10万人から100万人未満が「マクロ」と呼ばれる。

最近では、スウィフトさんたちのような大規模なインフルエンサー以外に、「マイクロ」(フォロワー数1万人~10万人未満)や「ナノ」(同1万人未満)と分類される小規模なインフルエンサーにも注目が集まっている。

不特定多数に浅く広く発信する著名人ではなく、小規模であってもより身近な存在のインフルエンサーが丁寧にメッセージを届ける方が一人ひとりに深く刺さるとの専門家の分析が出ているからだ。

実際に民主党大会の現場でも、ファッションやカルチャーを専門に扱う「メガインフルエンサー」が招待されていた一方、小規模な「ナノ」や「マイクロ」のインフルエンサーも多く見つけることが出来た。

小規模なインフルエンサーたちは一様に「なぜ自分が選ばれたのかはわからない」と話していたが、その投稿のジャンルは様々で、民主党側が実験的な広報戦略を仕掛けているのが垣間見えた。

未来のメディアの姿は…

「既存メディアは衰退している。いま、最も届いているのはSNSだ」。民主党大会の会場で取材したインフルエンサーたちから多く聞かれた言葉だ。「オールドメディアは死んでいる」とまで言い切った人気インフルエンサーもいた。

SNSには双方向性や発信の機会の平等性などの利点がある一方で、チェック機能が脆弱で偽情報を拡散させたり、資金提供などで権力側の介入を招いたりするリスクがあるなど、多くの課題が潜んでいる。

しかし、人気インフルエンサーのマウリーさんは「次の大統領選挙か、その次の選挙の時には、既存メディアではなく、SNSが最大のメディアになっていても驚きはない」と語った。

既存メディアとSNSの関係はどう変化していくのか。メディアの未来の姿を見つめる視点でも、大統領選挙とインフルエンサーの関係を追い続けていきたい。

〈執筆者略歴〉
守川 雄一郎(もりかわ・ゆういちろう)
TBSテレビの政治部記者として、総理官邸、小泉進次郎環境大臣、外務省、防衛省などを取材。岸田政権では松野博一官房長官らの番記者や自民党などを担当。
news23のディレクターを経て、2024年8月からワシントン支局で大統領選挙を中心に取材中。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。

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