テレビはもっと“選挙ニュースの空白”を埋めよ~SNS全盛時代のテレビの選挙報道を考える(4)~【調査情報デジタル】

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2025-03-29 07:00
テレビはもっと“選挙ニュースの空白”を埋めよ~SNS全盛時代のテレビの選挙報道を考える(4)~【調査情報デジタル】

選挙報道において、テレビなど既存メディアの存在意義が問われる事例が相次いだ。SNS時代のテレビに求められる選挙報道とは?シリーズ第4回の今回は、法政大学教授でジャーナリストの藤代裕之氏が国内ニュースの「生態系」を踏まえて考える

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2024年は東京都知事選挙、兵庫県知事選挙と、相次ぐ首長選挙で既存メディアの存在意義と信頼性が問われた。世論調査を伝える情勢報道が外れ、SNSの影響力に注目が集まるのは2016年アメリカ大統領選挙を想起させ、「SNS vs 既存メディア」といった構図で捉える報道も相次いだが、個人的には違和感がある。

SNSが影響力を増しているのも、既存メディアの影響力が低下しているのも事実ではあるが、テレビ局には果たすべき役割があるのではないか。

国内のニュース生態系を踏まえる

「SNS vs 既存メディア」という議論から抜け落ちているのは、インターネットにおけるニュースの状況だ。日本ではニュースはSNS・ソーシャルメディアよりも、ポータルサイト経由で触れられていることが多い。

新聞通信調査会の調査によると、インターネットニュースを見る時にアクセスするのは、ポータルサイト(Yahoo!やGoogleなど)が81.8%と突出して多い。SNS(LINE、X、Facebookなど)は34.3%、新聞社・通信社・テレビ放送局の公式サイトは13.8%となっている。18-19歳、20代では、SNSがポータルサイトより若干多い。

ロイタージャーナリズム研究所の「Digital News Report 2024」の調査によると、日本におけるニュースの情報源はオンラインではYahoo!ニュースが突出している。また、ポータルサイトのようなアグリゲーター(各種のコンテンツを集約・整理して、提供する事業者)を情報源にするのは日本が36%に対し、世界平均は8%、ソーシャルメディアは日本が8%、世界平均は29%となっている(注1)。

これらを踏まえれば、選挙に関するメディアの影響を考えるにあたりSNSだけでなく、Yahoo!ニュースなどのポータルサイトの状況は無視できないということになる。

ポータルサイトには、テレビや新聞だけでなく、週刊誌、ネットメディア、個人まで幅広い媒体が記事を配信している。Yahoo!ニュースによると、パートナーであるメディア企業460社、730媒体から、毎日約7,500本もの記事が配信されている(注2)。

多様な媒体だけでなく、週刊誌のスクープ記事から、取材が不十分な「こたつ」記事まで、同列に読者に届けられていることも特徴だ。記事には専門家やユーザーのコメントが付与されたり、SNSに共有されて議論を巻き起こすこともある。

このような複雑なインターネットのニュースの生態系を踏まえ議論する必要があり、「SNS vs既存メディア」と単純化することは問題を見誤りかねない。

選挙で起きた「ニュースの空白」

兵庫県知事選挙時にYahoo!ニュースにどのような記事が配信されているのかを調査した(注3)。選挙関連の記事は、告示日の10月31日から投開票日前日の11月16日に127本あった。最も記事数が多かったのは告示日の18本、次は11月15日の17本、翌16日が15本だった。

キーワードや配信期間の関係で収集できなかった記事があったことに留意する必要があるが、約7,500本の配信数に対し、選挙関連の記事は17日間で127本しかない。

条件が異なるため単純に比較はできないが、能登半島地震に関連する調査では1週間で約1,000本の記事をYahoo!ニュースから収集しており、全国から注目される選挙にもかかわらず記事が非常に少なく、「ニュースの空白」が起きていたといえる。

配信媒体は35あり、前述したように多様な媒体から選挙関連の記事が配信されていた。最も記事数が多かったのは、日本テレビ系列の読売テレビで15本、次に通信社の共同通信とネットメディアのよろず~ニュースがそれぞれ10本と続いた。

テレビ局は、MBSニュースとABCニュースが2本、フジテレビ系列のFNNプライムオンラインの1本は関西テレビによるものであった。読売テレビは出馬した全候補者を取り上げており、その配信も届け出順に1分ごとに行うなど工夫している様子が伺えた。地元メディアとしては、ラジオ関西が4本、丹波新聞が8本、デイリースポーツが3本、神戸新聞が3本だった。

調査ではコメントが多い記事も確認した。コメント欄が盛り上がると上位に表示されるため読者の目に触れやすくなる。コメント数が多い記事は、週刊誌、夕刊紙、ネットメディアにより配信されており、選挙戦の混乱といった騒動を取り上げたものが多く、候補者の公約や実績を紹介したものは少なかった。

ポータルサイトは日本全体のニュースを扱う全国紙やキー局のような存在でもあり、多様な媒体から様々な記事が配信されており、有権者が投票のためにニュースを見ようとしても、参考になる記事に接触することが難しい状況にある。

参考になる選挙報道に接触する困難さ

筆者はこのような選挙時の「ニュースの空白」が、有権者の情報収集に困難を引き起こす要因ではないかと考えている。選挙時に参考になる記事に接触することが難しい状況にあることは、学生からも度々聞いていたからだ。

