自衛隊に“異色”の新部隊 陸自隊員が船に乗る「海上輸送群」の教育現場に行ってみた

2025年3月24日、自衛隊にとっては19年ぶりとなる大型な組織改編が行われ「統合作戦司令部」が発足した。
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東京・市谷の司令部で陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波などの部隊を約240人で一元的に管理する部隊だ。東京で桜の開花が発表されたこの日、部隊の初代司令官に任命された南雲憲一郎空将は「統合作戦司令部は桜の開花とともに出発し、覚悟を新たに司令部隊員が一丸となって任務に精励してまいります」と決意を語った。
一方、この新たな門出の裏で、新たに発足した部隊がもう一つある。それが「海上輸送群」だ。
主な任務は南西諸島への人員や物資の海上輸送。特に島国である日本では大型の艦艇では小さな島に接岸できないため、島や港湾の規模に応じた島嶼間の輸送を行うことが主な任務になる。有事や自然災害時には離島や被災地への迅速な物資輸送や支援活動のための海上輸送能力が欠かせない。
この部隊が“異色”と呼ばれるにはある理由がある。自衛隊艦艇の“船乗り”の専門教育を行う神奈川の海上自衛隊第2術科学校に行ってみたー。
陸上自衛官が“船乗り”に!?
海上自衛隊の第2術科学校では艦艇のエンジンなどの機関の取り扱いや修理、情報戦への対応、さらには海外での任務のための外国語教育が行われている。私たちが尋ねた日には、船のエンジンの測定試験が行われていた。
試験会場にはひときわ目を引く隊員の姿がー。海上自衛隊の青色ではなく、緑色の迷彩服に身を包んだ隊員が2人。陸上自衛隊の迷彩服だ。
「過去にない新しい職種に挑戦したい」48歳 陸自隊員の新たな挑戦
実は海上輸送群のメインとなる人員は陸上自衛隊だ。陸自では海上輸送群の新編に向け、第2術科学校などの施設で海自隊員とともに生活を送りながら“船乗り”になるための技術を学んでいるという。陸自の隊員が艦艇に乗る部隊はこれまでにない新たな部隊になる。
しかし、共に学ぶと言っても簡単なことではない。その1つが海自と陸自の文化の違いだ。例えば敬礼は、陸自の場合では脇を大きく開いて90度に構える。一方で、海自では狭い船の中で通路を塞がないように脇を締めて構える。また、陸自では数字の「2」を「に」と読むのに対し、海自では「ふた」と読む。陸自の隊員が“船乗り”になれば海自に合わせることになるため文化の違いに戸惑う場面もあるという。
海自第2術科学校で学ぶ藤原靖司陸曹長
「全く今までやってきたこととは全然違う畑のことをやってますので、もう1から覚えることばかりですごく新鮮だなと感じてます」
藤原陸曹長は48歳(※取材当時)。自衛隊歴も30年のベテランだ。第2術科学校では自分の息子と同じ年代の隊員たちと教育を受け、27歳の教官から指導を受けている。なんとも不思議な環境だ。30年以上の陸自経験の中で体に染みついた所作がなかなか抜けずに苦労したともいう。
陸自では野戦特科部隊に所属していた藤原陸曹長。海上輸送群要員の希望調査が行われた時には迷わずに挑戦することを選んだ。
海自第2術科学校で学ぶ藤原靖司陸曹長
「過去にない新しい職域というのにすごい魅力を感じて希望しました。年齢が年齢ですので、もしかしたら希望が通らないんじゃないかなと思ったんですけど、決まった時はうれしかったです。教育や部隊勤務で、知識と技能とシーマンシップを身に付けて海自のセンスを身につけた陸上自衛隊員を目指して頑張っていきたいと思っています」
自衛隊全体の中で海自の人員はわずか2割ほど。長期間、艦艇の中で勤務をする海自隊員は家族や友人ともなかなか連絡をとることもできず、人気も伸び悩んでいるという。一方で、今回、海上輸送群の要員となる陸自隊員は9割が志願者だ。藤原陸曹長も新たな挑戦にやりがいを感じていると繰り返す。
海自第2術科学校の教官・稲垣智哉3等海佐は「海自にはやっぱり陸自の人に負けたくないという気持ちがすごくある。そこを刺激し合って試験や実技でお互いしっかり助け合って、切磋琢磨高め合ってる。とてもいい関係性になっていると思う」と話している。
海上輸送群は広島の呉基地に司令部を置く。部隊は約100人で発足し、陸自隊員がその9割を占めるという。艦艇を運用する共同の部隊は自衛隊ができて以来初めて。将来的には阪神基地にも人員を配置し、約160人規模となる予定だ。
海上輸送群の新編行事は4月6日に広島の呉基地で行われる。
TBS報道局 政治部・防衛省担当 渡部将伍