ガザを空から“初取材” 人道支援物資「空中投下」90万人が飢餓でわずかな食料を“奪い合い” …配給所で響く銃声なぜ?物資求める人に発砲【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-08-12 12:55
ガザを空から“初取材” 人道支援物資「空中投下」90万人が飢餓でわずかな食料を“奪い合い” …配給所で響く銃声なぜ?物資求める人に発砲【news23】

止まない戦闘による影響が深刻化しています。パレスチナ自治区ガザでは、子どもたちを含む飢餓が急速に広がっています。イスラエル軍が、トラックによる物資の搬入を制限する中、私たちは日本メディアで初めて空から物資を投下するミッションに同行しました。一方、地上では、わずかな物資を求める人々に向け発砲も起きています。

【写真で見る】裸足の10歳少年「ありがとう」その直後に起きた悲劇

封鎖続くガザ地区 空から見えた破壊と飢餓

中東ヨルダンの空軍基地。駐機している輸送機に、次々と物資が運び込まれていきます。

記者
「奥に待機しているヨルダン軍の輸送機に、食料などが入った人道支援物資が運び込まれていきます」

積み込まれていくのは、深刻な飢餓に苦しむパレスチナ自治区ガザの人たちに届ける支援物資。コメや小麦、乳児用のミルクなどが入った物資に、パラシュートが取り付けられています。

私たちは今回、ヨルダン軍による空中投下の同行取材を、特別に許可されました。

記者
「輸送機の後方のドアが開きました」

見えてきたのは、イスラエルによる封鎖が続くガザの姿です。

記者
「ガザが見えてきました。上空からでも極めて破壊された様子が分かります。このエリアでは町全体がつぶされたかのように、ほとんどすべての建物がぺしゃんこに崩れ落ちています」

カメラが捉えた、ガザ北部の様子。イスラエルが外国メディアのガザ入りを厳しく制限するなか、その様子を上空から取材するのは、日本メディアとしては初めてです。

イスラエル軍によるガザ侵攻前の様子と比べると、あらゆる建物が崩され、輪郭を失った町並み。舗装されていたアスファルトの道路も消え、町全体が、まるで更地のようです。かつての緑もすっかり消え、灰色の瓦礫と茶色く乾いた地面だけの色を失ったガザの姿が目の前にありました。

“食料奪い合い” 投下物資に大勢の人が殺到

ガザ中部へと到達すると…

記者
「ガザへと支援物資が投下されていきます。90万人もの人が飢餓の状態にあるガザに対して、住人にとっていま最も必要な食料などが投下されました」

一斉に投下された物資。パラシュートが開き、地上へと降下していきます。

別の日に撮影された地上での様子を見ると、投下された物資に大勢の人が殺到し、奪い合いに。ただ、その中で食料を手にできるのは、ごくわずかの人です。

ガザ住民
「私には9人の子供がいる。午前6時から待っていたのに何も受け取れなかった」

記者
「こうした空中投下は、本来であれば災害現場や人がアクセスすることができない時に用いられる手段ですが、イスラエル軍が大幅に支援の制限をする中、唯一の手段となっているということです」

このフライトで投下した食料はあわせて8トン。200万人以上が住むガザに必要とされる1日2000トンには遠く及ばず、非効率で、またパラシュートが開かずに物資が市民に直撃し死亡するという事故も相次いでいます。

ガザで人道危機が深刻さを増したのは2025年3月。

イスラエルが「人質を解放するようハマスに圧力をかける」と、ガザへの陸路による物資搬入を大幅に制限したことがきっかけです。さらに5月末からは、「ハマスが国連の支援物資を横取りしている」などとして、ガザ内での食料配給を、イスラエルとアメリカが主導する「GHF=ガザ人道財団」が担うようになりました。しかし…

ガザ配給所で相次ぐ“発砲” 元担当者が実態証言

これはJNNが独自に入手したGHFの配給所で撮影された映像。食料を求めて殺到する住民の背後で、銃声が響いています。

さらに別の動画には…
「いまの誰かに命中したと思うぞ!」
「よっしゃ!やったぜ、お前ら! 」

GHFの配給所付近では、イスラエル兵や、警備担当の元アメリカ兵らによる住民への攻撃が相次いで報告され、国連は859人のガザ住民が殺害されたと発表。一方、イスラエルやGHF側は、「でっちあげだ」などとこれを全面的に否定しています。

支援の現場でいったい何が起きていたのか。

私たちは今回、GHFの配給所で警備を担っていた男性、アンソニー・アギラーさんに接触することができました。2025年3月まで、アメリカ陸軍屈指の精鋭部隊「グリーンベレー」に所属していました。

元GHF警備担当 アンソニー・アギラー さん   
「誰もが想像する以上に状況が深刻であることを、世界に向けて証言するためにここに来た。これはこれまでの人生・軍人生活で見てきた中で最も悲惨で非人道的な光景です」

