15周年のradiko「目標は月間ユーザー数1000万人」~ラジオ復権のサービスをいかにして育てたのか青木貴博会長に聞く~【調査情報デジタル】

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2025-07-19 08:00
15周年のradiko「目標は月間ユーザー数1000万人」~ラジオ復権のサービスをいかにして育てたのか青木貴博会長に聞く~【調査情報デジタル】

一昔前は窮地に立たされていたラジオだが、15年前に誕生したラジコ(radiko)によって存在感を取り戻しつつある。radiko経営陣が6月に新体制になったのを機に、設立当初に電通から出向して来て以来今日までラジコを育て上げてきた青木貴博会長にメディアコンサルタントの境治氏が話を聞いた。

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ラジオが今熱い!マスメディアの中でも最も元気がなかったはずのラジオが、今は最もホットなメディアになりつつある。その牽引役は、スマホやPCで気軽にラジオが聴けるラジコだ。どこでも聴ける上にタイムフリー機能でいつでも聴ける。有料だがエリアフリー機能で放送エリア外の番組も聴ける。ラジオ受信機を見たことがない若者たちが、ラジコを使って深夜番組を翌日に熱中して聴いている。

そのラジコが2010年にサービスを開始してから、今年で15年。日本のラジオ業界に革命をもたらしたこのサービスは、どのように生まれ、成長し、そして未来に向かうのか。6月に株式会社radikoの社長を退任して会長に就いた青木貴博氏にインタビューした。ラジコを立ち上げから15年間支えてきた青木氏の話は、他のメディアにとっても学びの多い、中身の濃いものだった。

ラジコはなぜ2010年にスタートできたのか

 ラジコの立ち上げは放送コンテンツの配信事業として、世界的にも早かったですね。どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

青木 ラジコを考案したのは元朝日放送技師長であり、現当社最高技術顧問の香取啓志(かんどり・けいし)さんと、元電通で現在関西大学教授の三浦文夫さんです。お二人はラジオ放送のIPサイマル配信の始動とラジコサービスの実用化に貢献したことが評価され、第68回前島密賞を受賞されました。

ラジコを立ち上げる前に、香取さんと三浦さんは、いくつかのラジオ局さんとインターネットでの配信を試みていました。ただ、個別の局でやっても広がりません。業界全体で配信する仕組みについての話し合いが始まりました。

  2008年に大阪のラジオ局によりRADIKOの名称で試験配信が始まっています。なぜ大阪から始まったのですか?

青木 香取さんは大阪の朝日放送、三浦さんも電通関西にいらしたということもありますが、それとは別に、いきなり東京のラジオ局さんが放送コンテンツを通信に載せる準備をするのは難しい部分もあり、じゃあ大阪からやってみようということになりました。

  2010年に東京のラジオ局も加わり、株式会社radikoとして正式にスタートしました。なぜラジオがテレビより先にこうしたサービスを実現できたのでしょうか?

青木 危機感だと思っています。ラジオ広告費の過去最高値は1991年の2406億円でした。それがラジコを始めた2010年には半分近い1299億円になっています。これほど危機感を感じる数字もないでしょう。局の数はほぼ変わっておりませんので、1局あたりの収入は半分になりますからね。

 権利許諾はスムーズに進んだのですか?

青木 大阪で立ち上がった時は、データをやり取りする際のルールを定めた「プロトコル」に、多数の受信者に向けて効率的なデータ配信を可能にする「IPv6マルチキャスト方式」を採用しました。この方式ですと、「放送」の概念と同じになります。そのため、法的に権利許諾の必要がありません。もちろんマナーとして各音楽業界団体や個別権利者などに報告はしました。

一方、東京も含めて正式スタートする時には、より汎用性が高く、1対1の通信が可能になる「IPv4ユニキャスト」を採用しました。インターネット上で聞けるようにしないと意味がないためですが、こちらの方式にすると権利の考え方が変わります。「放送」ではなく「通信」の扱いになり、権利許諾が必要になります。この許諾をいただく作業は、本当に大変でした。

 その権利処理には何年くらいかかったのでしょうか?

