“猛暑インフレ”で家計の負担 年間10万円増!?さらに最悪のシナリオも… 教育経済学・中室氏「暑さは認知的な能力に影響を与える」【Nスタ解説】
猛暑によって生育が上手くいかず、野菜や肉などの値段が上がる「猛暑インフレ」が発生。家計の負担は年間で10万円を超えるとの試算も出ています。
【画像で見る】「キュウリだったんですけどね…」原形ないほど干からびた野菜
“コメ粒が濁る”?猛暑の影響あちこちに
高柳光希キャスター:
円安や原油高以外に、「猛暑」によるインフレも影響として表れ始めています。
スーパーなどで買い物をしていて、「高いな」と思うことがありますが、何が原因で高くなっているのかわからなくなっている方もいらっしゃるかと思います。
例えば、東京都中央卸売市場の卸売価格を見てみると、▼今が旬のトマトやピーマンは、猛暑によって8月上旬の価格が平年より3割〜4割上昇しています。▼さらに豚肉(極上・上規格)は、7月に史上最高値を更新しました。▼たまごも、8月の平均価格が2024年と比べて約4割上がっています。
さらに、昨今注目されているコメにも影響が出ています。
TBS報道局経済部 髙見知可記者:
現在のコメの価格高騰を招いたのも、2023年の猛暑が原因です。茨城のコメ農家「照沼農園」では、高温に強い「にじのきらめき」という品種を育てていましたが、暑さの影響で2024年頃から収穫後にコメ粒が白く濁ってしまうということです。暑さに強いとされている稲の品種でも、負けるほどの暑さというのが現状のようです。
高柳キャスター:
日本国内に目が行きがちですが、暑さの影響は世界的にも出ています。
【猛暑インフレ世界でも】2024年の取引価格(前年比)
▼干ばつで…ヨーロッパ産オリーブオイル:50%UP
▼熱波で…アフリカ産カカオ:280%UP
▼干ばつで…ブラジル産コーヒー(アラビカ種):55%UP
出典:Maximilian Kotz
猛暑で家計負担増か 考えられる3つのシナリオとは
高柳キャスター:
猛暑が家計にどのくらい影響を与えるのか。第一生命経済研究所は、猛暑によるインフレの影響について7月に3つのシナリオを試算しました。
【猛暑インフレによる影響】(4人家族の月平均)
※第一生命経済研究所 柏村祐 主席研究員によると
▼価格高騰シナリオ
・記録的な猛暑
・干ばつや局地的豪雨が頻発
・野菜・コメが全国的に不作
・価格が急騰
▼標準シナリオ
・全国的な猛暑
・大規模な天候不順は限定的
・野菜価格全体で高止まり傾向
▼安定シナリオ
・気温は高め
・天候は比較的安定
・農作物の生育が順調
髙見記者:
7月に発表された段階では、半分以上の確率で「標準シナリオ」になるのではないかと試算されていました。
「標準シナリオ」では、4人家族の月平均で食費は3000円〜5000円程度、電気・ガス代は2000円〜4000円程度増加し、年間支出は最大10万円超増えるのではないかという試算です。
井上貴博キャスター:
天候相手だと不確実要素が多いと思いますが、その中で政府・日銀ができることを含めてどのようなことを感じますか。
慶應義塾大学教授・教育経済学者 中室牧子さん:
気温が上昇することで、農作物の収穫量が減るということと、輸出が減ることで、経済成長にマイナスの影響があることは既に明らかになっています。
非常に保守的な推計でも、▼現在のような温暖化の影響で、今世紀末には農作物の収穫量が、約30%減少すると予測する推計があったり、▼1℃の気温上昇で、経済成長率が約2ポイント減少すると予測する研究もあります。
人口は増加していきますから、温暖化の時代に食糧需給の問題についてしっかりと考えていかなければならないと思います。
井上キャスター:
日本の人口は減少していくと予測されており、地球温暖化は止められません。その中で何ができるのでしょうか。
中室牧子さん:
暑さに強い品種の改良を進めたり、農業をより大規模化していくなどの政策が必要になってくると思います。
年間支出30万円負担増の可能性も 我々ができる防衛策は?
高柳キャスター:
3つのシナリオが発表された7月から1か月半が経ち、現在の試算はどのようになっているのでしょうか。
髙見記者:
柏村首席研究員によりますと、「前例のない猛暑の状態なので、ほぼ『価格高騰シナリオ』が濃厚」ということです。新潟での干ばつや、九州の豪雨というのも記憶に新しく、価格高騰のシナリオに近づきつつあるのではないかということです。
高柳キャスター:
では猛暑による負担増で、この先どのように変わっていくのでしょうか。
まずは先ほどの「標準シナリオ」では、食費が最大で5000円、電気・ガス代は最大で4000円上がるという試算が出ています。
さらに5月頃からエアコンを使ったり、暑くなってくるとやはり冷たい飲み物やアイスなどが非常に欲しくなる。こういったところにも影響が出ますね。
髙見記者:
さらなる食品の値上げに加えて、夏は暑さから増える支出もあります。これだけ暑さが続くと、悲観的なシナリオ(価格高騰シナリオ)の方に行ってしまいそうな状況です。
「価格高騰シナリオ」では、例えば野菜がかなり採れなくなって供給量が落ちてしまう。コメの価格が大きく跳ね上がる。電気代も大幅に上がる。そういう状況を踏まえると、最悪の場合、4人家族の年間支出が、最大30万円ほど増えるのではないか、という試算も出ています。
出水麻衣キャスター:
では賃金が年間30万円上がるかというと、そうもいかないですよね。私達が取りうる防衛策は何かあるのでしょうか。
中室牧子さん:
すごく難しいですね。今ここでは暑さが家計に与える影響だけが出ていますが、最近の経済学の研究では、気温上昇の社会的な影響や、人々の行動に与える影響もいろいろ研究されています。例えば学力が下がる、紛争が起きやすくなる、自殺が生じやすくなるなどです。
暑さは認知能力に影響を与えるため、判断力を鈍らせるのではないか、と言われています。そのため、確かに家計への影響は心配ですが、エアコンをつけないでいると、(暑さが)私達の認知的な能力に影響を与えて、ますます悪い影響が出てしまうことにもなりかねません。やはり体を大切にすることが大事だと思います。
井上キャスター:
暑くなりすぎると消費行動が鈍化するという一面もあると思いますが、それ以上に物の価格が上がるということなのでしょうか。
中室牧子さん:
今はそういう面も大きいかもしれませんね。
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<プロフィール>
中室牧子さん
慶應義塾大学教授 教育経済学者
教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
髙見知可
TBS報道局 経済部
農水・流通など担当
馬術部時代の愛馬はGIで2着2回