5月に、GHFの配給支援に加わるためガザに入ったアギラーさん。最初に違和感を覚えたのは、配給所の立地だったと話します。

アンソニー・アギラー さん 
「配給場所は、ガザ中部から住人を追い出すため意図的に選ばれた」
「食料や医薬品を使って『安全が欲しかったらこっちへ来なさい』と言いながら住民を追放するのです。このような住民追放は戦争犯罪です」

それまで国連が担っていた配給所はガザ全土で400か所ほど。GHFに代わってからはわずか4か所に限定されました。

アンソニー・アギラーさん
「現場では積み上げられた支援物資を掴むために、誰もがただひたすらに争うのです。まさに混沌と化します」
「女性や子供、障害者など、最も弱い立場の人々は何も手にできません」

さらに、イスラエル兵らは物資がなくなると、住民を追い返すために発砲を繰り返していたと言います。

記者
「率直に聞きます。イスラエル兵や元米兵が市民に向けて発砲する様子を見ましたか?」

アンソニー・アギラーさん
「何度も見ました。毎日です」
「イスラエル軍は、彼らを移動させるための銃撃を“コミュニケーション”と呼んでいた」

イスラエル軍やGHFは、「空に向けた警告射撃しか行っていない」と主張する一方、「群衆に向けて発砲していた」と証言。

アギラーさんには、ある忘れられない光景があります。GHFの配給所を訪れた、アミールという少年との出会いです。

裸足の10歳少年「ありがとう」 その直後に起きた悲劇

アンソニー・アギラーさん
「彼は10歳でした。両親も兄弟も一緒ではなく、たった一人で来ていました」
「彼は家からこの場所まで8キロも歩いて来ました。靴も履いておらず、水も持たず、ズボンも紐で腰にくくりつけられていました」

地面に落ちていた物資を手にしたアミール君は、アギラーさんに気が付き、近寄っていきました。

アンソニー・アギラーさん
「怪我をしているのかもしれない、両親を捜しているのかもしれない、もっと食べ物が欲しいのかもしれないと思いました。すると彼は手を差し出し私の仲間の手を握り、それから私の手を握りました。そして私たちの手にキスをして、額に当てました」

「彼は何かを求めるわけでも、不満を言うわけでもありませんでした」

「彼の手はただの骨と皮だけでした。爪は飢餓のため完全に乾燥し、脆く割れていました。体は崩れ落ちそうなほどでした。栄養失調で目の下にはくまができていて、脱水症状で皮膚が黒くなっているのが分かりました」

「彼は私を見て手を伸ばし、鼻を近づけ、額にキスをしました。そして私を見て英語でこう言ったのです、『ありがとう』と。その後、持っていた米の袋と豆をいくつか拾い上げ、群衆の中へと歩いて戻りました」

「そして彼が群衆と共に去った時、イスラエル軍は、その方角に向けて発砲していました」

「撃たれて地面に倒れた人たちがいました。アミールもその一人でした。10歳の少年が、イスラエル軍の機関銃から銃弾を受けたのです。アミールは地面に倒れ込み、動かなくなっていました。現場ではそれが“普通”のことでした」

GHFは、アギラーさんの証言について「虚偽を広める行為だ」とする反論声明を発表。私たちはGHFに取材を申し込みましたが、回答はありませんでした。

アギラーさんは、このままイスラエルとGHF主体の人道支援が続けば、ガザ住民のさらなる犠牲が増えると強い危機感を示しています。

アンソニー・アギラーさん
「もしそうなったとしても、誰も『知らなかった』と言い訳することはできません。私たちはすでに『知っている』のです。今この時に行動を起こして防がなければ、その命の責任は、ただ傍観しているだけだった私たち全員が負うことになるのです」

物資求める人に“発砲” 飢餓のガザ

小川彩佳キャスター:
「知らなかったではなく、私たちは既に知っている」というのは、胸に突き刺さってくる言葉です。

斎藤幸平さん:
もう言葉がないですよね。人道支援のために来た飢えている丸腰の民衆に対して、銃を向けるという。彼らはハマスなのでしょうか。イスラエル軍はそう言うかもしれませんが、どう考えても子どもは違うし、子どもたちを飢餓状態に追い込んで非人道的なことを2年ぐらい続けている。これはジェノサイドだと言ってしまって良いと思います。

これに対して、もっと制裁をしなければいけないし、パレスチナの国家承認もしなければいけないところにきているにも関わらず、なかなか進まず、制裁は全然行われていません。2年も経っているのに何もできないことに対しての無力感、憤りをすごく感じます。

小川彩佳キャスター:
戦後80年ということで日本では「2度と繰り返さない」という誓いを立てている中で、これが現在進行形で起きている戦地の姿ですね。

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〈プロフィール〉
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
著書『人新世の「資本論」』

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