実質賃金プラスが定着?楽観的な政府見通し、「103万円」の減税額は小さく【播摩卓士の経済コラム】

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2024-12-28 14:00
実質賃金プラスが定着?楽観的な政府見通し、「103万円」の減税額は小さく【播摩卓士の経済コラム】

来年度の政府経済見通しが発表されました。来年度(25年度)は実質賃金プラスが定着し、消費の拡大を通して、実質1.2%の成長になるとしています。いわゆる「103万円の壁」問題以外、これといった消費刺激策の議論もなく、一体どうやって実現するのだろうと、楽観的な政府見通しに首をかしげます。

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政府は名目賃金2.8%上昇と政府見通し

そもそも予算編成時に閣議決定される政府経済見通しが、実態より楽観的だというのは恒例のことです。それにしても、来年度の「楽観」は、なかなかのものです。

まず、名目賃金の上昇率を、過去30年余りで最高だった今年度と同じ2.8%に設定しました。一方、消費者物価の上昇率は、今年度の2.5%から来年度は2.0%へと落ち着くとしていて、実質賃金のプラスが定着するというシナリオを描いています。

11月の全国消費者物価の総合指数は2.9%でした。予想に反して再び円安が進み、輸入価格への波及が心配される中で、どうやって2.0%に落ち着くのかは不明です。

政府見通しは、実質所得プラスを起点に、個人消費が実質で1.3%と、今年度の0.8%増から大きく伸びて、設備投資や輸出の増加も相まって、実質で1.2%もの経済成長が実現するという絵を描いています。「そうなれば良いよね」という絵であることに異論はありませんが、今年度の実質成長率は、わずか0.4%増に過ぎず、どうやって0.8ポイントも上積みできるのだろうかと、思ってしまいます。

春闘には引き続き期待が持てるものの、日銀が追加利上げに慎重な姿勢を示したこともあって、円安是正や、物価落ち着きへの道筋はかなり不透明です。仮に実質賃金プラスの世界が実現しても、この2年以上にわたって家計は実質所得が目減りして来ただけに、すぐに消費に回るとは考えにくいのではないでしょうか。

家計支援や消費刺激策の議論は深まらず

政府経済見通しに苦言を呈したくなるのは、来年度の税制改正や予算編成で、家計支援や消費刺激、さらに言うと、円安是正に向けた具体的な政策がほとんど打ち出されていないからです。株価も今年前半こそ、バブル後最高値を更新し初の4万円台をつけたものの、年後半に勢いが持続しなかったのは、やはり消費の低迷が景気の足を引っ張ったからでしょう。

実質賃金がプラスになるまで、政策的なサポートは欠かせないはずですが、すでにガソリン補助金の減額は始まり、電気ガスの補助金も3か月だけ縮小復活と、心許ない限りです。政治の関心は、この年末、「103万円の壁」問題に集中してしまいました。

「103万円の壁」の減税額はわずかに

国民民主党が主張した「103万円の壁」の問題、最終決着は来年に持ち越されました。ただ、自民・公明の与党は国民民主党を押し切る形で123万円に引き上げることを決め、予算案を編成しました。基礎控除と給与所得控除をそれぞれ10万円引き上げて、壁を103万円から123万円に引き上げるとしています。

このうち給与所得控除については、年収によって控除の限度額が決まっているので、今回の引き上げの恩恵を受けるのは、年収190万円までの人だけです。それ以外の人には影響しません。

基礎控除の10万円引き上げは、年間の課税所得が2350万円未満の人にはすべて減税になりますが、減税額は課税所得額が330万円未満の人年間1万円、695万円未満で2万円、高所得層の1800円以上2350万円未満の人でも4万円となっており、国民民主党の当初の主張である「すべて基礎控除で178万円まで引き上げ」という案に比べれば、減税額はかなり小さくなりました。

しかも、2025年の年末調整で対応するということなので、12月まで税金が戻ることはなく、景気刺激効果はあまり期待できないと言って良いでしょう。家計支援、景気下支えのための減税であれば、もっと早くやった方が良いのですが、そもそも「壁引き上げ」という言葉が、就業促進のためなのか、物価調整なのか、景気対策なのか、目的の曖昧さを残していたため、詰めた議論に至らなかったと言えるでしょう。

税収は過去最高の74.4兆円見込む

政府案による「103万円の壁」の減税規模(税収の穴)は、総額7000億円で、今のところ、財源は明示されていません。ただ、来年度予算案では税収が過去最高の78兆4400億円と見込まれており、7000億円であれば、税収の大幅増加によって吸収できるという計算なのでしょう。

名目の賃金、物価の上昇で、所得税も、法人税も、消費税も軒並み上振れ、今年度当初予算に比べて8.8兆円、補正後と比べても4兆円も税収が増えるというのに、インフレ課税に苦しむ家計に「還元」するという議論にならない政策決定プロセスは、魔訶不思議です。

来年度予算案の衆議院通過にあたって、2月に大詰めを迎える「103万円の壁」の攻防では、国民民主党が求める上積み額に注目が集まることでしょう。しかし、過去の消費税増税や、今の物価上昇にも関わらず、所得税の改革が長年手つかずになっていることを考えれば、「壁」の話に終わらせず、所得税の税率や刻みなど所得税の抜本的な改革の議論につなげることも重要に思えます。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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