青木 大阪でマルチキャストで始まり、ユニキャストに移行するため皆さまにご理解いただくまでに1年以上はかかったと思います。

 音楽関係の権利者の方々も危機感を共有してくれたのでしょうか?

青木 それはあると思います。実感として、音楽関連で言えばJASRAC、Nextone、音事協(日本音楽事業者協会)、音制連(音楽制作者連盟)、日本レコード協会やCPAR(実演家著作隣接権センター)。各団体がラジオをすごく応援してくださっている実感があります。

それぞれの団体の上層部の方々がラジオ世代だったのも大きいでしょう。当時の50代から60代前半ぐらいの世代の皆さんが10代の頃は、ラジオが自分だけのメディアだったと思います。ラジオで育っていらっしゃるので特別な感情がある。こんなところで終わってる場合じゃない、みんなで応援してやろうとの空気はありました。それは大変ありがたかったですね。

 NHKは独自にラジオの配信サービス「らじる★らじる」を持っていますが、2019年からラジコでも聴けるようになりました。NHKが参加した経緯は?

青木 ラジコは民放局で始まったサービスですが、NHKさんにも定期報告に行ってました。同じラジオ業界として、いろんな会話をしてきましたよ。ユーザーの立場で考えれば民放とNHKが入れば、これまでのラジオ受信機と一緒です。その姿を理想に議論をしながら、NHKさんにお入りいただく日が来ました。

 NHKはCMが入らないことが問題にならなかったのですか?

青木 ならないですね。もちろん、ラジコでNHKを聴けばCMは入りません。ただ少し気になるのは、アプリ全体の冒頭の広告はどうなのか。そういったことについて議論はします。我々としてはそれがセールスできないと困ってしまいますからね。

スマホ普及の波に乗ったラジコ

 ラジコ成長の1番の要因は何でしょうか?

青木 2010年は日本のスマホ普及率が4%。ガラケーだらけでした。昨年のスマホ普及率が96%です。この15年で、スマートフォンの普及がここまで広がった。ラジコはその波に乗れたのが大きいですね。アプリをダウンロードさえすればラジオが聞けるデバイスが勝手に広がっていったわけです。世の中の流れに乗っかれたことが大きい。

 2010年の時点でスマホに賭けたのは先見の明がありますね。エリアフリーサービスはどのような経緯で実現したのでしょうか?放送局からの反対も多かったのでは?

青木 放送は長い歴史の中で、エリアを区切ってきました。それを一気に超えようとしても抵抗があるのは当たり前です。突破できたのは、ユーザーの声だと思います。

ラジコがスタートした頃、ユーザーにアンケートを取りました。1回目で7〜8万人もの方々が答えてくれました。その中に、「インターネットの時代にエリアを制限するのはおかしい」とのお言葉を多数いただきまして。そんな声に支えられてエリアフリーが実現できました。

ただ、エリアフリー(月額385円)を無料で提供しなかったことは、今でも良かったと思っています。システムを作り直すには、どうしてもお金がかかるので少しだけいただこうという判断と、無料ユーザーはエリアを超えられないことが放送局さんのお気持ちの整理としても必要でした。有料のユーザー様は思ってた以上に増え続け、2014年からエリアフリーを始めて8年後の2022年に100万人に到達しました。本当に感謝しかないです。

 TVerとラジコの違いをどう捉えていますか?

青木 TVerとラジコは似て非なるものです。ラジコはライブ配信から始まっています。だからラジオそのものなんです。TVerはオンデマンドから始まっています。見れる番組だけ載せてきた。今は一部ライブ配信してますが、全部ではないですね。つまりTVerは“テレビそのもの”ではありません。ラジコは“ラジオそのもの”で、ここに大きな違いがあります。

 ラジコの広告システムはどのような仕組みになっているのでしょうか?

青木 CMの売り方が、放送は“枠販売”ですがradikoは“人販売”なんですよ。どこで聴いていようが、何を聴いていようが、ビールが好きな人を探してビールのCMを聴いてもらいます。いわゆる、ターゲティング広告が打てるのです。技術的にすごくキレイに差し替わるので、ラジオの地上波で流れてるCMなのか、ラジコだけで流れてるのかは、注意して聴いてもわからないと思います。

新社長に初の放送局出身、その狙いは?

