東京都内のタワーマンション(以下、タワマン)の9割以上が集まるとされる東京23区。衆議院議員選挙の情勢調査を進めていくと、タワマンを始めとした都市部のマンションでの訴えの難しさが見えてきた。
【写真を見る】衆院選、都市部マンションへの訴えの難しさ 晴海も勝どきも…候補者陣営「そもそも有権者はどこに」【衆院選2024】
地元の有権者に平日会えない…実は「新しいマンションにも仲間がいる」
東京カンテイの2018年の調査によると、港区と江東区に次いで、タワマンのストック数(現存している中古マンションの数)が3番目の品川区(41棟)と4番目の中央区(34棟)。その2区を含んだ衆院選東京2区(中央・台東)と東京3区(品川・島しょ部)には、昔ながらの一軒家もありつつ、マンションが立ち並ぶ一帯が目立つ。
東京2区と3区には新築マンションが乱立し、賃貸などもあるため、住人の入れ替わりが激しい。そのため、無党派層が多く、選挙の「風」に振り回されることがある。2区のある候補者の陣営は「都知事選や小選挙区制のような選挙は、逆風が吹いているとどうあがいても勝てないことがある」と話す。
「都市型中の都市型」の選挙では、各陣営は悩みを抱えているという。
まず、平日の昼に街にいる人は地元の有権者でなく、働きに出てきている人が多い。2区の別の陣営は「平日は仕事に行っている人が多いので、昼間に街頭に立っても閑散としている。そもそも有権者がどこにいるか分からず、訴えることができない。土日は公園などの親子連れに訴えたが、今回のような短い選挙戦だと土日が少なく、知名度は上げられない」とこぼす。
特に2区と3区は巨大なターミナル駅がなく(品川駅は港区、東京駅は中央区と千代田区の区境)、大量に人が集まる場所が確保できないこともあり、各候補者は様々な駅前やショッピングモール前などを回る。ある日の武蔵小山駅(品川区)での街頭演説をのぞくと、通行人は候補者を一瞥するだけで、立ち止まる人はほぼいない。ある陣営の幹部は「駅前に広大なスペースがないので、人を動員することもできない」と打ち明ける。
ある候補者は「ここだ、という場所がなく、ポスティングも禁止されていることが多い。マンションに向かって、訴えが届いていることを信じて、我々の用語でいう『壁打ち』をするしかない」と話す。
中央区・晴海で開かれたハロウィンイベントに参加し、有権者に声を届けた候補者もいた。この候補者の陣営がイベントの存在を知ったのは、「晴海のマンションに住み替えた地権者が教えてくれた。その人は我々の元からの支持者の人。新しいマンションにも仲間がいるのは強み」だという。
年代が下がるほど、投票先は「当日」に決めた 侮れないネットワークも
前回2021年の衆院選で投票する候補者を決めた時期について、公益財団法人「明るい選挙推進協会」の調査によると、「投票日当日」と回答した70歳以上の人は4.6%だったが、以降は年代が下がるごとに割合が増えており、18~29歳は32.9%の人が「投票日当日」に決めたと回答している。
中央区・晴海に住む会社員の男性(47)は「子どもの保育園の友達の保護者以外、マンションの近隣住民との交流はほぼない。エレベーターで挨拶するくらい」とし、「衆院選?もちろん行きますけれど、候補者の人は見たことがない。選挙公報を見て決めます」と話す。
他方、2024年の東京都知事選挙では、「晴海西小・中学校」の投票所で投票率74.64%を記録したように、しっかり投票に行く意識がある地区だ。
XやInstagram、YouTubeといったツールを駆使して、街頭で会えない有権者に声を届けようとする候補者も多かった。ただ、インターネットは幅広い層にアプローチできる一方で、自分の選挙区の有権者だけに届けることはできず、能動的に情報をとりにくる人にしか訴えられないデメリットもある。
「意外とママ友・パパ友のネットワークは侮れない。地方の選挙のように口コミが有効なこともある」と語る陣営もあった。しかし、中央区・勝どきに住む会社員の女性(33)は「保育園の知り合いと選挙の話はしないし、何か投票をお願いされたこともない」と打ち明ける。
10月27日に投開票された衆院選は、東京2区も3区も組織票を固めた自民党の候補が当選した。ただ、町会・自治会の加入率は品川区で58.3%(2020年4月時点)ほどで、町会・自治会の役割が大きく影響した、といったことはなさそうだ。候補者の打った手の何が投票の決め手となったか、今後調べてみたい。