私たちの生活に欠かせない水道水から検出されている有機フッ素化合物「PFAS」をめぐり、不安が広がっています。汚染源のひとつとして指摘されているのが、在日アメリカ軍の基地です。取材を進めると、米軍のPFASへの対応は日本と海外で大きな違いがあることがわかりました。
【写真を見る】揺らぐ水の安全…全国2割の水道でPFAS 米軍基地への立ち入り調査実現せず 沖縄では処理費用も日本側が負担 ドイツとの違いなぜ?【news23】
水道の約2割で「PFAS」検出 各地で調査
人口1万人ほどの町、岡山県吉備中央町。住民の健康への不安が高まっています。
検査を受ける住民
「健康心配なので希望させていただきました」
行っていたのは、検査のための採血。全国で初めて、公費による検査が行われました。
というのも2023年、この町の浄水場の水から、国の暫定目標値の28倍ものPFASが検出されたためです。
検査を受けた住民
「子どもがいるので、その影響が子どもにあるのか心配です」
有害性が指摘されているPFAS。国は先週、水質検査の結果を公表しました。PFASは約2割の水道事業者から検出されましたが、2024年度は、国が定める暫定目標値を超えたところはありませんでした。
ただ、2023年度までの4年間では、全国の14か所で暫定目標値を超える濃度が検出されています。
山口県岩国市では今週、市が独自で水質調査を始めました。船からバケツをおろして、海水をくみ取っていきます。
水を採取した4か所の中心には、アメリカ軍の岩国基地がありました。2024年10月、市民団体の調査では、国の暫定目標値の約3.5倍の値が検出されました。
汚染源として疑われている岩国基地。実はこれ以外でも、全国のアメリカ軍基地周辺で高濃度の値が検出され、新たな調査などの動きが加速しています。なかでも深刻な状況にあるのが沖縄です。
沖縄・米軍基地周辺から高濃度PFAS 意図的な放出も
宜野湾市にある湧水「喜友名泉(チュンナーガー)」。県の調査で高濃度のPFASが検出されました。国の暫定目標値の44倍です。
11月、この場所を訪れたのはマルコス・オレリャーナ氏。国連から任命を受け、人権に関する調査や報告などを行う特別報告者です。
元農家 宮城優さん
「私は先祖代々、ここで田芋を生産していた。人々から『こんな所で人が口にする食べ物を作っていいのか』と。ここを汚したのは何なのか」
宜野湾ちゅら水会 町田直美さん
「私たちがここでずっと住み続けたいという権利を、子どもたちも含めて奪われたと思っています」
国連特別報告者 マルコス・オレリャーナ氏
「これらは非常に重要で、皆さんの言葉を国連総会に届けるための大切な材料となります」
湧水近くに広がるのが、普天間基地です。
2020年、基地周辺の川には泡が浮かんでいました。米軍の消火訓練で使われる泡消火剤で、PFASが含まれています。基地からの泡消火剤などの流出は2016年以降、少なくとも5回起きています。
記者
「PFOSを含む汚染水を、下水道へ流し込む作業が行われています」
格納庫の貯水槽とみられる施設には黄色いポンプ車が横付けされており、中には、消火訓練で生じたPFASの汚水が保管されていました。それを、公共の下水道に放出したのです。
沖縄県 玉城デニー 知事(2021年8月)
「米側が一方的に放出したことは、非常に激しい怒りを覚える」
米軍は、汚水を処理してPFASの濃度を下げたと説明していました。しかし、放出直後に基地周辺の下水から検出されたのは、国の暫定目標値の13倍以上のPFAS。
日本政府はさらなる汚水の放出を避けるため、米軍側と協議を行いました。その結果…
岸信夫 防衛大臣(2021年9月当時)
「防衛省が水を引き取り、適切に処分すること。日本側の費用負担で行います」
日本側が、残った汚水を引き取ることが決まりました。
汚水の処理費用に加え、格納庫の補修費用も日本側が肩代わりすることに。合わせて5億8700万円を日本側が負担しました。
