「地球から核廃絶を」広島被爆80年 核兵器めぐる世界の動き、原爆投下にアメリカ世論 年齢が下がるほど「正当でなかった」増加【Nスタ解説】
広島に原爆が投下されてからきょうで80年。広島や長崎の被爆者が、絶えず訴えてきた「二度とこんな思いをさせてはならない」という思いは、どう受け継がれていくのでしょうか?
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被団協がノーベル平和賞受賞も「浮かれては駄目」
高柳光希キャスター:
2025年1月時点の世界の核兵器の保有数について。
【世界の核兵器保有数】広島・へいわ創造機構ひろしまHPより
ロシア:5459
アメリカ:5177
中国:600
フランス:290
イギリス:225
インド:180
パキスタン:170
イスラエル:90
北朝鮮:50
最も多いのはロシアで5459、次いでアメリカが5177となっています。世界全体では1万2241の核兵器があります。そして今も、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界で紛争が起きていて、核兵器が使われかねない緊張状態が続いています。
そうしたなか、2024年に日本被団協がノーベル平和賞を受賞しました。「核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が2度と使用されてはならないことを証言によって示したこと」が評価されました。
中根さんは、核兵器を巡る昨今の世界の動きをどう見ますか。
中根夕希アナウンサー:
2024年、ノーベル平和賞を日本被団協が受賞したときは、広島でも機運がかなり高まり、「これから核兵器廃絶に向けて世界は進んでいくのではないか」と、多くの人が希望を持っていました。
一方で、ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界における核兵器の使用が現実的な危機として、脅威が高まっている中での受賞でしたので、「ノーベル平和賞を受賞するほど、世界で核兵器使用の危機が高まっている。ノーベル平和賞受賞はその裏返しだ」と考える被爆者も多くいました。
中には、「浮かれては駄目だ。これ以上にもっと訴えを強めていかなければならない」という方もいらっしゃいました。
そして被爆80年ではありますが、被爆者は明日、生きているかわからない中で、今も証言活動を続けています。中には、世界に向けて証言をするためにリハビリを頑張る人や、85歳を過ぎてから英語を勉強し、「世界に向けて自分の証言を伝えるんだ」という人もいます。
世界で核の脅威が高まっていることを受け、広島の被爆者はより思いを強めている、そう受け取れます。
「原爆投下は正当だったのか」アメリカの調査では…
高柳キャスター:
広島をはじめ日本国内には、いろんな気持ちを持った人がたくさんいます。一方で、アメリカは、原爆80年についてどう考えているのか。
2025年6月にアメリカの調査機関が「広島・長崎への原爆投下は正当だったのか」調査を行っています。
【広島・長崎への原爆投下は正当だった?】
アメリカの成人が対象
米「ピュー・リサーチ・センター」より
正当だった:35%
正当でなかった:31%
わからない:33%
ただ、年代別に見ていきますと少し違いが見えてきます。
【65歳以上】
正当だった:48%
正当でなかった:20%
【18~29歳】
正当だった:27%
正当でなかった:44%
若い世代では、「正当でなかった」という評価をしている割合が大きいです。
文芸評論家 三宅香帆さん:
「正当だった」と答える人が35%と、日本人から見ると多いと感じてしまいますが、若い世代の意見が変わってきているので、「正当でなかった」と答える全体の割合はどんどん上がってきています。
「核兵器を使った」という歴史は変えられませんが、今の人たちの解釈は変えられる、というのはすごく思いました。
メディアが発信したり、被爆者の方々が発信してくださるおかげで、意見はどんどん変わるということを私達も認識して、「日本の中でも若い世代にどうやって伝えていくのか」、「平和というのは、どうしたら今後も続いていけるのか」ということ、本当に戦争が起きている中で、「核兵器を使わない判断をし続けるにはどうすればいいのか」というのを、自分の発信によって変わるということを思いながら、発信を続けていくことが大事だと思いました。
