【プリンセス駅伝展望】世界陸上マラソン7位入賞の小林香菜、1年前に自身で驚いた走りを再び見せられるのか

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2025-10-16 17:00
【プリンセス駅伝展望】世界陸上マラソン7位入賞の小林香菜、1年前に自身で驚いた走りを再び見せられるのか

女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(11月23日・宮城県開催)の予選会であるプリンセス駅伝 in 宗像・福津が19日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースに31チームが参加して行われる。上位16チームにクイーンズ駅伝出場権が与えられる。

【出場31チーム全選手一覧】19日号砲!プリンセス駅伝に世界陸上マラソン7位入賞・大塚製薬の小林香菜がエントリー

9月の東京世界陸上女子マラソン7位入賞の小林香菜(24、大塚製薬)が、自身2度目のプリンセス駅伝を走る。小林は学生時代にランニングサークルに所属していた選手。初めての実業団駅伝が昨年のプリンセス駅伝だったが、エース区間の3区で区間2位と自身も驚く快走を見せた。3か月後の大阪国際女子マラソン(日本人トップの2位:2時間21分19秒)で東京世界陸上代表入りを決め、本番では7位入賞。実業団入り後の1年半を、破竹の勢いで走り続けている。

世界陸上から1か月。自身もチームも万全の状態ではない中で、今年はどんな走りを見せるのだろうか。

初めて前半からハイペースに挑戦した昨年のプリンセス駅伝

小林にとって実業団入り後のレースは、今に至るまで初めての経験の連続だった。

入社当初はポイント練習(週に2~3回行う強度の高い練習)の設定タイムを聞くだけで、尻込みしていた。しかし9月の全日本実業団陸上10000mでは32分22秒98で7位(日本人3位)。翌10月のプリンセス駅伝3区(10.7km)で34分18秒の区間2位。10人を抜いてチームを2位に浮上させ、大塚製薬の6位通過に貢献した。

河野匡監督はレース前日まで、「最初からハイペースで入る小林はイメージできない」と話していた。駅伝では多少のオーバーペース覚悟で前を追う走りも求められるが、市民ランナーとして走っていた小林にはその経験がなかった。

しかしプリンセス駅伝の小林は最初の1kmを3分05秒で入った。トップ選手たちと肩を並べて走った全日本実業団陸上でも、最初の1000mは3分15秒である。過去に経験したことがないレース展開に、どうしてチャレンジできたのだろうか。

「今回の世界陸上もそうでしたが、レース前に自信はあまり持てないタイプです。しかしその場になると自然と、(速いペースで)突っ込めてしまいます。特に去年のプリンセス駅伝は1、2区の先輩が良い位置でタスキをつないでくれて、良い間隔で前に選手がいたので、1人抜かしたらまた次の1人と目標があって、気がついたら10人を抜いていました」。

プリンセス駅伝の快走を合図に、小林のロードでの快進撃が始まった。

実業団入り後、多くのレースで驚きの走りを見せてきた小林

だが翌月(24年11月)のクイーンズ駅伝は振るわなかった。プリンセス駅伝と同じ3区に起用され、3人を抜いてチームを13位まで引き上げたが、区間順位は11位で、区間賞の五島莉乃(27、資生堂)には1分28秒もの差を付けられた。10日前の練習中に転倒した影響で、本番までに一度だけポイント練習(チーム内の選考)をして出場した。膝は2針半縫う裂傷で、抜糸もできていない状態だった。

しかし1週間後(12月1日)の防府マラソンでは2時間24分59秒で優勝した。マラソン用の練習は行わず、「大阪に向けて練習の40km走の1本目」(河野匡監督)と位置づけて出場した。5km毎を17分10秒前後で中間点を1時間12分13秒で通過した。前半は想定通りだったが、後半も1時間12分46秒とイーブンペースで走り切り、想定を大幅に上回るタイムでフィニッシュした。

その結果で大阪国際女子マラソンに向けての練習を、日本代表を意識したレベルで行うことを河野監督は決断した。米国アルバカーキで30km変化走など、かなり高いレベルで行うことができた。さらに、帰国して1月12日に出場した全国都道府県対抗女子駅伝9区(10km)を、32分27秒の区間5位で走った。本調子でなかったとはいえ、五島や田中希実(26、New Balance)といった日本代表経験選手を、マラソン練習を行っている最中の小林が上回ったのだ。

その走りを見た河野監督は、大阪国際女子マラソンの先頭集団で走ることを小林に提案した。大阪では5km毎を16分45秒平均で走り抜き、中盤までは16分30秒前後のハイペースも3回刻んでいた。そして東京世界陸上ではスタート直後に先頭に立ち、世界トップ選手たちの前を走った。小林はマイペースを貫いただけだったが、初めての世界大会でその走りができてしまうのは驚きだった。

2年前まで市民ランナーとして走っていた小林にとって、多くのレースが自身の殻を破る機会になった。そうしたレースを繰り返すことで小林は成長し、本人の意識も少しずつ、世界で戦う選手に変わっていった。昨年のプリンセス駅伝だけが特別だったわけではない。

世界陸上から1か月後の難しいタイミング

それでもプリンセス駅伝は、小林にとって印象に残る試合となっている。

「マラソンに直接つながったわけではありませんが、初めての実業団駅伝で、それもエース区間を任せていただいて、10人を抜くことができました。それは嬉しいことでしたし、そこから徐々に、注目してもらえるようになったレースです。思い入れがある大会になりましたね。嬉しかったと同時にあと3秒で区間賞だったので、嬉しさと悔しさを両方感じる不思議な気持ちも味わいました。これがスポーツの醍醐味なのかな、と感じたことを覚えています」。

そのプリンセス駅伝に、今年はまったく違う立場で臨むことになる。メディアなど世間からは当然、“世界陸上マラソン7位”の選手と見られる。トップ選手たちに思い切り挑むだけだった状況から、自身の実績が上であることを自覚せざるを得ない状況に変わる。スピードも毎回、自己最速レベルが出るわけではない。そのときに調子が良くない、と思わないメンタルになることも重要になる。

しかし駅伝では、自分はまだまだ格下という意識で臨むことができる。「自分はメインがマラソンで、駅伝では長くて10kmなので得意な距離ではありません。その距離でもトラックの代表選手たちと勝負できることは、とても嬉しく思います。挑戦であり、楽しめる機会ととらえています」。

ただ今回は、世界陸上から1カ月というタイミングで、小林は脚の状態が万全ではない。河野監督は「疲労と脚の状態を確認しながら、無理のない区間に起用することになります。チーム事情を勘案しながらになりますが、過度な負担をかける使い方はしません」と話している。

小林にとって今年のプリンセス駅伝は、状態が悪い中でどのくらいの走りができるかを試すレースとなる。少し見方を変えれば、これまでのように挑戦する走りになる。万全でない状況でも想定を上回る走りができれば、今後マラソンで世界と戦うときの引き出しが1つ増える。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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