動物の帰巣本能というと、渡り鳥や海亀、鮭、映画の「名犬ラッシー」などを思い浮かべる方が多いかもしれません。遠く離れた場所から巣や自分が生まれた川などに戻る能力を、帰巣本能といいます。実は、私たちの身近にいる猫にも、帰巣本能が備わっているといわれています。猫に備わっている帰巣のための能力に関するいくつかの説をご紹介します。
飼い主の帰省先で被災した猫の帰還報道
2024年2月6日付の時事ドットコムニュースに、飼い主さんの帰省で一緒に石川県珠洲市に来ていて能登半島地震に遭い、行方不明になっていた猫のコタロウが、34日ぶりに飼い主さんの帰省先に戻ったというニュースが載っていました。
被災前は5kgほどだった体重は4kgに減り、極度の脱水と貧血でボロボロになりながらも戻ってこられたのは、猫にも帰巣本能があるという事例の一つになるでしょう。日本や海外で、数百kmも離れた場所から猫が自力で戻ったという逸話は絶えません。
猫がどうやって遠く離れた場所から戻ってこられるのかという帰巣本能については、まだ不明点が多いのが現実です。しかし、いくつかの有力といわれる説がありますのでご紹介します。
猫にも帰巣本能があると思しき説
1.体内時計と太陽の位置
猫には、太陽の位置と自分の体内時計から戻りたい場所を見つけられる、伝書鳩とよく似た能力があると考えられています。
猫は、体内時計と太陽の位置を、季節ごとに記憶しているというものです。遠く離れた場所に来ると、太陽の位置と体内時計の感覚にズレが生じます。そのズレが縮まるように移動することで、元の場所に戻れるのだという説です。
2.磁気感受性
猫には、渡り鳥や海亀のような、地球の磁場を感知して方向を認識する能力があると考えられています。
1970年代に、屋根があるため日光や星の光を見ることのできない迷路で実験を行った結果、導き出された説です。猫に強力な磁石を取り付けると方向が分からなくなったという実験結果もあり、この説の裏付けとされています。
3.感覚地図
私たちが道を覚える際には、視覚情報などを利用します。例えば「赤とんぼのオルゴール音が流れる信号機のある角を右に曲がって3軒目の、よく吠える犬のいる家」といった覚え方です。
同じように、猫も視覚や聴覚、嗅覚などを使い、頭の中に縄張りとしている地域の感覚地図を作っていると考えられています。
そのため、視覚などの五感を使った手がかりが豊富にあればあるほど、猫は迷わずに目的地にたどり着けるという説です。
4.方向細胞
猫の脳内には、方向細胞があるという説です。
方向細胞とは、1990年にラットの脳内で発見された自然ナビゲーション・システムを持つ細胞です。1つの方向細胞が1つの目標を記憶していて、頭がその方向に向いた時だけ活性化するというものです。
帰ってこない猫が多い理由
日本の国内外で、遠く離れた場所から猫が自力で戻ってきたという逸話がある一方、迷子になって見つからないまま帰ってこない猫もたくさんいます。実際、ペット探偵が探し出した迷子猫のほとんどは、家のすぐ近所で見つかっていますが、自力では帰って来ていないのです。
帰巣本能を発揮する猫がいる一方で、それ以上に多くの猫たちが帰ってこないのは、なぜなのでしょうか。
帰巣本能が備わっている猫が戻ってこない理由として推測されているのが、「猫は自分にとって快適な場所を見つけると、そこを居場所に選ぶから」という説です。
外に出た猫が、見知らぬ猫や犬に追われたり自動車を避けたりしながらどんどん遠くに追いやられてしまい、本当に道に迷ってしまうことはままあります。
そんな時に、快適に過ごせる場所を見つけたら、そこを自分の居場所に選んでしまうという考え方です。実際、道に迷っている猫を保護して家に迎え入れ、そのまま一緒に暮らしているという保護主さんは少なくありません。
また、外を自由に歩いたことのない完全室内飼いの猫には、そもそもその地域の感覚地図がありません。そのため、家の中と外を自由に行き来しながら暮らしていたかつての猫と比べて、帰巣本能が弱まっているのではないかとも考えられています。
まとめ
猫が人と一緒に暮らしてきた長い歴史を考えると、祖先であるヤマネコの野生的な習性を色濃く引き継いでいることは、奇跡といえるかもしれません。
犬のように雑食性に変わることなく純粋な肉食性を維持していますし、ハンターとしての身体能力も衰えていません。
しかし、自由に外に出すことのない完全室内飼いが当たり前となった現代、猫たちは、帰巣本能という点では多少能力が弱まってきているのかもしれません。その点を意識して、マイクロチップや首輪、迷子札などの装着は、いざという時の備えとして欠かせないでしょう。
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