日本製鉄によるUSスチールの買収をめぐって新たな展開です。「日本は悪だ」「この身の程知らずが」アメリカの鉄鋼大手トップから飛び出た“暴言”、一体なぜ?
【写真を見る】“暴言”をはいたアメリカの鉄鋼大手のローレンコ・ゴンカルベスCEO
「日本は悪」「寄生虫」米企業トップ“暴言”
クリーブランド・クリフス ローレンコ・ゴンカルベスCEO
「日本は悪だ。寄生虫め。日本よ、気づけ!」
国旗を掴み、声高に日本を非難したのは、アメリカの鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」のCEO。日本製鉄が買収を目指しているUSスチールをクリフス社が買収する計画だと報じられています。
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「我々にはアメリカ流の解決策がある。アメリカがUSスチールを救うのだ」
買収をめぐっては、2023年に日本製鉄とUSスチールが合意。その際、クリフス社は競り負けていました。しかし、2025年1月になってバイデン大統領が国家安全保障上の懸念から買収の禁止命令を発表。これに対し、日本製鉄とUSスチールがバイデン大統領などを提訴する事態になっています。
クリフス社のゴンカルベスCEOは、当初、USスチールを1株54ドルで買収する案を提示していたといいます。しかし、日本製鉄がそれを上回る額を提示したことについて、こんな持論を…
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「(日本製鉄が当初)我々の提示額より低かったことは確かだ。奇跡的に彼らは55ドルに達した。何かおかしいと思わないか?」
そして恨み節は、徐々に“日本バッシング”に…
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「中国は悪だ。最悪だ。だが日本はもっとひどい。日本は中国にダンピング(=不当廉売)や過剰生産の方法を教えた」
現在、世界の鉄鋼メーカー上位10社のうち、6社を中国企業が占めていて、その原因が日本にあると主張したのです。さらに、太平洋戦争での日本の敗戦を念頭に激しく非難を続けます。
提訴は「大歓迎だね」 USスチール買収に意欲
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「日本よ、気づけ!この身の程知らずが!1945年から何も学んでいない。アメリカがどれだけ偉大かということを。我々はアメリカ合衆国だ。外部の誰かに支配されることはない」
また、ゴンカルベスCEOは「買収計画を阻止しようとした」として日本製鉄などから提訴されていますが、これに対しても堂々と…
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「大歓迎だね。こんな状況を喜べるのは俺とトランプ次期大統領ぐらいだろうな」
その上で、日本製鉄の橋本会長に対して…
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「日本製鉄CEOの橋本英二、 俺のことを“悪党”呼ばわりしやがって。証明できなかったら個人的に追っかけて、全財産、家も、車も、 飼い犬だって奪ってやる」
アメリカメディアによると、クリフス社は別の鉄鋼メーカーと協力して、再びUSスチールを買収する計画があるということです。ただ、クリフス社はUSスチール株を1株あたり30ドル台後半で買い取る計画だとされていて、日本製鉄による買収計画を大幅に下回る見通しです。
クリーブランド・クリフス ゴンカルベスCEO
「寄生虫め!我々はアメリカ人だ。我々はアメリカ人を愛し、アメリカを愛している」
“激しい日本批判”と、“アメリカ・ファースト”発言。その真意は…
日本製鉄のライバル米企業「1945年から学んでいない」“暴言”なぜ?
