「時代にそぐわない」街の“裸婦像”撤去の動き 日本ではなぜ公共の場に?“平和の象徴”だったワケ【Nスタ解説】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-08-19 21:57

公園や駅前に置かれた裸婦像を「公共の場にふさわしくない」として、撤去する動きが出ています。現場を取材しました。

【写真で見る】「児童ポルノを想起」との声も…実際に移設が決まった“裸婦像”

「地域の発展を願った銅像なのに」 移転決定で作者は怒り

山形純菜キャスター:
公共の場にある裸婦像については、さまざまな受け止めや意見があると思います。

静岡駅前にある、巨匠・ルノワールの「勝利のヴィーナス」「洗濯する女」という2つの銅像について、市長が「時代にそぐわない」として移設を検討しているとのことです。

また、香川のある公園にある「女の子・二人」という銅像については、8月下旬に移設が決定しているとのことです。

こういった撤去の動きについて、世界の銅像を研究している亜細亜大学の高山陽子教授は、「公共の場にあることの影響を幅広く考慮することが大切です。(性的な表現も含め)市民の理解があれば移設の必要はないのではないか」としています。

なお、海外の裸婦像はどうなのか聞くと、公共の場にはほとんどないとのことです。

そして、今回移設が決まった香川の「女の子・二人」の作者である彫刻家・阿部誠一さんは「地域の発展を願った銅像なのに、なぜ移転するのか。そのまま残してほしい」と話していました。自治体からは話がなかったとのことで、怒りの感情も湧いているようです。

井上貴博キャスター:
もちろん、裸婦像にアート・芸術としての価値はある。一方で、それを公共の場に展示することに違和感がある気持ちも、時代的にはわかる気はします。

しかし、どういう変遷をたどっていくか、「こういう意味でこの像がここにあるんだよ」と子どもに伝えていくことも教育ではないかと思います。

東京大学 斎藤幸平 准教授:
裸の像に限らず、たとえばアメリカでもコロンブスの銅像は「侵略者だからなくしていこう」とするなど、時代と共に価値観が変わっていくことはあると思います。

そもそも「平和だから女性の裸の像を建てよう」という発想自体が安易です。

井上キャスター:
別に、男性の裸が平和の象徴でもいいわけですしね。

東京大学 斎藤幸平 准教授:
かつての女性を対象として見るような、ジェンダー的に問題があるような価値観に根づいているとすれば、アートとしての価値も下がってくると思います。

出水麻衣キャスター:
「どういった経緯で」というところも、きちんともう1回学び直すことも大事ではないでしょうか。

二宮金次郎も時代に翻弄? スマホ普及で銅像が…

山形キャスター:
ほかには、どのような点が問題になるのかについても専門家に伺いました。

亜細亜大学の高山教授は「公共の場の裸婦像は『台座が低い』ことが多く、それが問題になるケースもあるのではないか」と指摘しています。

公共の場の銅像の高さは、身分に比例するということです。たとえば為政者の像、つまり、政治で名を成した者の像が一番高くなります。

そのあとに英雄の像、偉人の像が続き、女性の像や子どもの像は台座が低いということです。

為政者の例をみると、岐阜駅前にある織田信長の銅像は台座が約8mと、かなり高さがあります。

出水キャスター:
台座が低い女性の像は目線に入りやすくなり、より近くに見えて気になってしまうということなのでしょうか。

山形キャスター:
また、高山教授は「台座が低いので裸婦像に触れられる。その行為が周りに不快感を与える場合もあるのではないか」とも指摘しています。

では、なぜそもそも公共の場に裸婦像が建てられるようになったのか、歴史をみていきます。

高山教授によると、戦前は公共の場に軍人・偉人の銅像が建てられていましたが、戦時中に金属不足などで撤去する動きになりました。

そして戦後、空いていた所に裸婦像を設置すると平和の象徴として認識が広がっていき、各地に裸婦像が多くなっていったということのようです。

銅像を巡る動きは、ほかにもあります。

例えば二宮金次郎像は努力の象徴などで建てられていますが、ある小学校では、約10年前から「歩きスマホを助長する」という声が上がりました。そこで、立って読むのではなく、座って読書をしている銅像に変えたということです。

井上キャスター:
個人的にはそこまでやらなくていいのではないかと思いますが、組織や企業、自治体や学校としては、リスクを回避したいということなのだと思います。我々テレビも、恥ずかしながらクレームに過剰反応するところはあるわけです。

しかし、全体から見てどのくらいの数なのか、どういう意見なのかを冷静に見ないと、全部が全部を見誤ってしまうことにつながりかねないのではないかと思います。

東京大学 斎藤幸平 准教授:
単に文句を避けるだけだとつまらない社会になっていきますし、アートの役目とは、何が美しくて何が美しくないかという線引きを問い直すことでもあると思います。

これをきっかけにみんなで議論し、新しい銅像も作ったらいいのではないでしょうか。

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<プロフィール>
斎藤幸平
東京大学准教授 専門は経済思想・社会思想
著書『人新世の「資本論」』50万部突破

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