島根の離島に「若者が移住」ナゼ?小さな町の「誰もが活躍できる」環境とは【Bizスクエア】

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2025-07-23 06:30
島根の離島に「若者が移住」ナゼ?小さな町の「誰もが活躍できる」環境とは【Bizスクエア】

人口約2300人の離島の町、海士町(あまちょう)では画期的な移住支援政策により人口が増加傾向を見せている。人を集めるその魅力とは?

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「人生観が変わった」大人の留学

島根県・島根半島の北に浮かぶ隠岐諸島。住民がいる島は4つあり、そのうちの1つが海士町がある中ノ島(なかのしま)だ。

ブランド牛の隠岐牛が放牧されている自然豊かな島は、鎌倉時代に承久の乱で敗れた後鳥羽上皇が「島流し」された場所として知られ、隠岐諸島全体がユネスコの世界ジオパークにも認定されている。

コンビニエンスストアもファストフード店もない人口約2300人の小さな島だが、至る所で見かけるのが若者の姿。

その多くが、海士町が2020年からスタートした「大人の島留学」という20代の若者を対象とした「就労型お試し移住制度」で島にやってきた。

町のとある場所で、ドライバーやスコップなどを手に“移住者の増加で不足する住宅”を作る仕事をしていた若者たちも「大人の島留学生」だ。

大人の島留学生は、▼3か月から長くて1年間▼町が用意したシェアハウスで生活し“働きながら地域の課題解決”に取り組む。

年間200人以上が海士町に留学し、1割ほどがそのまま島に残るという。

島に来る前は寿司職人だったという瀧さんも島に残っている1人だ。

茨城県から移住・瀧 直人さん(25)
「海士町に来たのは面白そうっていう直感だけ。全く今まで知らなかった人と新しい場所で新しいことをするのも面白そうだった」

瀧さんは2024年、大人の島留学生として島の魅力を伝える広報の仕事をする傍ら、捕っても捨ててしまう「未利用魚」の存在を知り、島留学の仲間とともに未利用魚を無くす事業を立ち上げた。

瀧さん
「全然お金にならなくて失敗しまくりだったけど、それでも周りの方が『ここで諦めるなよ』みたいなことをたくさん言ってくれて2年目も島に残ることを決意した。島では自分の足で道を切り開くみたいな感じで生きることができているので、“人生観が変わった”ような気がする」

若者たちは海士町の祭りなどのイベントにも参加。地元住民も好意的に受け入れ、地域にも活気が戻ってきたという。

「誰もが活躍できる」魅力

実は海士町は、「大人の島留学」を始める前から積極的に移住者を受け入れ、2023年までの20年間で800人以上が移住。「定着率49%」と半分近くが今も島で暮らす。

ふるさと納税事業を運営する第3セクター企業で働く石原さんも2019年に移住してきた。

『AMAホールディングス』取締役 石原紗和子さん(39)
「少数精鋭でいろんなことをたくさんやっている。バッターボックスにすぐ立たなきゃいけないんですよみんな。住民だろうと移住者だろうと関係なく“やってみたい人に挑戦させてみる、預けてみる”という土壌がすごく高い」

2歳の子を持つ石原さんは、海士町では出身地や年齢、性別問わず、“誰もが活躍できる環境”が魅力だという。

石原さん
「結婚とか出産とか自分の女性としての人生とキャリア、これぐらい稼ぎたいというのが、都会だとずっと天秤にかけなきゃいけない。でもこの島に来たら、地域の人に子どもを見てもらったりしながら、仕事と暮らしが両立できている」

「前へ前へ、挑戦し続けよう」という風土

今では多くの移住者であふれる海士町だが、2000年代前半に“人口減少で財政破綻寸前”まで追い込まれた過去がある。

当時の山内道雄町長は、財政再建のため大胆な改革を断行。役場職員の給料をカットし、捻出した資金をもとに細胞を壊さずに地元の海産物などを急速冷凍できる機械を導入。特産品のシロイカや岩ガキをふるさと納税の人気返礼品に育て上げた。

そして当時町役場の課長だった現町長の大江和彦さん(65)は、“改革には若い人材の島への誘致が不可欠”と感じていたという。

『海士町』大江町長
「“若者よそ者バカ者”と言って一時流行ったが、町づくりの起爆剤はやはりどうしても若者が必要だと」

そこで海士町は、2006年に「AMAワゴン」という都市農村交流プロジェクトを開始。職員が運転するマイクロバスに都市部の熱意ある若者を乗せ、島に連れてくるというものだ。

