【東日本実業団駅伝】吉田響がプロランナーに進んだ理由 特徴的な強化スタイルと駅伝急成長中のサンベルクスとの融合

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2025-11-02 06:00
【東日本実業団駅伝】吉田響がプロランナーに進んだ理由 特徴的な強化スタイルと駅伝急成長中のサンベルクスとの融合

第66回東日本実業団駅伝が11月3日、埼玉県の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場及び公園内特設周回コース7区間74.6kmで行われる。

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今年の見どころは上位候補チームの多くで大物新人選手が走ることだ。前回3位のサンベルクスには吉田響(23、創価大出)が加入。大学1年時に箱根駅伝山登りの5区で区間2位と好走し、“山の神”を目標に走ってきた選手だが、大学4年時にはエース区間の2区で区間歴代2位、日本人歴代最高タイムの快走を見せた。実業団駅伝では新興チームのサンベルクスを、強豪チームに成長させることが期待されている。(ルーキー特集 3回/全4回)

第1区 13.1km 競技場2周+周回コース1周(4.1km)3周
第2区  8.2km 周回コース2周
第3区 16.4km 周回コース4周
第4区  8.2km 周回コース2周
第5区  8.2km 周回コース2周
第6区  8.2km 周回コース2周
第7区 12.3km 周回コース3周

最長区間でもスピード区間でも結果を出してきた選手

注目されている大物ルーキーはサンベルクスの吉田、GMOインターネットグループの太田蒼生(23、青学大出)、富士通の篠原倖太朗(23、駒大出)、ロジスティードの平林清澄(22、國學院大出)の4人。

吉田は「同学年は意識しています。駅伝でも個人でも活躍している選手がいっぱいいるので、自分も負けない走りを、勝っていく走りをしたい」と、同学年対決に意欲を見せている。

篠原、太田、平林の3人は出雲全日本大学選抜駅伝6区(10.2kmの最長区間)、全日本大学駅伝7区(17.6kmで2番目に長い区間)で直接対決をした。それに対し吉田は出雲が2区(5.8kmの最短区間)、全日本も2区(11.1km)と3人とは別区間に出走していた。

箱根駅伝だけが2区(23.1kmの最長区間)で篠原、平林と直接対決した。留学生選手に12秒届かず区間2位だったが、従来の区間記録を上回る歴代2位、日本人最高記録で走った。

箱根駅伝では長い距離の区間で学生トップの力を示したが、吉田は出雲2区で区間賞、全日本7区は区間賞と1秒差の区間2位。スピードも学生トップレベルあることを、昨シーズンの学生駅伝で実証している。

「(長い距離への持久力だけでなく)スピード持久力が自分の一番の強みで、長い距離なら(1kmあたり)2分50秒でしっかり押して行くことができます。短い距離では、昨年の出雲は2分43秒くらいで押して行くことができました。きつい状態でもペースを維持できることが武器になっています」

東日本実業団駅伝では、最長区間の3区(16.4km)でも、4区間ある最短区間(8.2km)でも力を発揮できる。吉田本人は「スピード区間でも走れるのですが、どちらかというとロングの区間が得意なので、長めの区間を走れたらいいな」と希望している。

吉田が強くなった理由は“クロカン”

吉田の成長や決断の背景として、“クロカン”が極めて重要な要素になっている。クロスカントリーは、ゴルフ場や丘の多い公園など、箱根駅伝5区ほどではないが、なだらかなアップダウンが多い地形を走る。欧米ではレースとして盛んに行われているが、日本ではトレーニングとして取り組むことが多い。

今年4月にプロランナーとなった吉田の専任コーチである瀧川大地氏(37)は、「最初の3カ月間はトラック0.5、クロカン9.5くらいの感覚で練習しました。吉田のこれからの10年を考えたときに、試合に出るよりまず、そこをやりたかった」と説明する。

吉田もクロスカントリーを走ることの効果を実感している。「傾斜の大きい裾野市の水ヶ塚公園を走ることもありますし、相模原のコースは細かいアップダウンがあって四頭筋が鍛えられます。山登りも平地もコアをぶらさないように走ることが重要になってきます。そのコアを鍛えることがクロカンではできるんです」