2024年の東京都知事選挙時に、勤務する法政大学社会学部の受講者に対し簡単な調査を行った。

都知事選についてニュースを自分で探したり、収集したりしたかという質問に対し、「した」49.3%、「していない」50.7%だった。どの媒体から情報収集を行ったのか選択肢を示して複数回答可として尋ねたところ、「した」と回答した105人の中で最も多かったのは、テレビ57.1%、次いでX41.0%、検索39.0%、Yahoo!ニュース31.4%、YouTube30.5%、新聞23.8%、TikTok9.5%、SmartNews8.6%、Instagram2.9%、ラジオ1.0%、その他9.5%であった(LINE NEWSがないのは選択肢に入れ忘れたため)。

このときの都知事選も「SNS選挙」や「TikTok選挙」と言われたが、テレビの存在感が大きいことが分かる。また、新聞は平時に接触を尋ねた際には数名しかいなかったことを考えれば、かなりの接触率の向上となっている。Yahoo!ニュースは思ったよりも多くない。

筆者らによる2018年の沖縄県知事選挙における若者のニュース接触調査においても、Yahoo!ニュースは「普段のニュース」に比べ「選挙に関するニュース」では接触が減少する傾向があった。このときも地方紙は接触頻度が増加していた。選挙のような重要な話題では、学生たちは信頼性が高いテレビや新聞に触れようとする傾向がある。

都知事選時に学生が個別に触れたSNSのアカウントは、小池百合子、石丸伸二、蓮舫、田母神俊雄、桜井誠ら各候補者のものが挙げられていた。また、中田敦彦、古舘伊知郎 、堀江貴文、吉田弘幸、KAZUYA、青ヶ島ちゃんねる、西村ひろゆきの切り抜き動画、などのインフルエンサーらのアカウントもあった。学生が記載したアカウントには重複がほとんどなかった。

学生たちは感覚的に媒体への評価を行い、これらSNSで接触する情報については微妙な距離感を持っている。「YouTubeで候補者の政策や性格を知ることが出来た」という声だけでなく、「Xでは、偏った意見が多かったり、一般人が作った本当か嘘かわからない内容が拡散されていたりしたため、あまり多くの人の情報を知ることはできなかった」という意見があった。

ただ、SNSの信頼は不十分だから既存メディアが信頼できるという話でもない。「テレビでは一部の候補だけを流している」「テレビをつけたときに、毎回同じような人について報道されていることが問題だと思う」との意見もあった。特に、小池、蓮舫の一騎打ちなど情勢報道を元にして一部の候補者を泡沫と扱う報道姿勢には不信感が強かった。

視聴者の困ったに応え空白を埋めよ

これら調査からテレビ局の果たすべき役割が見えてくる。それは「ニュースの空白」を埋めるということだ。

テレビ局からすれば放送に加え、自社サイトやYouTubeなどでも紹介しているから十分との考えもあるだろう。有権者も選挙時にはテレビや新聞を見ようとするが、放送や紙は身近ではなくなりつつあり、前述した新聞通信調査会の調査にあるように日常的に公式サイトから見る人は少ないため、選挙時だけの視聴はハードルが高い。

Yahoo!には参考になるニュースは乏しく、SNSを探せば真偽不明の情報が溢れている。有権者は選挙時に判断するための情報にたどり着くのに大変苦労している。

テレビ局がやるべきは、この困りごとに応え、ポータルサイトも含めてニュースへの接点を増やしていくことだ。ただ、ポータルサイトに配信しても労力に対する配信料はわずかで、同列に並ぶ「こたつ」記事にアクセスを稼がれてしまうとすれば、消極的にならざるを得ない。プラットフォーム企業側も協力していく必要がある。

もうひとつは選挙報道時のニュースの出し方にある。不信感の要因である泡沫候補は扱わないというのは放送では時間が限られているため理由があったが、ネットも使える状況では理由にならない。

情勢報道やメディア側の考えによる争点報道ではなく、有権者の判断に資するニュースを提供する必要がある。公職選挙法や放送法との兼ね合いもあり、選挙報道のあり方は議論していきたい。

SNSを覗けば、「マスゴミ」などの批判的な投稿が目立つ。だが、アテンション・エコノミーにより拡散するSNSにおいて「反既存メディア」の記事は格好のアクセス稼ぎで、それらが広がりがちであることに注意したい。

まだテレビや新聞への信頼は高く、選挙などの重要な際にテレビや新聞に接触しようとするのは有権者の期待の表れだが、期待に応えられなければ離れてしまうことになる。

注1:税所玲子「ロイター・デジタルニュースリポート2024」(2)~プラットフォームの"リセット"は日本でも始まっているのか~、NHK文研ブログ
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/200/671498.html
注2:Yahoo!「2023年のYahoo!ニュース」
https://news.yahoo.co.jp/info/annual-report-2023
注3:藤代裕之「2024 年兵庫県知事選挙における Yahoo!ニュースの分析」、第107回EIP研究発表会

<執筆者略歴>
藤代 裕之(ふじしろ・ひろゆき)
法政大学社会学部メディア社会学科 教授 / ジャーナリスト
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広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。1996年徳島新聞社に入社。社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。2005年goo(NTTレゾナント)。gooラボ、新サービス開発などを担当した。関西大学総合情報学部特任教授(2013-15年)。研究テーマはインターネット時代のニュース。

著書に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『フェイクニュースの生態系』(青弓社)、『地域ではたらく「風の人」という選択』(ハーベスト出版、第29回地方出版文化功労賞・島根本大賞2016)など。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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