「伝統の祭り」復活へ アワビ250万個ほぼ全滅、自宅が全焼…被災した若者たちの奮闘 大船渡・山火事から半年【news23】

平成以降、国内最大となった岩手・大船渡市の山火事の発生から半年。爪痕が色濃く残るなか、100年続く夏祭りを復活させようと奔走した人がいます。家や仕事を火事で失った20代が祭りにかける思いを追いました。
【写真で見る】“若者が運営”の夏祭りを応援 飾り作りを担う高齢者
市の約10%が燃え…自宅は更地に
岩手県大船渡市、三陸町の綾里地区で、100年続く夏祭り。伝統芸能や色とりどりの出店が盛り上げます。
半年前、祭り会場の近くにも火が迫りました。2025年2月に起きた山火事。鎮火までは約1か月半を要し、市の面積の約10%が焼け、住宅など226棟が被害に遭いました。
仮設住宅で暮らす東川今さん(27)は、生まれ育った自宅が全焼しました。
自宅が全焼 東川今さん(3月)
「いざ目の前にすると、もうこの家には帰れないんだと思って」
あの山火事から半年、今さんの自宅は更地になりました。
東川今さん
「もうほぼほぼ、何もない形ですね」
仮設住宅に住めるのは2年間。同じ場所に再建する準備を進めています。
東川今さん
「自然もすごく好きですし、人柄の良さにも励まされてきているので、そこは変わらず、やっぱりここに住みたい」
7月末の時点で解体が終わったのは、被害にあった建物のうち、わずか3%。近所には引っ越しを決めた人もいるといいます。
アワビ250万個 ほぼ全滅
山火事による被害は、住宅だけではありません。
大船渡で3代にわたり、アワビの養殖をしている古川翔太さん(29)。東日本大震災で津波に流された養殖場が、今度は山火事の被害に遭いました。
元正榮北日本水産 古川翔太さん
「アワビがひっくり返って、全部死んでしまってるのを見て、やっぱり駄目だったか」
約250万個のアワビは山火事の停電で酸欠になり、ほぼ全滅しました。水槽に海水を送るパイプも焼けました。被害総額は5億円から6億円の見込みです。
アワビは出荷できるサイズに育つまで3年かかります。わずかに生き残ったものもあと1年半かかります。出荷ができない間の人件費が課題です。
元正榮北日本水産 古川翔太さん
「もともと(従業員は)14人くらいいたが、今は2人だけこちらで作業してもらって、それ以外は在籍出向や転籍出向に」
古川さんと今さん、2人が実行委員を務める「夏祭り」
生業を失った古川さんと、家が全焼した今さん。2人が実行委員を務めるのが、綾里地区の夏祭りです。
自宅が全焼 東川今さん(6月)
「今回6年ぶりに夏祭りを開催するので」
若者が運営を担うのが伝統。コロナ禍で2024年まで中止が続いていました。
復活に向けて動いていた矢先に起きた山火事。開催が危ぶまれる中、声を上げたのが今さんでした。
地元の人への説明を重ね、クラウドファンディングでは全国へ支援を呼びかけました。突き動かすのは、大船渡への思いです。
東川今さん
「大船渡全体を盛り上げていきたいと思いながら数年過ごしてきた。この気持ちがより一層、火事があったから強まった。久しぶりに先生方から連絡がきたり、心の繋がりを実感できたし、私も何かお返しができたらなと思って」
100年続く夏祭りを心待ちにしているのは、若者だけではありません。
山火事で全員が避難した高齢者施設は、祭りの資金を支援しました。入居者が飾り作りを担当しています。
入居者(92)
「(Q.自身が夏祭りに参加したのは?)青春時代、何十年も前。新しい浴衣を着て、下駄を履いて。いつものようにはできないが、まず人が集まってくれれば」
入居者(96)
「素晴らしいよ、綾里は」
やぐらの周りには笑顔 夏祭り「これがスタート」
ついに迎えた夏祭り。やぐらの周りに笑顔が広がります。今さんたち、実行委員も大忙しです。
祭りに来た人
「たのしかった」
「すごく久しぶりの開催だったので、懐かしい気持ちで見てました」
「復興するために、まずみんなが元気にならなきゃいけないと思うので、そのためにこの祭りはすごくよかったと思います」
2000人以上が集まった夏祭り、フィナーレは餅まきです。
アワビを生産 古川翔太さん
「これがスタートだと思います。みんなで被災からの復興を成し遂げていきたい」
若者たちが祭りに向かって駆け抜けた夏、復興への道のりは続きます。
自宅が全焼 東川今さん
「本当に、夢見ていた光景そのものでしたね。私1人の力ではこんなこともできないし、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今まで以上に活気ある綾里にしていきたい。これを励みに、みんなで頑張りたいと思います」