衆院選などの投票が締め切られる午後8時。テレビや、新聞社のインターネットサイトなどでは「〇〇候補が当選確実」という速報がすぐに流れます。でも、投票は終わったばかりで、開票作業はまだ始まっていないはず。なぜ、その段階で「当選確実」を出せるのか。仕組みを紐解きます。
そもそも「当確」とは なぜ各社が報じるのか
「当選確実」とは開票作業が始まる前や途中段階であっても、メディア各社が独自の調査と取材をもとに「この人が間違いなく当選する」と判断したときに報じるものです。略して「当確(とうかく)」と呼ばれ、投票が締め切られる午後8時に各社が一斉に報じ始めます。
そもそもなぜ、各社が競って当確を出すのでしょうか。「翌日になれば正確な結果が分かるじゃないか」という声もありますが、選挙は民主主義の根幹で、国の未来を左右します。ですから、その結果を少しでも早く、そして正確に伝えることは、報道機関の使命でもあるのです。もちろん「誤った当確」は絶対に許されません。
では当確をどのようにして出すのか。その判断材料は主に▼投票日当日までの情勢取材▼出口調査▼束読みの三つです。
聴衆の反応を見ることも…情勢取材の基本
当確を出すための取材でまず行うのは、各選挙区の過去のデータの分析です。
これまでにどんな候補が当選してきたのか、投票率はどれぐらいか、地域によって政党支持率の特徴はあるのか…。こうした基礎情報をふまえて、各候補の選挙事務所や政党などを取材し、投票率の見通しや重点地区などを聞いて回ります。
さらに、候補者の演説を聞きに行って話の上手さを確かめたり、スタッフの士気を見てみたりと、現場の「熱気」を量ります。こうした取材を積み重ね、選挙区の情勢がどうなっているのか「輪郭」をつかんでいきます。
それらの手法に加えて欠かせないのは、統計的手法に基づいた有権者への情勢調査です。
「選挙区では誰に投票するか」「比例ではどの政党を支持するか」などといった質問に回答をもらい、得られたデータを取材の情報と照らし合わせて、選挙の実態を浮き彫りにしていきます。かつては固定電話に電話をかけて調査するのが主流でしたが、自宅に固定電話を置かない家庭が増えたことで、携帯電話への調査やインターネット調査を併用するメディアが増えつつあります。
ただ、こうした取材だけで選挙情勢を把握するのには限界があります。なぜなら、特に支持する政党がない「無党派層」の有権者の割合が多いからです。業界団体や労働組合の活動が活発だった頃に比べて、「絶対に〇〇党・〇〇候補に入れる」という人は減少していて、事前の情勢取材だけで正確な状況を把握することは難しくなっています。
タブレット端末で「どの候補に投票しましたか」
そこで大切になるのが二つ目の判断材料である「出口調査」です。
出口調査とは、投票所で投票を終えた人に「どの候補者・政党に投票したか」などを尋ねるものです。数年前までは紙に記入してもらい、それを急いで集計していましたが、最近ではタブレット端末を使用するメディアも増えています。
事前調査には「選挙に行かない人」も含まれているため、どうしても実態からズレが生じてしまいます。
一方の出口調査は、投票を終えた人が対象なので、より正確なデータを収集することができます。調査は投票日当日だけではなく、期日前投票でも行っていて、これまでの情報と組み合わせることで「この候補は夜8時ちょうどに当確を出せる」「この選挙区は想定外の激戦だから様子を見よう」などと判断することができます。
双眼鏡とカウンターを手にした独特な手法
事前の調査や当日の出口調査でも「激戦」でどっちが当選してもおかしくない…。そんな状況の時に参考にするのが「束読み」です。これはかなり独特な手法です。
投票が締め切られた午後8時に地域の体育館などで開票作業が始まりますが、正式な票数が発表されるまでは時間がかかります。そこで、少しでも早く票数を把握して当確を出すために行うこともあるのが「束読み」です。
実は開票会場には参観席が設けられていて、そこに双眼鏡やカウンター、脚立などを持ったスタッフが各社から派遣されています。会場によってまちまちですが、実は候補者1人1人の票は、数百票ごとに束ねて票数を確定していくので、その束の数を数えることで大まかな票数がわかるのです。
これらは、束の数を読む作業なので、読んで字のごとく「束読み」と呼ばれています。
双眼鏡をのぞき、カチカチとカウンターで数えていく光景から、「バードウォッチング」と言われることも。体力的に大変な作業ですが、数えた票の数を報告してもらい、最終判断に用います。
こうして得られた全ての判断材料をもとに、慎重に正確に当確を出していくのです。
独自の調査と取材などをもとにお伝えしている当確。裏での地道な作業を思い浮かべながら選挙特番を見てみると、一味違った視点で楽しめるかもしれません。