綾瀬はるかがアメリカで見た…原爆開発になぜ命救う産婦人科医が? 戦争が引き裂いた“絆”に綾瀬は【戦後80年】

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2025-08-16 06:35
綾瀬はるかがアメリカで見た…原爆開発になぜ命救う産婦人科医が? 戦争が引き裂いた“絆”に綾瀬は【戦後80年】

広島県出身の俳優・綾瀬はるかさん。これまで、TBSテレビ『news23』などで、約20年にわたって戦争に関する取材を続けてきました。
戦後80年のこの夏は、アメリカへ。原爆開発計画の拠点となった街で、計画に関わった一人の医師の足跡を辿りました。人を救うはずの医師が、いったいなぜ…
綾瀬はるかさんの語りで伝えます。

【写真で見る】「日系人は馬小屋に・・・」戦争が引き裂いた“絆”

無視された医師の警告…原爆開発の裏にあった思惑

原子爆弾が生み出した町と人の姿が、そこにありました。
何度見ても身がすくんでしまいます。原爆の現実を伝える写真展で、私、綾瀬はるかは一人のアメリカ人大学教授と会いました。

教授の名前は、ジェームズ・ノーラン・ジュニアさん。
祖父は、産婦人科医でした。そして、同時に、原爆開発の関係者でもあったのです。

命を救う医師が何故、原爆開発に加わったのか…、私は原爆開発の拠点だった町に向かいました。

アメリカ・ロスアラモス。
この町で作られた爆弾で世界初の核実験が行われたのです。

町には原爆のための優秀な頭脳が集まります。
ジェームズ・ノーラン・ジュニアさんの祖父、ジェームズ・フィンドリー・ノーラン医師は、科学者たちの医療を担うために移り住んで来ました。
ノーラン医師は、町に来たときは結婚してからまだ数年で、奥さんは妊娠5か月だったといいます。

そして、ほどなくして女の子が生まれます。
まだ原爆との直接の関わりなどはなく、日本との戦争は始まっていても、ノーラン医師には穏やかな日々が続いていました。

ところが1945年、ノーラン医師は新たな任務を担うことになります。放射線の安全管理者として原爆開発に関わることになったのです。

ノーラン医師は関わるとすぐに原爆実験による放射線の危険性に気づきます。
周辺住民への安全対策が必須であるとの報告書を、陸軍・グローブス少将に提出します。しかし…

綾瀬はるか
「原爆開発中、ノーラン医師らは安全対策などを心配して幹部に懸念を伝えていたというふうにお聞きしたのですが」

ジェームズ・ノーラン・ジュニアさん
「祖父の解釈では、グローブス少将はとにかく原爆を完成させたくて、機密保持が最優先でした。健康や安全は二の次でした。医師達の警告を無視したのです」

そして7月、アメリカは史上初の核実験“トリニティ実験”を成功させます。射線の影響など気にすることもなく…

「日系人は馬小屋に…」戦争が引き裂いた“絆”

ロサンゼルス“リトルトーキョー”。アメリカ最大の日本人街です。100年以上前から多くの日系人が様々な店を営み、賑わいました。

リトルトーキョーの近くに“Jフラット”と呼ばれた地区がありました。Jフラットは、リトルトーキョーで働く日系人が多く住んだ場所でした。
私は、Jフラットで生まれ育ったという女性から話を聞くことができました。

98歳になるバーバラさん。以前、両隣に日系人が住んでいたそうです。

綾瀬はるか
「日系人の方との交流の思い出は?」

バーバラさん
「みんなで庭で遊びました。当時は、まるで家族のような存在でした」

この辺りに住んだのは、日系人のほか黒人や移民たちでした。差別や偏見に満ちた社会の中で自然と絆が生まれたと言います。

しかし、戦争が始まると、日系人だけが別でした。日系人は皆、敵とみなされ「敵性外国人法」という法律によって強制収容所に送られることになったのです。

綾瀬はるか
「近所の日系人は収容所に送られたのですか?」

バーバラさん
「みんな、強制収容所に送られました。まずサンタアニタ競馬場に送られて…馬小屋に住まわされました。強い衝撃を受けました」

隣人たちが連れていかれる日の朝、バーバラさんのお母さんは、みんなに朝食を用意したそうです。
バーバラさんは、その時のことについて…

バーバラさん
「私は悲しくて泣いてしまいました。でも日系人たちは毅然としていました。つらかったはずなのに。雨は降っていませんでしたが、柔らかな霧が立ち込めていました。まるで、天が涙を流しているかのように。みんないなくなってしまうのですから」

