“DEI後退”アメリカ・トランプ政権を起点に企業や世界的な広がりも 日本は「さらに憂慮すべき状況」【風をよむ・サンデーモーニング】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-03-16 16:22

トランプ政権が次々に押し進める、大きな方針転換。それがさまざまな変化をアメリカ社会にもたらしています。そのひとつとして、あの有名なスローガンが街から撤去されました。

【写真で見る】「黒人の命は大切だ」の文字を撤去する工事の様子

地面に描かれた「ブラック・ライブズ・マター」の文字が撤去

3月10(月)、アメリカ・ワシントン。ホワイトハウスの目と鼻の先の通りで、工事が突然始まりました。

通りの名前は「ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大切だ」。地面に描かれたその文字が撤去されることとなったのです。

街の人
「この国で人権、公民権、移民の権利が前進するのを見てきた。今、それが後退しつつある」

5年前の2020年…

ジョージ・フロイドさん(2020年)
「息ができない…」

黒人男性が白人警察官に押さえつけられ死亡した事件をきっかけに、全米で抗議デモが広がり、この「ブラック・ライブズ・マター」というスローガンは運動の象徴となりました。

トランプ政権が掲げた「DEI」の撤廃

今回、それが撤去される背景には、トランプ政権が掲げた大きな方針転換がありました。それは「DEI」の撤廃です。

DEIとは「Diversity=多様性」「Equity=公平性」「Inclusion=包摂性」の頭文字を取った言葉で、性別や人種などの多様性を尊重し、公平性に配慮した社会を目指す動きを指します。

トランプ大統領は就任早々、その方針に異を唱えました。

トランプ大統領(1月・大統領就任式)
「性別は男性と女性の二つだけであることが、米国政府の公式方針となります」

まず“性別は男女だけ”として、性的少数者の存在を否定。

また、1月にワシントン近郊で起きた旅客機と軍のヘリコプターとの衝突事故では、バイデン政権が進めた障害者や有色人種など、多様な背景を持つ人々の採用を増やした措置に問題があったと主張します。

記者(1月30日)
「事故は多様性を重視した結果 起きたと考えるか?」

トランプ大統領
その可能性はある

マクドナル・メタ・ウォルマートなどもトランプ政権の方針に呼応

さらにトランプ政権は「多様性を過度に重視した」などとして、沿岸警備隊初の女性司令官を解任。

続いて、黒人の米軍制服組トップや、女性の海軍制服組トップを解任します。

そして3月4日の施政方針演説で、改めてDEIの否定を明言したのです。

トランプ氏(4日・施政方針演説)
「我々は連邦政府全体、そして民間企業や軍隊に至るまで、いわゆる多様性、公平性、包摂性政策による専制政治に終止符を打った」

このトランプ政権の方針に呼応する動きが、企業にも広がっています

アメリカ・マクドナルドは、経営幹部の構成に多様性を求める目標を撤廃。

メタやウォルマートなども、DEIに関する取り組みを廃止・縮小するとしています。

こうした現状に危機感が高まるなか、3月8日の「国際女性デー」では、多くの人が声をあげました。

街の人
女性の権利だけでなく、恵まれない人々、黒人やLGBTQの家族も攻撃されている

実はこの日、アメリカだけでなく世界各地でデモが行われました。背景には、“反DEI”ともとれる動きの世界的な広がりがありました。

日本におけるDEIは? 専門家「女の人すら活躍できない社会においては…」

今、世界各国で懸念される“反DEI”とも受け取れる動き。

イタリアでは、メローニ首相が“反LGBTQ”的発言を繰り返し、カップルが代理母を通じて子どもを持つことを制限。LGBTQの人々を標的にしたものだと批判されました。

また、ドイツでは、2月の連邦議会選挙で躍進した極右の「AfD」が多様性重視の政策を拒絶。同性カップルの権利の制限や、トランスジェンダーを支援する措置などの禁止を提唱してきました。

さらに多くの国で女性の権利が危機にさらされ、DEIに逆行するような状況が続くなか、国連のグテーレス事務総長は、危機感を持ってこう呼びかけたのです。

国連・グテーレス事務総長(3月7日)
「愛国主義と女性蔑視が主流になろうとしている。進歩が逆戻りするのを黙認するわけにはいかない。私たちは反撃しなければならない」

アメリカを起点に、世界的に後退が危惧されるDEI。その背景を、ジェンダー法に詳しい谷口真由美さんは次のように解説します。

ビジネスと人権研究所 谷口真由美 代表理事
「トランプ氏の支持基盤、いわゆるラストベルトと言われるところの白人男性たちが、DEIが進むことによって自分たちのパイが奪われたというか、割を食っているという意識の中には元々俺らのものだというのがある。自分たちの席を奪ったのはマイノリティの人たちだと。結局弱い者に対するバッシングというのに、何かあったときには矛先が向きやすい

では、こうした流れのなかで、日本はどうなのでしょうか。谷口さんは「日本の場合はさらに憂慮すべき状況にある」といいます。

ビジネスと人権研究所 谷口真由美 代表理事
「日本の場合はまだ何も(DEIを)やってないというのが現状。女性活躍推進法というのが今年(25年)に改正される予定。女性役員の数、女性の国会議員の数とか、10年経ってもあまり女性が置かれている立場の数値が変わっていない

数としてはマジョリティ(多数者)である女の人すら活躍できない社会においては、いわんや他のマイノリティ(少数者)はもっと活躍できない。やはり景色を変えていくために今までその場にいなかった人たちを入れるのはDEIの大事なところ」

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