いわゆる「103万円の壁」。その引き上げ幅をめぐり、自民・公明はそれぞれ国民民主との協議に臨んでいます。
ただ、大幅な減収が見込まれる地方自治体からは苦言も出ています。
「壁の引き上げ幅」どこが妥当?
加藤シルビアキャスター:
今回は「103万円の壁」について
▼引き上げ幅はどこまで上がるのか
▼引き上げたことで具体的な手取りはどうなるのか
この2つのポイントに絞って見ていきたいと思います。
国民民主党・玉木雄一郎代表は、103万円の壁を178万円まで引き上げると話しています。この根拠は最低賃金です。103万円の壁が設定された1990年代よりも、最低賃金が上昇している。そのため、上昇している最低賃金を反映して178万円という数字が出てきています。
一方、自民党・石破茂総裁は約7.6兆円の減収が見込まれるため、大幅な引き上げに対しては慎重な姿勢です。
経済評論家の加谷珪一さんは引き上げ幅について「物価上昇に見合った上げ幅が妥当だと考えています。金額は113万円程度」と話しています。
ホラン千秋キャスター:
どこにラインを引くのかというのがかなり難しいようですね。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
一つは物価上昇か、最低賃金なのかという議論。もう一つはその減収幅。減収幅が7.6兆円もあるとさすがに難しいだろうと。それをどの辺で線を引くかというのが問題です。
103万円の壁は税金の壁の問題ですが、社会保険の壁というのもあり、それとの整合性も必要になってくる。いろんな調整をする必要があります。
井上貴博キャスター:
確かに政府が主張している試算の「減収7兆円以上」というのは結構大きいと思います。しかし「税収が減る、だから地方が大変だ」という試算ばかりが出てくる。
一方で、年収180万円くらいまで働けるようになった場合、国全体の給料は約4000億円増えると言われており、それで経済が回った分、税収が増える部分もあると思います。しかし、税収が増える部分、つまり国民生活が恩恵を受ける部分の試算を出さずに「減収なんです」ばかり言われても、少しフェアではない気がします。
星浩さん:
いずれ乗数効果でどれだけ経済が膨らんでくるかの試算は出てくると思います。しかし、どう見ても(減収幅の)7兆円、8兆円をカバーする額には届きませんので、その分は税収減になることは間違いないですよね。
壁が引き上げられたら…どれくらい手取りは増えるのか?
加藤キャスター:
では、この壁が引き上げられた場合に手取りは実際どれほどになってくるのか、ファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さんに聞きました。
【壁ギリギリまで働いた場合の手取りは?】(世田谷区在住のパートの主婦の場合)
▼壁が103万円の場合:住民税のみ1万円ほど引かれ、手取りは約102万円。
▼壁が178万円の場合:住民税に加えて社会保険料などが引かれるので、手取りは約134万円。
所得税はかかりませんが、「社会保険料がかかってくる」ことが一つポイントになります。
ホラン千秋キャスター:
これが先ほど星さんがお話されていた、社会保険料との整合性はどうなのかっていう。
星浩さん:
元々の税の壁と社会保険の壁が違うことによって生じます。
ただ社会保険の場合は、月1万数千円の負担になっても、それはいずれ年金として返ってきますから、この段階ではちょっと負担ですが、将来を考えるとプラスの面も出てくる。
ホランキャスター:
しかし、明らかなプラスだと実感できるくらいの期間払い続けないと、結局そこまで変わらないのではないかと。例えば一時的にパートをやっている方からすると、「社会保険」「年金」というけど、変わらなくない?と思う方もいるかもしれません。
星浩さん:
(年金を受け取れるのが)65歳くらいからなので、「とにかく目先の収入が欲しい」というのは普通の考え方でしょうね。
「103万円の壁」は問題の一部に過ぎない?日本の抱える本当の課題とは
井上キャスター:
今回の選挙で玉木代表は一つの論点として「103万円の壁を引き上げる」「手取りを増やす」と、とてもわかりやすかったと思います。
しかし結局、議論をしていろいろ考えると、社会保険料などの他の壁も含めて一体で考えなくてはいけない。日本は仕組みをこんなにややこしくしなければいけなかったんですか。
星浩さん:
そもそもこういう制度設計というのはそう単純ではありません。
一方でこの税金の問題と、例えば学生アルバイトで103万円の壁があるというが、「学生が年間103万円もアルバイトしなければいけないのか」という議論もあります。7兆円、8兆円もあるならば、授業料の減免や奨学金の拡充に振り向けて、学生が長時間のバイトをしなくても済むような制度も必要となってきます。なので、税と社会保障の問題に加えて、教育の無償化の問題とも、全て重なってきます。
ホランキャスター:
物事が横に広がると、政府はより身動きが取れなくなる傾向にあると思います。そうすると縦で「一回これを解決しよう」という方が簡単なのでしょうか。
星浩さん:
一つの課題の方がわかりやすいですが、果たしてそれで問題が全部解決するのか、というと実はそうでもありません。
私からすると「103万円の壁」は全体の中のほんの一部のパーツでしかないので、むしろ教育費の減免などの方が本丸ではないかという気はします。
井上キャスター:
基礎控除の引き上げで「高所得層が有利ではないか」と言われている。しかし、減税率で見ると、低所得の人の方が大きくなるので、“額を見るのか、率を見るのか”で変わってくるところもありますよね。
星浩さん:
ただ、今の経済状況で年収1000万円の人に22万円の税収減をもたらす必要があるのかという本質的な問題があります。私は必要ないと思うんですよね。それであれば別の政策にお金を使うことを選択するのが必要かなという気がしますね。
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<プロフィール>
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
1955年生まれ 福島県出身 政治記者歴30年