戦時下のハンセン病患者をめぐるギャラリー展

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2025-08-19 16:51
戦時下のハンセン病患者をめぐるギャラリー展

戦争をテーマにした初のイベント

東京・東村山市にある国立ハンセン病資料館では、8月31日までギャラリー展「戦後80年 戦争とハンセン病」が行われています。
このギャラリー展は、千代田区にある「しょうけい館(戦傷病者史料館)」と共催する、資料館として初めての「戦争」をテーマとしたイベントで、戦時下のハンセン病療養所の様子や戦争に巻き込まれた沖縄の療養所、そして「軍人らい」と呼ばれた、戦地でハンセン病にかかった兵士などに関する展示があります。

【写真で見る】「戦後80年 戦争とハンセン病」展示の様子

ハンセン病は、国による患者の強制隔離といった間違った対策が原因で、患者やその家族が差別を受けるなど人権問題になりました。
今回の展示を企画したのは学芸員の吉國元さんです。

戦争がハンセン病患者の隔離を強化し、患者・回復者の被害をより深刻にしました。
戦争では有用な身体とそうでない身体が選別され、そういった時期にハンセン病患者は強制収容の対象になりました。
そういった国が行ってきた過ちをちゃんと見ること、そしてそれを後世に伝えることによって、病と障害を理由にした差別が二度と繰り返されない社会の実現を願って本展を企画しました。

戦時中の療養所

今回のギャラリー展のキャッチコピーは「戦争と隔離、ふたつの苦難を生き抜いた」。
隔離された療養所では、もともと患者自身が様々な作業を行っていました。
例えば包帯は使い捨てではなく、洗って何度も再利用するのが普通でした。
戦時中は物資の統制で包帯の供給も無くなり、着物(反物)を細長く裂いて包帯の代わりとしていました。
ギャラリー展では花柄の「包帯」が展示されています。

そんな戦時中の様子を、戦後30数年経って、東京の療養所の入所者が綴った文章にはこんなことが書かれています。

多磨全生園患者自治会編『俱会一処 患者が綴る全生園の七十年』(一光社、1979年)より
「空襲のときは付添いがつぎつぎに病人を背負って防空壕へ運んだ。
自分で立つことも、歩くこともできない病人たちは、暑くても寒くても、雨が降るときも夜中でも、すのこに座らされ、じっと終わるのを待つのであったが、空襲のつど、病状を悪化させ、退避させることもむりな状態におちいっていく者も多かったし、みんなが壕から帰ってみると、いつのまにか息がなくなっていた、ということもあった。
どんな病状であれ、栄養失調の状態でろくな治療も受けられず、治るはずがなかった」

多磨全生園では主に食料の欠乏を理由に、1944年には136名(全入所者の9.7%)、1945年には142名(11.6%)が亡くなりました。

また、後遺症で手足を失った人が使う道具についても吉國さんはこう話します。

国立ハンセン病資料館 学芸員 吉國元さん
「ハンセン病療養所は医療機能の在り方が非常に低劣で、患者が自ら自分たちの補装具とか義足を作らざるを得なかった状況でした。
そういった作らざるを得なかった道具を象徴するのがブリキの義足です。
非常にシンプルな作りのブリキの義足が療養所で大量生産されて、そして驚くべきことにそれは戦後まで使用されたという歴史があります」

ギャラリー展のメインに展示されている義足は、表面の皮の張りがきれいでしっかりとした作りです。
鹿児島県にあるハンセン病療養所「星塚敬愛園」にあったもので、戦争で足を失った軍人に、軍が支給したものか、恩賜として皇室から贈られたものではないかといわれています。
義足自体は患者が手作りしたブリキのものよりはるかに立派ですが、戦争で負傷し、さらにハンセン病を患って隔離された人の存在を思い起こさせます。

捕虜となり戦地で隔離された日本兵

ハンセン病にかかった軍人の一人、立花誠一郎さんに関する展示もあります。
立花さんは戦地で捕虜となり、オーストラリアのカウラ収容所でハンセン病と診断されました。
終戦後、帰国した立花さんはハンセン病療養所への入所を余儀なくされ、2017年に96歳で亡くなっています。
収容所での隔離生活中、鍛冶職人だった立花さんは手先が器用なことを生かして荷物を入れるトランクなどを作りました。
こちらも実物が展示されています。

「立花誠一郎」という名前は、ハンセン病患者であることを隠すため、療養所に入所する時に変えた名前で本名ではありません。
しょうけい館の学芸員・半戸文さんは、隔離されて軍人時代の仲間のつながりがなかった立花さんは、戦争で捕虜となった不名誉な記憶をずっと抱えたまま暮らしていた。
そして、名前を隠さなければならなかった療養所での生活を振り返ることができなかったのではないかと話します。

しょうけい館 学芸員 半戸文さん
「戦争中の出来事は『立花誠一郎』という名前で経験した体験ではなかった。
捕虜になったことをずっと引け目に感じて、本名はずっと伏せたままだったということが、軍人であったこととハンセン病の患者であったということを2つ物語っているのではないかと思います。
彼が残した体験や言葉であったり、記録をしっかり読み解くと、立花さんが残そうとしなかった、語らなかったことが少し見えてくるのではないかと思います」

ぜひ、ギャラリー展「戦後80年 戦争とハンセン病」で、立花さんが残せなかった療養所での生活を感じ取ってください。
8月24日(日)と30日(土)には、学芸員による展示解説も行われる予定です。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:進藤誠人)

■取材協力
国立ハンセン病資料館
しょうけい館 (戦傷病者史料館)

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