箱根駅伝では5区だけでなく、2区でも中盤の権太坂と、難所と言われる中継所前の“戸塚の壁”で強さを見せてきた。「どこまでのレベルを求めるかにもよりますが」と前置きをした上で、「同時進行で上りの走りも平地の走りも、かなり良いラインまでは行くと思います。それが今年は、例年より上手く進んでいます」

クロカンの重要性を認識したのが、大学1年時(当時東海大。3年時から創価大)に足底を故障したときだった。「他に5区候補がいなかったので、(当時東海大コーチだった)瀧川さんとマンツーマンでリハビリトレーニングをやり始めたのがきっかけでした。それまでは関節や骨にダメージが来やすいタイプでしたが、クロカンをやっていくうちに状態が良くなって、箱根の5区で良い走りができました」

吉田は大学1年時の箱根駅伝後に、卒業後はプロランナーの道を選択肢として考え始めたという。当時、プロランナーとして活躍していた選手もいたが、クロカンを続けるために考えたのがプロランナーの道だった。

「実業団チームに入ると練習環境が限られてしまうかもしれません。トレイル(舗装されていない山道や林道、河川敷などを走るアウトドアスポーツ)にも出場したかったので、プロが一番良いのでは、という考えを持ち始めました」

3年時の箱根駅伝後に、プロランナーになる決断を下した。4年時は覚悟が固まり、成績が上向いたと吉田は感じている。「選手として強くなりたいなら、(クロカン中心に練習ができる)プロという立場を自分で作っていかないと、この先やっていけない」

クロカンを最重要視したことで故障が減って成長しただけなく、プロランナーという道を自ら切り拓いていく決断ができた。

吉田とサンベルクスの化学反応で3位以内に

大学卒業後はプロランナーとして走って行くことを決めていた吉田と瀧川コーチに、サンベルクスが提案をした。駅伝で戦力となってもらうことを条件に、吉田のプロランナーとしての自由な活動を認めるという内容で、両者は直接的な労働契約関係を結ぶことになった。

サンベルクスは14年3月創部の新興チームだが、前回の東日本実業団駅伝で3位。市山翼(29)が3月の東京マラソンで日本人1位(2時間06分00秒)になるなど、近年注目を集めている。吉田も8〜9月はサンベルクス・チームの北海道合宿に合流し、週に2〜3回行う負荷の大きいポイント練習は一緒に行った。

瀧川コーチが説明する。「上岡宏次監督と相談して、監督の立てるメニューとも擦り合わせをしました。これだったらチームの強化にも、吉田の強化にもなると考えました」

ほぼクロカンだった練習から、駅伝と、その後の初マラソンも見据えて、ポイント練習ではロードやトラックも走った。「市山選手がキツいポイント練習を簡単にやることに刺激を受けましたし、今までやってこなかった、ポイント練習翌日にセットで距離走を行ったりすることも、何パターンかやりました」

上岡監督は、サンベルクスの選手たちにもプラスになったという。昨年までは東日本実業団駅伝の成績は良くても、元旦のニューイヤー駅伝では15~17位が続いていた。東日本にピークを合わせるため夏に走り込む量が若干不足し、11月の記録会で翌年の日本選手権などの標準記録を狙う必要もあるため、元旦にピークを持っていけなかった。

「今年の夏合宿もポイント練習は例年と同じでしたが、ポイント練習にプラスアルファで走ったり、翌日に色んなことを自主的にやったりする選手が増えました。響が来たことで、去年とチームの雰囲気も変わってきています」

東日本実業団駅伝の目標は3位以内。前回優勝のGMOインターネットグループ、2位のヤクルト以外にも、ニューイヤー駅伝2位のHonda、同5位のSUBARU、代表クラスが多数在籍する富士通と強豪チームがひしめく。

創部からチームを率いてきた田中正直総監督は、吉田の加入で今後、東日本実業団駅伝の優勝を狙っていくチームになっていくことを期待する。「昨年のGMOが1区で飛び出しましたが、ウチも今年は前半で先頭集団に加わりたいと思っています。4区の選手も良い走りをするはずです。4区までは自信を持っていますし、5区以降も当日、力を発揮する練習、単独走になってもペースを作れる練習をしてきました。5、6、7区でも順位を維持するレースができる自信があります」

吉田との相乗効果で、サンベルクスが過去最高順位の2位以内に入る可能性もある。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※トップ写真は会見の吉田選手(4月)

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