その時の若者たちが中心となり、廃校寸前だった島の唯一の高校の復活をかけた
「高校魅力化プロジェクト」がスタート。全国から生徒を集める「島留学制度」で生徒数はV字回復を達成した。

大江町長
「まず組織風土として若い人たちの発案を管理職も『よしわかった行こう』と、我々特別職と協議して『よし行こう』と。議会に提案するけど議会も行け行けという形なので、“全てが前へ行こう前へ行こう、挑戦をし続けよう”という雰囲気がある」

「町民と対話」で次世代リーダー育成

新しい事に挑戦できる環境に企業も注目し、海士町を舞台にしたユニークな研修プログラムも生まれた。

これまでサントリーやトヨタ自動車といった大手企業の幹部候補生が多数参加している“次世代のリーダーを育成する研修プログラム”「SHIMA-NAGASHI」。

運営しているのは、AMAワゴンプロジェクトがきっかけで移住した阿部裕志さん(46)が起業した『風と土と』だ。

公共事業以外に島に収益をもたらす企業が必要だと感じていた阿部さんは、人材育成分野に着目し事業をスタート。たまたま海士町を訪れた早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さんにプログラムの監修を依頼し、2021年に「SHIMAーNAGASHI」が生まれた。

『早稲田大学ビジネススクール』教授 入山さん:
「海士町の一番の魅力は人。本当に素晴らしい。それからコンビニも何もないから逆に、東京では味わえない創意工夫や関係性が生まれる。若者も頼られて、助けてあげるとすごく喜ばれる。東京だと自分は大きな組織の1人みたいな存在に感じるが、海士町に行くと自分がすごく役に立つんだなというのが実感できる」

2泊3日の研修では、参加者は多くの時間を海士町で挑戦を続ける“島民との対話”に費やす。

入山さん
「結局“自分は何をして生きていきたいのか、自分は何者なのか”ということが一番大切だが、仕事に忙殺されて考える時間がない。だから経営者になっても、自分の意思や言葉がなかったりする。何にもない島で、素朴な島の人と話すことで、自分は結局何を大事にしたいのか何をして生きていきたいのかということを言語化することが非常に重要」

自分の人生で大切にしていることを、“自分自身が腑に落ちる言葉で他人に伝える”ことは、研修の参加者だけでなく島民の成長にもつながっているという。

SHIMA-NAGASHI参加者
「是非体験して欲しい」
「3日間だけでこんなに人と繋がれるって、本当最高だった。海士町めっちゃいい。次は家族と来ます」

「関係人口」が地方創生のカギに

様々な取り組みで全国的に知名度が上がり海士町を訪れる人が増えていく中で、“島に移住しなくても関係を持ち続けていく仕組み”も海士町は生み出している。

2023年に始まったアンバサダー制度は、「海士町の住民ではない人が町のPRをする」というもの。

オフィシャルアンバサダーになるとデジタル名刺がもらえ、スマートフォンで読み込んでもらうと個人情報のほかに、海士町の情報が表示され島の魅力を簡単に伝えることができる。

年会費を支払うことで就任でき、年会費の金額に応じてホテル宿泊券など、海士町に滞在する時に使える特典がついてくる。

京都在住の中村多伽さんは、4月に初めて海士町を訪れその場でアンバサダーになったという。

中村さん
「多くの自治体ではあまり“関係人口”がうまくいってない。だけど海士町はそれが今うまくいっていて、もしかしたら今後の少子高齢化の日本の一番のモデルケースになるかもしれない事が起きているのが面白い」

アンバサダー制度を立ち上げたのは海士町出身の青山達哉さん(30)。「大人の島留学」の創設者でもある青山さんは、島に住まなくても海士町と関わりを持ってくれる「関係人口」をどう増やすか頭を悩ませていた。

『島前ふるさと魅力化財団』事業統括 青山達哉さん
「島留学の卒業生は初年度無料みたいな形にしているので、これから増えてほしい。一般の人には、海士町では色々なプロジェクトが結構動いているので“推しのプロジェクト”を見つけてもらい、少しでも関与が始まっていくとありがたい」

現在300人ほどのアンバサダーを数年後には2000人まで増やす目標を掲げていて、町長もこうした「関係人口」の増加に大きな期待をかけている。

大江町長
「海士町民以外の自治体経営に関わる人口がどれぐらいいるか。いってみれば非常に濃い親戚みたいな人たちをたくさん作ることが、これからの地方創生に求められているのではないか。これからが地方創生2.0で一番大事なとこではないかと思う」

(BS-TBS『Bizスクエア』2025年7月19日放送より)

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