12月29日(日)から兵庫県で開幕した第33回高校女子サッカー選手権。今大会から全都道府県から総勢52チームが集結し、年末年始をまたぐ熱い戦いが繰り広げられている。
石川県代表として出場している日本航空高校石川キャンパスは、創部1年目で全員が1年生のフレッシュなチームだ。新たな歴史を作ろうと全国各地から選手たちが集まり、県予選を31得点、無失点で勝ち上がり、全国大会の切符を手にした。
圧倒的強さを誇った日本航空石川だが、ここまでの道のりは決して順調とは言えなかった。昨年の元日に発生した能登半島地震でキャンパスは被災、大きな被害を受けた。「高校にこのままちゃんと行けるのか不安だった」「高校生活は大丈夫なのかな」先が見えなかった当時を、選手たちはこのように振り返っている。
生徒たちの高校生活を守るため、学校は東京都青梅市の大学跡地に一時移転。選手たちは全員、仮設の女子寮で暮らすことに。敷地は広く、練習場所は選び放題だったが、あえてテニスコートを活動拠点にした。その理由は「テニスコートの人工芝は短く、ボールが速く転がり、良く跳ねてしまう。技術を磨くには最高に向いている」ため。6面あったテニスコートを学園の協力のもと解体、ネットを支えるポールを切り、穴を埋め、選手たちの練習環境を作り上げた。
工夫はこれだけにとどまらない。基礎練習でビーチサッカーのボールを使うのも後藤剣監督(41)のこだわり。大きさは変わらないが通常のボールより跳ねやすいため、扱うには正確な技術が求められる。「触った瞬間に跳ねちゃうので、最初はイライラするくらい止められなかった。しかしビーチサッカーボールで止められるようになったときに、普通のボールを蹴ると高確率で止められるようになっていた」と、キャプテンの山口彩芭もこの練習に太鼓判を押す。
「たくさんの方々の支えがあったから、震災からまだ1年も経っていないのにこの環境を準備して頂けた。少しでも勝利に貢献できるようなプレーがしたい」と山口。テニスコートでビーチサッカーのボールを使うなど、工夫して磨いたテクニックを武器に、日本航空石川は、創部1年目で全国の舞台に挑んだ。
1回戦の相手は岩手県の専大北上高校。2大会連続8回目の出場となる強豪に対し、日本航空石川は、初の全国の舞台で固さが出たのか、前半だけで3点を失う苦しい展開に。しかし、後半に入ると気持ちを切り替えアグレッシブに攻め、18分には高い位置でボールを奪うことに成功。柚村友彩が抜け出すと、ペナルティエリア外から右足を思い切り良く振り抜き、ゴール左上に突き刺した。1点を返し追い上げムードとなったが、前半の3失点が響き敗戦。1年生だけで臨んだ日本航空石川の挑戦は、1回戦で幕を閉じた。
「1年生だけの新チームだったが、どうしても勝たせてあげたかった」と悔しさをにじませた後藤監督。「日本一を目指しているので、1点を取れたことが次のステップに来ているととらえているので、次はもっと勝ちにこだわって準備をしていきたい」と気持ちを切り替え、2年生で迎える全国の舞台を見据えた。
「全国のレベルを思い知った。普段からいろいろと支えてもらっている中で勝利という形で返せなかったのが悔しい。この悔しさはこの大会でしか晴らせないので、下を向いている時間はない。後半のプレーで出せたものを普段の練習から出して、それ以上のプレーができるように準備したい」と、山口主将も既に前を向いている。
復興が進む地元と共に、日本航空石川は新たな歴史の第一歩を踏み出した。