「友人であり隣人」に落とされた原爆 市民たちは「みんなお祝いしていた」

そして、8月6日。初めて原爆が生きている人間の上に落とされました。

3日後には、長崎にも…

2発の原爆は、この年だけで、21万人以上の命を奪いました。

綾瀬はるか
「そのときの町の様子は?」

バーバラさん
「原爆が落とされたと知って、みんな、お祝いをしていました。でも被害の大きさを思うと、私は、複雑でした」

アメリカ政府は「原爆が戦争を終わらせ、アメリカ人の命を救った」と謳い、8割以上のアメリカ人が原爆投下を支持しました。

綾瀬はるか
「子どものころから親交のあった日系人たちが突然、戦争をきっかけに敵になってしまったことについて、バーバラさんは、どんな気持ちになりましたか?」

バーバラさん
「心が痛みました。だって彼らは、友人であり、隣人でしたから。彼らが苦しんでいるのをみると、私もつらくなります。とても感情的になります。何十年たっても…」

またも歪められた報告書…「放射線の影響はない」

原爆開発に携わったノーラン医師。放射線の危険性を訴えていた彼は、原爆投下をどう見ていたのか…
ノーラン医師が、調査団の一員として広島に派遣されたのは、終戦の1か月後でした。

調査団のひとりは、「地面に何千もの体が転がっていた。人々はどうすることもできずに苦しんでいた。何千もの腫れた黒焦げの顔があり、潰瘍のできた背中があった」と当時を振り返っています。

その後、調査団は長崎にも入ります。ノーラン医師たちは、被爆後早々に多くの患者を受け入れた海軍病院に向かいました。
辿り着いた病院の中は地獄でした。

患者はけがや火傷だけではありませんでした。
髪が抜け落ちたり、歯茎から出血したり…放射線が原因とみられる症状をノーラン医師も無数に目にしたはずです。

ジェームズ・ノーラン・ジュニアさん
「祖父と一緒にいたスタッフォード・ウォーレン医師は、こう証言しています。『病院に行くと、けがをした被爆者たちが床に横たわっていた。翌日また病院を訪ねると、彼らの多くが亡くなっていた』と。彼らは、人々が死んでいくのを目撃したのです。爆風や火災だけでなく、放射線被ばくの影響を見ていたのです」

被爆の現実をつぶさに目にしたノーラン医師たちは、入院患者33%に放射線の影響が認められ、その半数が死亡したと報告書をまとめます。

ところが、報告書を受け取った陸軍・グローブス少将が連邦議会で証言した内容とは…

『爆発の瞬間を除き、放射線の影響はありません。一瞬の被害だけでした。負傷者の数は比較的少なかったです』

トリニティ実験の時、訴えを無視した少将は、ここでも報告書を大きくゆがめたのです。軍にとって“原爆は非人道的”というレッテルは不都合なものでした。

軍に“忖度”した医師 ただ一度だけ語った“あの時のこと”

ノーラン医師の孫・ジェームズ・ノーラン・ジュニア教授は、祖父たちにも軍への忖度があったのだろうと言います。

綾瀬はるか
「ノーラン医師が提出した報告書は正確だった?」

ジェームズ・ノーラン・ジュニアさん
「ウォーレン医師と祖父が、グローブス少将の議会証言のために提出した報告書は、正確だったとは思います。でも私は実際には、彼らが現地で見たものを過小評価していたと思っています。グローブス少将が好む形になるように、いわば調整していた、と」

原爆開発は軍の指揮下にあり、医師の立場は弱く、結果、軍に加担してしまったのだろうと教授は推し量ります。

アメリカの核開発は続きましたが、ノーラン医師はほどなくしてロスアラモスを去ります。命を守る医師として尽力し、67歳で亡くなりました。

ノーラン医師の甥、ビル・レイノルズさん。ビルさんは、晩年のノーラン医師との交流の中で、一度だけ“あの時のこと”を聞いていました。

ビル・レイノルズさん
「私が覚えている限り、彼は『ただただ、想像を絶する体験だった』という、一言だけを口にしました。かなり言いにくそうにしていました。彼は恐らく本当に話したくなかったんでしょう」

80年を経て医師の孫が被爆地・長崎に贈ったもの 

祖父の思いを形にしようとジェームズ・ノーラン・ジュニア教授は動きました。

今年5月、長崎にそれは届きました。真新しい教会の鐘です。
東洋一の大聖堂から被爆地ナガサキの象徴となった浦上天主堂。

ここには鐘が2つありました。1つは原爆で大破。
ジェームズ・ノーラン・ジュニア教授は、これを復元し、寄贈したのです。

8月9日、長崎に響き渡った鐘の音。
その場にいたジェームズ・ノーラン・ジュニア教授は、この鐘が希望と平和、そして連帯へとつながることを願っていますと話しました。

また、バーバラさんは戦争で引き裂かれた日系人との絆を取り戻そうと、ホームステイを受け入れるなど、日本人との交流を大切にしています。

今の世界を見て、思うこととは…

バーバラさん
「人々は分かり合えず、世界中で戦争が起きています。とても悲しいです。人間は向き合って、話し合い、理解しようとしないといけない」

(2025年8月14日放送 戦後80年特別番組『なぜ君は戦争に? 綾瀬はるか×news23』)

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