アメリカ大統領選は投票まで2週間を切った。民主党・ハリス候補と共和党・トランプ候補の直近の支持率はきっ抗している。一時リードしていたハリス氏の支持率が下がった要因は?また、勝敗を分けるオクトーバーサプライズは起こり得るのか?笹川平和財団・上席フェローの渡部恒雄氏に聞いた。(聞き手:川戸恵子 収録:10月24日)
勝敗のカギ? 親イスラエルのバイデン政権にアラブ系有権者が反発
ーーハリス氏とトランプ氏の支持率について、ガザ紛争によって状況が変わりました。民族問題や親イスラエルかなど色々要因ありますが、ハリス氏が下がってきているのはどう見ますか?
渡部恒雄氏:
私は、もしハリスが今回負けたとしたら、そこじゃないかと思うんですね。それを見るためにはミシガン州がどっちに行くかというのが重要で、なぜかというとミシガン州にはアラブ系の有権者つまりイスラム教徒の有権者がたくさんいるので。ミシガン州を落として大統領になった人はいないんですよ、近年では。トランプがヒラリー・クリントンに勝ったときはミシガン州をトランプが勝ったので、それで大統領になれたんですね。このミシガン州、今もハリスさんと副大統領候補のウォルズさんは一生懸命ミシガンに行ってアラブ系の有権者を説得してるわけです。
ところがアラブ系の有権者は、いま40%がジル・スタイン候補に投票すると言っているんですね。ジル・スタインなんて弱小政党なのでミシガン州以外ではそんなに出てこないんですけど、いまや40%ですからね。それでトランプとハリスは同じぐらいで、下手するとトランプの方が多いぐらいなので。これはハリスの問題ではなくてバイデン政権全体の問題ですね。
つまりバイデン政権というのはバイデン大統領もそうですけれども基本的にはイスラエル、同盟国を支持(している)。ところがパレスチナ人、ガザの(犠牲者)これは4万2000人超えてますよね、ということに不満を持っていて、アラブ系アメリカ人の人たちで反対している人たちはこう言ってるわけですね「ジェノサイドをしているその政権に武器や軍事援助のお金(を出している)そんな大統領には投票できません」と言っている。
経済も社会的立場も変わらず・・・オバマ氏に黒人層が失望か
ーー黒人支持者の動向では、ここのところラストベルトと呼ばれる中西部の錆びついた工業地帯でトランプ氏寄りになったという話もあるそうですが?
渡部恒雄氏:
そうなんです。人口数は黒人が少ないのですが、むしろ重要なのは黒人人口が多いジョージア州とかノースカロライナ州。
ーーそれはなぜ?
両方とも理由は一緒なんですけれども。やはり経済苦しいじゃないですか、特にマイノリティはどうしても経済的に不利な立場にいるので。そういう人たちがバイデン政権の政策に不満を持っているのと。
これもかなり誤解だと思うんですけれど、「トランプの方が経済を良くしてくれた」というのがありまして、本人も言ってますがオバマ元大統領のスピーチで、あれは「私が良い経済にしてそれをトランプが引き継いだからだ」と言っているけど、イメージの問題としてバイデンになってから(良くない)。
景気の話じゃないんですよ、物価の話なんですよ。経済は良いんですよ今アメリカ、でも物価も高くて、これは日本も今最近似たような傾向にありますけどアメリカはもっとですから。そうすると低所得者層ほど物価が高い悪影響を受けますので、だからわりと黒人層が「もうちょっとバイデンじゃなくて、あるいハリスじゃなくて」というふうに思っていることと、もう一つ結構深刻な問題があって、オバマ元大統領が黒人の男性に「なぜハリスに投票しないんだ」と言って選挙運動してるんですけど、そもそも黒人層はオバマに失望したというところがあるんです。
オバマになったら、もうちょっと経済も社会的立場もよくなると思ったら全然なってないじゃないかというふうに不満を持たれていて、だから民主党全体が黒人層から、あるいは実はヒスパニック層も同じなんですけど、ちょっと(支持が)離れている傾向があって。
勝敗を分けるオクトーバーサプライズはある?
ーーどちらが勝つか、まだ見通しはわからない?
渡部恒雄氏:
やっぱりまだ分かりませんっていう理由の一つに、これ(7つの激戦州の支持率)は互角なんです。専門家が見るとこれはもうどっちが勝ってもおかしくないんです。プラスいまこれだけ差が僅差だと結局、当日ちょっとしたことで、支持者が行く行かないも含めてひっくり返っちゃうので。
ーーあと投票日まで2週間を切ってます。オクトーバーサプライズとよく言われますが、何か大きなことではなくて小さな事象でも変わる可能性がありますか?
渡部恒雄氏:
だから今回は大きなオクトーバーサプライズになりそうなものは、さっき言ったトランプのプーチンとの関係とか色々あったんですけど全然サプライズにならなかったですし、あと本当は今回イスラエルとイランが緊張していて、もしネタニヤフ首相がイランの製油施設を空爆したとしたら、これはもう原油価格が上がるので大変なことになってオクトーバーサプライズだったんだけど、なりませんでした。
そうさせないようにバイデンがちゃんとネタニヤフとやっているんで協力して。ところが、それがまたアラブの人たちが気にいらないわけです。そういう微妙な少ないところでひっくり返ったりするので多分誰も分からないということですね。