飲み水への影響も深刻です。水道水の水源である川にPFASが混入していることが明らかになってから、まもなく9年。
沖縄県の担当者
「大工廻川でも非常に高い濃度のPFOSが確認されて、比謝川のポンプ場、取水する地点でも高い濃度を確認しました」
汚染源を特定するため、県は嘉手納基地への立ち入り調査を米軍に求め続けていますが、未だに実現していません。
なぜ日本とここまで違う? ドイツでは米軍が費用負担
汚染された側が費用を負担する日本とは、対照的な国があります。
記者
「ここドイツでも、アメリカ軍基地の周辺に住む人たちがPFAS汚染の問題に苦しんできました」
ドイツ西部にある、シュパングダーレム基地。アメリカ空軍が駐留しています。
基地の横に住むシュナイダーさんは、長年PFASの問題と戦ってきました。
基地の横に住むシュナイダーさん
「この池には大きなコイもいた。貴重な種類の魚もいた」
ところが10年ほど前、魚釣りは禁止されました。池の水が、PFASに汚染されていることが判明したのです。
基地の横に住むシュナイダーさん
「これは1980年代後半に撮影したもの」
基地で行われていた消火活動の訓練映像を見せるシュナイダーさん。泡消火剤にPFASが含まれていました。住民の働きかけもあり、地元当局や米軍による調査が行われ、汚染源が基地だと特定されました。
地元自治体は、汚染された下水からPFASを除去する必要がありましたが、その費用としてドイツ連邦から46万ユーロ(2017年のレートで約5800万円)が支払われました。そのうち75%を負担したのは米軍です。
基地の横に住むシュナイダーさん
「高濃度のPFAS汚染物質を焼却して、廃棄しなければならなかった。このための費用を自治体は返してもらおうとしたのだ。小さな自治体にとっては米軍を相手に大きなチャレンジだったが、下水料金を安定的に保つために、住民にとっても大きな助けになったと思う」
こうした対策が取られたのはなぜなのか。根拠となっているのがNATO地位協定です。
ドイツがアメリカなどと結ぶNATO地位協定の補足協定には、「国内法の原則適用」が明記されています。汚染の除去についても、汚染者が負担するという原則が米軍にも適用されているのです。
専修大学 森啓輔 准教授
「もし米軍が(ドイツの)提供区域の基地の中で環境汚染をした場合に、ドイツ国内の環境法をしっかり守って、自ら汚染を除去しなさいということを求めることができる。国内の環境行政と協力しながら、当該汚染に対してアプローチしていくというふうになっていく」
ただ、汚染された水は基地から周辺地域に排出され続けていて、シュナイダーさんは「対策は不十分」だと指摘します。
基地の横に住むシュナイダーさん
「軍による環境への負担はなくてもいいはずだ。環境汚染をしないよう米軍に圧力をかけるためには、軍が放出する物質を探さないといけない。私たちは諦めてはいけない」
「日米地位協定の運用改善は可能。政治の交渉力が重要に」
上村彩子キャスター:
PFAS汚染を巡るアメリカ側の対応が、日本とドイツでここまで大きく違うのかと驚きました。
喜入友浩キャスター:
そして日本では、調査もなかなか進んでいません。その背景にあるのが、日米地位協定の「環境補足協定」です。
これによると、環境に影響を及ぼす事故が発生した場合に基地への立ち入り調査が可能になるというのですが、それもアメリカ側が同意した場合のみということで、ハードルが高くなっています。
上村キャスター:
基地周辺住民の皆さんは、いつか健康被害が及ぶかもしれないと不安を口にされていました。
喜入キャスター:
専修大学の森准教授は「日米地位協定はすぐ変えられないが、運用改善は可能。政治の交渉力が重要に」と指摘しています。
上村キャスター:
基地内の調査や、具体的な汚染水対策をアメリカ側に求める。それができないのであれば、もしくは日本ができるように、日本政府の主体的な働きかけが求められています。