女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(11月24日・宮城県開催)の予選会であるプリンセス駅伝が20日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースで行われる。30チームが参加し、上位16チームがクイーンズ駅伝出場資格を得る大会。昨年のクイーンズ駅伝9位の三井住友海上がトップ通過候補だが、10位だったエディオン、11位のユニクロも戦力がアップしている。特にユニクロは吉川侑美(33)と川口桃佳(26)の2本柱に、今季から外国人選手が加わった。「三井住友海上が強いですが、競って行けたら」と長沼祥吾監督。ユニクロの戦力と、予想されるレース展開を紹介する。
ユニクロの成長を支えてきた吉川侑美
ユニクロは14年の7位がクイーンズ駅伝過去最高順位だが、その後は出られない年が4回、20位台が2回と、低迷が20年まで続いた。しかし21年は10位、22年も10位、昨年は11位。クイーンズエイトが見える位置に定着している。
「突き抜ける力がないのでクイーンズエイトに入れないのですが、一昨年は1区で21位、去年も1区で20位と出遅れても、最終的には挽回しました。3年間で全国トップテンの力はついたのだと思います」と長沼祥吾監督。
吉川は中距離、3000m障害と日本トップレベルで活躍した後、ハーフマラソン、マラソンと距離を伸ばしてきた。クイーンズ駅伝でも21年3区区間5位、22年5区区間3位、23年3区区間6位と、長距離区間を区間上位で走り続けている。3年間で19人を抜き、チーム躍進の原動力になってきた。昨年のクイーンズ駅伝翌月には日本選手権10000mで31分58秒65(14位)と、33歳で自己記録を更新。今年の駅伝後も、マラソンで自己記録(2時間25分20秒)の大幅更新に挑戦する。
「10月6日に米国ミネソタの10マイル(約16km)に出場して、小刻みに起伏が続くコースで、風も強い中で悪くない走りでした。駅伝では10km区間の3区(プリンセス駅伝は10.7km)か5区(同10.4km)で、区間3位以内で走らないとマラソンのスピードにつながりません」
もう1人のエースの川口は、トラックのスピードが特徴の選手。昨年のアジア選手権10000m2位と、代表としても活躍し始めた。しかしクイーンズ駅伝は1区区間20位と力を発揮できなかった。それに対し今季は9月の全日本実業団陸上5000m日本人4位、翌週のAthletics Challenge Cup日本人5位と安定感がある。「去年とは違う流れで来ています。上り調子」と長沼監督も期待する。
「3区で3位以内」の展開を
吉川、川口と並ぶ5000mのスピード(15分24秒82)を持つのが平井見季(28)で、昨年のプリンセス駅伝は3区を任された。区間9位で1人を抜き、その時点でチームは2位に浮上した。しかし故障も多い選手でクイーンズ駅伝は欠場。安定した強さがない点が課題だった。
今季もシーズン前半は5000mで16分かかるレースが多かったが、9月の全日本実業団陸上では15分49秒13まで上げてきた。「夏のトレーニングで意識改革もできました。去年より悪い要素はありません」と長沼監督。駅伝でも戦力として計算できる。
最短区間(3.6km)の2区は、パリ五輪1500m代表だった後藤夢(24)の出場が濃厚だ。後藤はパリ五輪予選で4分09秒41の自己タイで走り、敗者復活ラウンドでも4分10秒40と同レベルのタイムを揃えた。シーズンを通して4分9秒台2レース、4分10秒台も2レースと、安定した強さが身に付いている。帰国後に足底に痛みが出たが、練習は継続できているという。1区の秒差次第だが、2区の後藤でユニクロがトップに立つ可能性もある。
そしてインターナショナル区間の4区(3.8km)に、オマレ・ドルフィン・ニャボケ(23)が登場する。ハーフマラソンで22年以降5勝しているランナーで、プリンセス駅伝の距離ではもったいない選手だが、チーム内6番手の日本人選手が走るより1分前後は速くなる。
「3区を終えて1~3位にいれば、4区で順位を落とすことはありません」と長沼監督。「4区以降が逃げ切り態勢に入っていれば一番良いのですが、混戦になっても3位以内を確保することが目標です」
故障でプリンセス駅伝には起用できない柳谷日菜(24)がクイーンズ駅伝ではメンバー入りしてくる。プリンセス駅伝で3位以内に入れば、クイーンズ駅伝の8位以内が見えてくる。
エディオン、しまむらも要注意チーム
昨年のクイーンズ駅伝10位で、細田あい(28)、矢田みくに(24)、水本佳菜(19)と主要区間の選手が揃うエディオンも前評判が高い。
パリ五輪マラソン補欠だった細田が、9月のベルリン・マラソンで2時間20分31秒の日本歴代7位をマーク。来年の東京世界陸上参加標準記録を突破した。細田はマラソンの疲労を考慮して起用しない方向だが、8月のU20世界陸上代表を辞退した水本は復調している。そして一番の期待は矢田である。16年の世界ジュニア5000m12位、18年のアジアジュニア選手権優勝と、U20時代に国際大会でも活躍した。
「(5000m、10000mとも20年にマークした)自己記録は更新できていませんが、安定感はついてきました」と沢栁厚志監督。「良い成長ができているので、ここから日本代表など次のフェーズに行かせたいし、手応えもあります。駅伝を弾みにしたいですね」3区の区間賞候補の1人だろう。
「スピードもありラストもある。重要区間を任せたい」(沢栁監督)のが3年目の中島紗弥(25)、「長い区間や後半区間で能力を発揮できる」のが2年目の平岡美帆(23)、そして「粘りがある選手。経験をさせたい」のが昨年の全国高校駅伝1区区間4位の名和夏乃子(19)だ。
三井住友海上やユニクロに対抗できるチームだが、エースの細田を起用しない可能性が高く「トップ通過にはこだわらない」と沢栁監督。「強い相手とどう戦うかより、自分たちの力を出し切りたいですね」
上記3チームの評判が高いが、9月のトラックの結果などで「しまむらも優勝候補の一角」という声が挙がり始めた。東京五輪10000m代表だった安藤友香(30)が加入。3月の名古屋ウィメンズマラソン優勝(2時間21分18秒=東京世界陸上参加標準記録突破)の後に大腿骨の疲労骨折が判明し、3カ月間走る練習に影響が出た。9月の全日本実業団陸上5000mが復帰レースで15分48秒65。「7割くらいの戻り」と太田崇監督。
それでも実力は折り紙付き。昨年のプリンセス駅伝(当時ワコール)もマラソン翌月だったが、2区で区間賞の走りを見せた。そして今年のしまむらの評価が高いのは、他の選手たちの底上げが著しいからだ。
新人2人が好調で「突き上げができてチーム状況をよくしている」(太田監督)。山田桃愛が9月末のAthletics Challenge Cup5000mで15分46秒60の自己新で、安藤にも先着した。「山田は駅伝タイプで1人で押して行く能力が高いですね」。鈴木杏奈(23)も「長い距離の練習ができている」という。髙橋優菜(25)は2月の全日本実業団ハーフマラソンで7位。5000mでも15分30秒台のスピードがあり「1年後には日本のトップレベルまで成長してほしい」と期待されている。
太田監督は「5位通過という目標を立てていますが、4位でも、3位でもいい」と、チーム状況に手応えを感じている。昨年は16位とボーダーラインぎりぎりで通過したチームが、今年はトップから見える位置を突っ走る可能性がある。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)