 6月に青木さんが会長に就き、TBSラジオ執行役員だった池田卓生新社長が誕生しました。放送局出身の社長はradikoで初めてです。そこにはどのような意味があるのでしょうか?

青木 私は電通から着任しましたが、15年経って放送局中心でradikoを運営する機運が高まったということだと思います。

池田さんは、爆笑問題やバナナマンの番組の初代プロデューサーで制作が長い。その後、経営企画も営業も経験され、いろんな景色でラジオ業界を見てきた方です。これまでの知見を存分に発揮していただければ、今のradikoにプラスしかないと思います。

これからのradikoの社長は業界のリーダーシップも取っていかないといけない。どこに向かっていくべきかを示す強い意思とバイタリティを十分に持つ方なので、大変期待しております。

目指すは月間ユーザー数1000万人、そして2000万人へ

 直近の課題や目標は何でしょうか?

青木 このところの月間のユーザー数が平均850万人ですが、これを1000万人にしようという大変分かりやすい目標があります。コロナ前は750万人でしたが、コロナに入った瞬間に900万人になり1ヶ月で150万増えました。ステイホームで気も滅入った時に、生活時間に馴染める音声コンテンツを見つけていただいたんだろうと思っています。

まず1000万人を目指そう。10年後に2000万人にしよう。それに伴い、広告プロダクトの売上を100億にしてこう。こういう目標にいま、みんな進んでいます。

 会長になられて、今後どのような活動をされるのでしょうか?

青木 会長とはいえちゃんと担当がありまして、ローカルの担当にしてもらいました。

radikoはどうしても中央寄りになってしまいます。東京と大阪の在京在阪13局が始めた株式会社なのでそこに情報が集中しがちです。リモート会議も頻繁にやっていますが、それだけではなかなか全国に浸透しきれないところがあるので、情報差分を埋めたい。radikoが次に進むために、私が自分から各局の社長さんを訪れて、いろんな話をすることは、ここに来て重要になったと考えています。

諦めない気持ちと「絶対ラジコはラジオの未来に必要」の信念

 最後に、困難を乗り越える秘訣はありますか?

青木 人に言えるような解決法があるわけではないですが、あえて言うなら、我々が行きたいゴール決めて、そこにたどり着くまでは絶対諦めない。それしかないかなと思います。そういう人にしか困難は乗り越えられないはずですから。

例えば、先ほどお話しした最初の権利許諾の作業には、教科書がない。ルールもない。なかったルールを音楽や番組出演者、天気予報、交通情報、野球、競馬、競艇まであらゆるところと根気よく相談し整えて、配信できるまでにこぎつけました。尋常ではなかったです。

もう1回やれと言われたら無理ですね。バイタリティがなくなったわけではなく、あの時のあの気持ちはあの時にしか持てない。あの時は絶対ラジコはラジオの未来に必要なんだという信念みたいなものが、私だけでなくチームにありました。そういう気持ちがやっぱり各権利者のみなさんにも伝わったかもしれません。

インタビュー後記…人が何かに取り組むうえで学びの多い話

メディアにおけるイノベーションは様々な分野でいくつも頓挫してきた。radikoが幸運だったのは香取・三浦両氏というビジョナリーがいたこと、強い危機感を業界で共有できたこと、そして青木氏のような胆力ある実務者がいたことだろう。メディア業界に限らずビジネス全般の分野で、それだけでなく人が何かに取り組むうえで、学びの多いお話が聞けたと思う。

使ったことのない方はこの機に、スマホでラジコを聴いてみてほしい。音声コンテンツとはこんなに面白いものかと再発見できると思う。

〈青木 貴博(あおき・たかひろ)氏の略歴〉
1970年 東京都生まれ
1993年 株式会社電通に入社 営業を経験し、その後ラジオ領域の業務に従事
2009年 IPサイマルラジオ協議会発足と同時に運用担当(事務局)
2010年 株式会社radikoの設立と同時に出向
2017年6月同社代表取締役社長就任
2025年6月19日より取締役会長(現職)

〈聞き手の略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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