井上貴博キャスター:
「諦めてはいけない」という点でいうと、6日朝の広島県の湯崎知事と広島市の松井市長の挨拶は、非常に心を動かされるものでした。
「核を持って力の均衡による安全保障」というのはあまりにも危うい。湯崎知事は「自信過剰な指導者の出現、突出したエゴ、高揚した民衆の圧力、あるいは誤解や錯誤により、抑止は破られてきた」と話していて、自分の中でも大切にしたい言葉だと。やはり、発信で変わるというのを諦めてはいけないと思いました。
文芸評論家 三宅香帆さん:
本当に誤解したり、いろんなことをねじ曲げて考えるのは、人間によくあることだと思います。それをいかに「それは違う」ということを言い続けるか、だと思います。
出水麻衣キャスター:
石破総理の挨拶もありましたが、被爆者の方の平均年齢は86歳になっています。今やはり、話を聞いて誤解がないように、彼らの言葉をきちんと解釈して、次の世代に語り継いでいくということが大事だと改めて思いました。
広島の惨状を世界へ 海外向けの原爆ドキュメンタリーを制作
高柳キャスター:
そして中根アナウンサーは、国内外に80年前の広島の惨状を伝えていく、様々な活動を続けています。
中根アナウンサーの祖母が広島で被爆しました。祖母と広島の地を一緒に巡り、被爆体験を聞くドキュメンタリー番組の制作。また、海外に向けた原爆ドキュメンタリーを制作し、英語のナレーションも担当しています。
被爆体験についてのドキュメンタリーを制作した経緯や内容について教えてください。
中根夕希アナウンサー:
これまで家族にも被爆体験を詳しく話してこなかった当時91歳の祖母ですが、「終活の一つとして、被爆体験について手記を書いたんだよ」と教えてくれたことをきっかけに、取材をすることになりました。
私自身、祖母の被爆直後のことや、焼け野原を歩き回り家族を探した、という話を初めて聞いたとき、教科書の中では聞いた話でしたが、祖母から原爆の話を直接聞くことにより、「あの焼け野原の中に祖母がいたのか」と急に身近に感じるようになり、価値観が変わったと思いました。
広島で取材を続ける中で、「被爆者本人の言葉ほど訴える力のあるものはない」と毎年感じています。
被爆80年の2025年、被爆者の平均年齢は86歳を超えました。取材した祖母は97歳になります。今思うと、このときのように広島の街を一緒に歩くことがもうできないと思うと、あのタイミングだったからこそ聞けた話だと感じています。「今、聞くことのできる被爆者の言葉を大事にしなければ」というのを毎年痛感しています。
また、現在の世界情勢を見ていると、「果たしてこの80年間被爆者が訴え続けてきた言葉が、この核兵器の恐ろしさというのが世界にちゃんと伝わっているのだろうか」と感じてしまうところがあり、これまでRCC(中国放送)が取材してきた被爆者の方々の声をまとめ、海外の方に向けた英語のドキュメンタリーを制作しました。
今しか聞くことのできない被爆者の声もある一方、核の脅威が高まっている今だからこそ、記憶が鮮明なときに語ってくれていた、今は亡き被爆者の伝えたい声というのもあります。
このような世界情勢の中で、広島では原爆資料館の来館者数が過去最多を毎年更新するなど、改めて広島でどんな被害があったのか、目を向ける人が増えているように感じています。
ただ、広島に来られない人もいるので、こういったドキュメンタリーを見ることで、海外にいながら原爆の歴史を学んだり、被爆者の声を届けられるものになっていけばいいなと思っています。
どう語り継げばいいのか、次の世代にどう伝えていけばいいのかが課題となる中で、国内のみならず、海外でも核問題への理解が広まっていってほしいと思っています。
井上キャスター:
中根さんが作ったドキュメンタリーは、どこにアクセスすると見られるものなんですか?
中根夕希アナウンサー:
RCCのホームページで見ることができます。「RCC」「英語ドキュメンタリー」と検索していただければ、直接アクセスすることができます。
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<プロフィール>
中根夕希
RCC(中国放送)アナウンサー
広島で被爆した祖母のドキュメンタリーなどを制作
三宅香帆さん
文芸評論家 31歳
著書「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」で「新書大賞2025」受賞