藤森祥平キャスター:
突然一方的に言われて不快な気持ちでしかありませんが、日本に対してなぜこのように吠えているのかおさらいします。
日本製鉄とUSスチールは、買収について“相思相愛”の合意をしています。ここに現れたのがクリーブランド・クリフス社で、一度USスチールには振られています。言ってみれば、地元の幼馴染が恋敵に対して一言物申したくなったという形です。
日本製鉄に対して「全財産を奪ってやる。家も車も犬まで奪ってやる」というような悪口を言っている状況です。この発言に対し、日本製鉄は「ゴンカルベス氏は偏った固定観念に固執し続けている」、USスチール側も「ゴンカルベス氏の言葉による攻撃に非常に失望している」とコメントを出しています。
小川彩佳キャスター:
一方、日本政府はどう対応しているのかと言うと、林官房長官は「個別企業の経営者の発言についてコメントしない」と会見で発言しました。ノーコメント、これでいいのかという思いも湧き上がってきます。
スポーツ心理学者(博士) 田中ウルヴェ京 准教授:
これだけ感情的に、どちらかと言えば扇動主義のような発言をされると、感情で返してはいけないというのはもちろんセオリーとしてあると思っています。
ここですごく気になるところは、意図は何かってことですよね。このCEOの意図は何か。それが例えば自社の優位性を示したいのであれば、それこそ感情じゃないですよね。なぜうちの企業の方がいいのかを論理的に論じればいい。でもそれではなさそうだ。政治的な側面なのかと言うと、政治的な側面で影響って言ったら安全保障。安全保障なのだとしたら、もっと敏感な話になり、それこそしっかり論じなければいけない話。意図が何なのかということはしっかり見ていきたいなと思いました。
小川キャスター:
発言の真意、意図はどこにあるのか。そもそもクリーブランド・クリフスのゴンカルベス氏はどんな人物なのかと言いますと、実はブラジル出身です。会見では「1998年の1月13日、私は妻と3人の子どもと13個のバッグと5万9650ドルしか持たずにこの国に来た」という発言もありました。そこから鉄鋼大手のトップに上り詰めたというわけです。
ここでワシントン支局の涌井さんに聞きます。このブラジル出身の経営者が愛国心を煽るような発言をしました。これはどういうことなのでしょうか?
ワシントン支局 涌井文昌 記者:
今ご紹介があった通り、ゴンカルベスCEOはブラジル出身ではありますが、アメリカの鉄鋼業界で大成功した、いわば“アメリカンドリーム”を掴んだ存在であります。その立場から、アメリカ人の愛国心とか外国資本である日本製鉄の買収に感じている不安感、ここに訴えているのではないかという印象を受けました。
計画の内容自体は日本製鉄が提案している内容に比べて、今報道されているクリフス社の案は見劣りしています。ですので理屈ではなく、感情に訴えるという戦略をとっているのではないかという印象を受けています。
小川キャスター:
戦略的に、感情に訴えているというそういった読みですけれども。
スポーツ心理学者(博士) 田中ウルヴェ京 准教授:
感情的、つまりは根拠がなかったとしても扇動主義的な愛国心というような言葉を使うのは、レトリックですよね。でもレトリック、つまり何かを説得するのであれば、それこそ感情の中の背景にちゃんとロジックがなくてはいけないのに、ロジックはどこなんですかって言うと、おそらくあまりそこには見えてきている部分がない。一番大事な本質が見えなくなっちゃいますよね。
例えばこういう鉄鋼業ってとても難しい大事なところで、インフラの基盤だとかあるいは軍需産業だとかに発展していくような基盤を作っていくものですよね。そしたらもっと環境に負担が行かないようにするにはどうしたらいいかとか、地球規模で本来解決しなきゃいけないことがあるはずなのに、そういうところがどんどん見えなくなってしまうってことはもったいないなと思います。
トランプ政権でどうなる?
小川キャスター:
そしてますます見えないというのがまもなくトランプ政権となるわけですけれども、今後どんな展開が予想されますか。
ワシントン支局 涌井 記者:
トランプ氏自身は、やはり自分がどちらに動いたら得かということで判断する人ですので、今後もそういう方針で動くのではないかと思います。
アメリカファーストという観点で見ますと、国内の雇用が増えるということはプラスですので、日本製鉄の案の方がそれに資するというふうに判断すれば、これまでトランプ氏の買収に否定的だったわけですが、手のひらを返すということもありうるのではないかと思います。
一方で、やはりその国内企業であるクリーブランド・クリフス社の買収の方が世論を受けがいい、自分の支持者も支持をしてくれるというふうに感じれば、何も動かなければバイデン政権の禁止命令がそのまま有効になる可能性もありますので動かない。あるいはクリフス社の有利になるような動きを取るということもあるのではないかと思います。
小川キャスター:
いずれにしてもこうしたトランプ氏的なといいますか、感情的な発信が是とされる空気が広がっているというのが、ちょっと恐ろしさも感じますね。
藤森キャスター:
日本としてもメッセージを発信しないということが、メッセージになってしまうのもどうかなと思いますね。
USスチールの買収』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『USスチールの買収』について「みんなの声」を募集しました。
Q.米鉄鋼会社CEOの発言どう思う?
「不適切な発言だ」…54.1%
「経済問題と国家安全保障を混同」…21.7%
「ビジネス戦略」…17.5%
「安全保障への正当な懸念」…1.2%
「米産業を守る正当な主張」…2.5%
「その他・わからない」…3.0%
※1月14日午後11時10分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません