「吉野家」「カインズ」など 物価高でも“値下げ”に踏み切る企業…一体なぜ?【Bizスクエア】

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2024-10-16 06:30
「吉野家」「カインズ」など 物価高でも“値下げ”に踏み切る企業…一体なぜ?【Bizスクエア】

8月の実質賃金が3か月ぶりにマイナスに転じた。賃金の伸びが物価上昇に追いつかない中、値下げに踏み切る企業も出てきている。

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物価高で消費落ち込み 値下げに踏み切る企業も

ホームセンターのカインズは、9月25日から391品目の商品を値下げした。カインズ広報部・鈴木ゆう子さんは「顧客が頻繁に使う日用消耗品を中心に安く提供したいという思いがあり、使用頻度の高い食品ラップなどを中心に値下げした」という。例えば50個入りの紙コップは178円から158円(税込)に、鉛筆1ダースは348円から248円(税込)にした。

来店客は「価格は一番重要なので、重視して買い物している」「カインズ製品は安い。どっちでもいいと思うのは、カインズ製品を使う」「ここは安いというイメージを持ってるから、他にはいかない」という。物価高のいま、値下げを実施する狙いはどこにあるのか。

カインズ 広報部 鈴木ゆう子さん:
今はリアル店舗でも、オンラインショップでも本当に多くの小売業があるので、顧客から選んでもらうためにも安さは守っていきたい。

カインズは、商品の企画・製造・販売を一貫して行う製造小売業として、コスト管理を徹底。さらに、全国240店舗という規模の大きさを生かして、仕入れ原価などを下げていることが、値下げを可能にした。

カインズ 広報部 鈴木ゆう子さん:
まずは来店してもらわないと売上も一切立たないので、安いことでまず足を運んでもらい、それがリピーターになってもらえれば、長く集客の点でも貢献できるのかなと考えている。

値下げの波は牛丼チェーンにも。吉野家は10月9日から1週間限定で牛丼を100円引きで販売。並盛1杯398円(店内価格・税込)で提供している。来店客は「いま何でも(価格)が上がっているからありがたい」「嬉しい。普通よりも安くなり、お手軽には食られた」という。

吉野家ホールディングスの2024年3月から8月の決算は、純利益が前年同時期と比べて23%減少。人件費の上昇が利益を圧迫した。厳しい環境の中での値下げの狙いは、物価高が続いている中での、新規の来客や既存客の再来店だという。

また、イオンも主力の総合スーパー事業が82億円の赤字となった。イオンの吉田昭夫社長は「食料品の顧客バスケット点数(購入数)は、一定程度、減少したままが続いている」としてイオンは低価格のプライベートブランドの商品を強化する考えを示した。

実質賃金再びマイナス 「二極化」する消費の現場

物価の変動を反映した8月の実質賃金は前年同月比で0.6%減少。3か月ぶりにマイナスに。また、実質消費支出も2か月ぶりにマイナスとなった。これを受けて赤澤亮正 経済再生担当大臣は「明らかに良い知らせではない。実質賃金のプラスが続かないと間違いなく国民生活は苦しくなっていく」と述べた。

一方で、過去最高益となったのが百貨店。大丸や松坂屋を運営する、J.フロントリテイリングの中間決算は増収・増益で純利益は前年同期比2.3倍となった。インバウンド客の需要に加え、富裕層の消費も業績を押し上げた。小野圭一社長は「富裕層消費については引き続きラグジュアリーブランドと時計など高額商品が売れている」としている。

二極化する消費の現場。石破茂総理は所信表明で、物価高に苦しむ低所得者への支援など経済対策を早急に策定するとした。一方で物価の上昇が続いているのにも関わらずデフレから完全に脱却していないとして、「デフレ脱却」を最優先に実現するともしている。果たして、石破総理は「デフレ脱却」と「物価高の克服」を実行できるのか。

物価の変動を反映した実質賃金は、前年同月比で0.6%減少し、3か月ぶりにマイナスに転じた。賃上げが物価高に追いつかないという状況でずっと実質賃金マイナスだったが、6月、7月はボーナス月でプラスに出ていたが、8月はマイナスに戻ってしまった。ただマイナス幅はこれまでよりは比較的小さく、今後に期待を残した。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
賃金が増加しているのは間違いない。物価の上昇が止まらない。

「2人以上の世帯」が消費に使った金額は29万7487円となり、(物価変動を除いた)実質消費支出は、前年同期比1.9%減少、2か月ぶりにマイナスとなった。

――単月ではブレがあるが、基本的には実質消費はマイナス圏が続き、家計の財布の紐は固い。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
だんだん財布の紐が固い時間が長くなってくるので、消費の中身も変容し始めている。早くこれがプラスにならないかというところ。

量販店などでも値下げをして客数を確保するという動きが出ているが、その一方で、いい数字もある。

2人以上の世帯のうち勤労者世帯の可処分所得は48万2029円で、前年同月比3.7%増加、4か月連続のプラスとなっている。これは「実質」の数字で、「家計調査」は年金世帯など収入がない、働いてない世帯も入っている。勤労者世帯だけを取ると、実は2024年の半ばぐらいから可処分所得は定額減税もあってプラスに転じており、引き続き8月もプラスだ。手元にお金がある世帯も出てきているはずだが、そんな簡単に「節約モード」からは変わらない。

――物価になかなか賃金が追いつかないという状況は、タイムラグが起こる。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
タイムラグと、(賃上げが早めに実現するか、そうでないか)強く出る人と強く出ない人が出てくる。そこを政策でどうやって対応していくのかと考えないといけない話になる。

「可処分所得における食品・エネルギーの支出比率」のグラフを見てみると、高所得上位20%の世帯では、食品・エネルギーの支出は10%台だが、下位(~494万円)の20%の世帯では、食品が22.9%、エネルギー5.8%。つまり可処分所得のうち、3割近くを食品とエネルギーに使っている。

――これは何を意味するのか。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
食品支出はそんなに削ることはできないので、所得が少ない人はその比率が高くなる。いま国内で米の値段などすごく高い。そうすると、食品支出がどうしても大きくなってしまう。そうすると低所得者の物価上昇感や生活苦は、より色濃く出ることが統計からもはっきりわかってくる。

――特に今回のインフレでは、輸入物価の高騰と円安がダイレクトに物価高に結びついており、食品とエネルギー支出に表れる。エネルギーについては、電気・ガスの補助やガソリン補助金など出ているが、食品については出ていない。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
そういう意味では、やりようがいくらでもある。食品に対する補助が出ていない。特に米の値上がりに対してどうするかとか、今までは一律給付というような話になると思うが、今回は低所得者や年金受給者が非常に苦しいので、石破政権はそこに集中的にやるという政策の方向でいくらでもやりようがある。

そんな中に迎えた衆議院解散総選挙。今回の選挙と前回2021年の衆議院選挙時と経済状況がどれくらい違うか比較してみた。

「企業の経常利益」は20兆円余り増え、過去最高の106兆円になった。「名目GDP」も初めて600兆円を超えた。一方で「実質GDP」はほぼ横ばい。「物価」と「賃金」は上がっているが、効果が相殺されて「実質賃金」はマイナスになっている。

――「実質所得」を上げて、それが「需要の拡大」に繋がって、成長を牽引するような経済に移行しなければならない。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
2021年は岸田政権ができたとき。岸田政権で「名目経済の拡大」は見事にうまくいった。そういう意味で光が強く出たが、反対に影が強く出る。その影の部分がインフレ。実質賃金が伸びないというのはインフレの問題で、次の石破政権の課題は、今の循環を止めないために「名目の拡大」を続ける。その一方で、インフレ対応に関して、岸田政権からバージョンアップしないといけない。

――「春闘賃上げ率」もずっと上がってきている。これを止めない。最低賃金も上げるし、春闘の賃上げも引き続き上げていく、これは大事なことだ。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
所得の面ではもちろん、やはり消費の部分をなんとかして上げていかなければならない。石破政権が「低所得者への給付」みたいな話を言い出しているが、やり方を変えてもいいのではないかというふうには思う。確かに岸田政権の踏襲という仕方もあるが、食品の部分に対して配慮するということが一つあり、それからもう一律給付という話ではなく、本当に困ってる人に対してピンポイントで強く政策を行うことで、インフレの痛さを緩和することはできる。そのようにバージョンアップできるかは、大きな柱だ。

――需要面の刺激だけでなく、供給面の解決も必要か。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
今だんだん順繰りに経済が大きくなっている。例えば企業は設備投資をこの先やらなければならない。設備投資をすれば、人手不足で倒産するみたいな話をしなくなる。それと今、供給制約が大きくなっている。一つは労働の問題。移民・外国人労働の問題もあるが、働きやすい改革みたいな話をどれだけスピードを上げてやれるかというところが大きな話だと思う。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
もう一つが電力。コスト高がこれから先も続けば、インフレの構造問題をずっと引きずることになる。ここはもう政府はやらなければならない。

――むしろこれからデータセンターやIT社会の進化で電力需要は増えていく。電力料金をどう抑えていくかに本気で取り組まないと円安も止まらないことになりかねない。

(BS-TBS『Bizスクエア』 10月12日放送より)

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